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【特集:日韓関係の展望】
黄仙惠:なぜ韓流文化は世界を席巻したのか?

2022/05/09

  • 黄仙惠(ファン ソン ヘ)

    前韓国コンテンツ振興院日本ビジネスセンター長・塾員

始まり 韓流をみる3つの視点

日本を含め、東アジアの国と地域で「韓流」という現象が起こったのは、2000年前後である。韓国大衆文化の代名詞として様々なマスコミで取り上げられてブームを巻き起こした。日本ではNHK衛星放送で韓国ドラマ『冬のソナタ』が放送された2003年を韓流元年、もしくは第一次韓流という。来年は日本における韓流が20周年を迎える。20年というのは子供が大人になり、成人として認める時間に等しい。韓流が起こった当初は「ブーム」という現象として取り扱われ、現象実態のメカニズムや原因を探る社会学的探究が多かった。そこから約20年間の韓流の歩みは、コンテンツ産業の拡大や文化交流の架け橋など、多様な変化をもたらした。

韓流が一時のブームにとどまらず、如何にして成長し続けたのか。本稿では3つの視点から考察していく。第1は、経済的な力を持つ文化産業としての側面である。韓国はコンテンツ輸出国といわれるほど、コンテンツの産業としての経済的な影響は大きい。その中で、企画段階から国内外の市場を意識した上で、国際的観点とビジネス的なアプローチを持つことは極めて重要である。韓国コンテンツの市場規模に基づき、様々なメディアおよびニーズの変化による製作環境を述べる。またドラマ、K-POP の次に控える新しいコンテンツの実態と、ビジネス戦略におけるローカルとグローバルの相互関係などを探っていく。第2に、国の文化政策としての側面である。自由な創作活動を支えるための韓国の国家戦略と支援が如何に推進されたのか、代表的な文化政策を取り上げながら施策の成果と課題について述べる。第3は、越境するグローバル文化である。ウェブメディア、ソーシャルメディアの発達によって韓国コンテンツのファンは国境を越えて拡大している。韓国コンテンツの消費形態と波及効果など、韓国コンテンツのファンダムとコミュニティーの影響について述べる。

上記、3つの視点に基づき、コンテンツという架け橋で日韓相互の文化交流のありようを描き出し、両国の未来志向の姿について示したい。

韓流を読み解くⅠ 文化産業──韓国コンテンツ市場と輸出

重要な輸出資源としての韓国コンテンツは、企画・製作段階からグローバル展開を意識することで、プラットフォームの変化と呼応して、グローバル市場においてその地位を確立した。

韓流の最前線にあるのはドラマ、映画、音楽、ゲームなどの、いわゆる韓国コンテンツである。コンテンツは時代によって定義が広げられ、近年は経済的価値と効果によって「商品」として扱われている。韓国では、コンテンツとは文化、芸術、学術的内容として創作された製作物であり、創作物を利用して再生産するすべての加工物まで包括し、文化商品ともいう。文化商品の開発、製作、生産、流通、消費と、それらの関連サービスを含む文化産業の売上高は毎年成長し続けている。

韓国の文化体育観光部と韓国コンテンツ振興院が発表しているコンテンツ産業統計調査によると、2020年の売上高は128.2兆ウォン(約12兆8千億円)で2019年の126.7兆ウォンを1.2%上回る*1。2020年は新型コロナウイルス感染症による行動制限によって主に音楽、映画、アニメーションのジャンルは大幅に減少した一方、漫画、ゲーム、放送は増加し、年平均4.9%の増加率を示した。

その中で、コンテンツの輸出入はどのようなものなのか。2020年の韓国コンテンツの輸出額119.2億ドルに比べ、輸入額は9.2億ドルであり、10倍以上の開きがある。輸出額の半分以上を占めるのはゲームで、次はキャラター、放送、知識情報、音楽の順である。

このように韓国コンテンツは重要な輸出資源であり、観光、飲食、語学など関連産業への拡大が期待される。要するに、コンテンツをきっかけに韓国の文化や社会をよく知ってもらうことができる。そこから韓国製の「モノ」を消費し、「ヒト」との交流を楽しむことを通じて、日常生活で欠かせない「カルチャー」として拡張していく。

インターネットへの最適化

全世界が新型コロナウイルス感染症拡大の影響にある中、改めて浮上したのがインターネット動画配信サービスとアプリケーションによるデジタルコンテンツ利用である。ホームエンターテインメントの需要が伸びている中で、動画配信サービスを通じて見せた韓国ドラマへの反応は素早く、正直なものだった。韓国ドラマは今までは需要がある地域や国を中心に海外展開を行い、特定の地域では韓国での放送が終わってから最短3カ月後に見ることができた。しかし、今ではグローバル動画配信のプラットフォームで新作を全世界で同時に楽しむことができる。毎週1話または2話編成の放送、DVD BOX1、2の順次発売など、メディアウィンドウ構造に縛られず、いつでもどこでもユーザー主導で全話が見られる。

このようなメディア環境の変化は、韓国ドラマの製作環境に影響を及ぼし、それに最適化したビジネスの仕組みや新たな挑戦を引き起こした。韓国内外を対象に、テレビ編成ありきのドラマと、動画配信のみの作品を切り分けることで、それぞれのビジネスモデルと戦略を差異化した。一つの物語をどのように活用し、次々とビジネス上で拡散していくかを非常に意識している。韓流として世界に展開した韓国ドラマは、グローバル展開の経験とノウハウを活かし、国際的普遍性や最新トレンドを取り込みながら、韓国独自の物語を次々と世界に伝えた。その結果、グローバル配信サービスのユーザー評価は視聴時間に紐づけられ、ランキング上位を占め続ける結果に繋がっている。これからは、サスペンス、ラブコメディー、時代劇、ファンタジー、ホラー、SFなど、あらゆるジャンルを横断して、多彩なストーリー展開と俳優の演技力が、世界を魅了し続けるだろう。

ところで、ドラマ、K-POPに続き、グローバル市場に挑戦状をつきつけるコンテンツがある。WEBTOON(以下、ウェブトゥーン)である。インターネットを意味する WEB(ウェブ)と、漫画・アニメを意味する CARTOON(カートゥーン)を組み合わせた合成語である。ウェブ上で読める漫画を指すものだが、大きな特徴をもつ。ウェブトゥーンは、スマートフォンの画面に合わせて一コマずつ縦スクロールで読む。このような特有の物語の進め方はシーンごとにストーリーと絵柄の展開を極めて意識したものになる。まさに映画、ドラマのカットのようである。ジャンルを問わず、無限に物語を描き、ウェブでアップし、それをユーザーは手軽に楽しめる。

韓国の漫画形態別利用調査によると、ウェブトゥーンのみの利用率が67.4%、紙の漫画と両方利用すると答えたのが28.6%、紙漫画のみは4%である*2。ウェブトゥーンユーザーの多くは絵柄よりストーリーに興味をもち、人気作品はドラマ、映画、ミュージカルなどに再生産される。最近注目を集めたドラマ『梨泰院(イテウォン)クラス』、『地獄が呼んでいる』、『女神降臨』、映画『神と共に』がウェブトゥーン原作の代表作品である。日本のテレビアニメ『神之塔 -Tower of God-』、『NOBLESSE - ノブレス-』、『THEGOD OF HIGH SCHOOL ゴッド・オブ・ハイスクール』も世界で人気を集めた韓国のウェブトゥーンが原作である。ウェブトゥーンはメディアに適用して物語を楽しませ、そこから新たな物語を創り出すことができる、無限の可能性を持つ次世代のグローバルコンテンツになると確信する。

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