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【特集:日韓関係の展望】
金相準:延世と慶應の交流50年──日韓私立大学の協力

2022/05/09

延世・慶應のアジアにおけるリーダーシップ

2000年代に入ると、延世と慶應は単純な交換プログラムを超える、以前とは確実に変わった協力を推進することになる。交換留学生プログラムを通さなくても両校は教育を共有できる方策を模索したのだ。それはデジタル・ラーニング・プログラム(Digital Learning Program)だった。言い換えればより多くの学生たちが、学生数に制限なく延世が提供する、または慶應が提供する教育に接続できる環境をつくる試みが始まった。他方、共同教育の結果、ダブル・ディグリー制度が推進された。韓国と日本の地理的近接性を利用しながら、より拡大した教育プログラムが推進された。そしてさらには、延世と慶應の両校協力を東アジア教育協力に拡大しようと努力した。

2001年から、延世大学東西問題研究院と慶應の湘南藤沢キャンパスが共同で韓国の延世大学、日本の慶應義塾大学、中国の2大学(上海交通大学と復旦大学)の4つの大学による学術交流プログラムを開始した。これは韓中日の主要大学がネットワークを構築し、共同教育の可能性を模索する段階だった。4大学間にリモート・オンライン教育プログラム(Distance Learning Program)のための運営委員会が設置され、単位履修が可能なリアルタイムのリモート・オンライン講義のための教育内容と日程を協議した。

同時に学術交流も行った。2002年のテーマを見ると、2002年の韓国選挙分析、儒教資本主義と1997年アジア金融危機、韓米関係の未来などが韓国側の発表テーマだった。 慶應義塾大学側では、日本の国内、地域、世界、そして新たな管理領域である宇宙まで含めた多元的ガバナンスについて発表した。中国側教授の発表は、中国の政治構造の変化、市場化と世界化などだった。これに伴い、大学院生のためのワークショップが構成された。

YKRF(Yonsei, Keio, Rikkyo, Fudan)は2002年韓日ワールドカップ開催を記念して延世大学、日本の慶應・立教大学、中国の復旦大学がMOU協約を結んで始まった韓日中学術・文化交流のための団体である。YKRFリーダーシップフォーラムの主要議題は、北東アジア地域の課題に対する理解、リーダーシップ開発、相互理解増進、ネットワーク形成などで現在まで続いている。

2004年12月12日、延世大学と慶應義塾大学は「相互オフィス設置を含む包括的協定」を締結した。これは2005年の韓日国交正常化40周年を記念するための私立大学レベルの協力だった。 延世大学と慶應義塾大学は海外拠点として、それぞれのキャンパスにオフィスを設置することと、ダブル・ディグリーについて、延世大学の鄭甲泳(チョンガプヨン)総長と安西祐一郎塾長が調印式を行った。これにより、2005年に延世大学に慶應ソウルオフィスが、慶應義塾大学には延世東京オフィスが各々設置された。そしてダブル・ディグリーは延世大学の大学院社会学科、そして大学院地域学協同課程の間で実施された。

2004年、多国間会議である「The Evolution of Digital Learning」と呼ばれる韓中日遠隔授業に関するシンポジウムが、慶應義塾大学の三田キャンパスで開催された。 延世大学、慶應義塾大学、フィリピン大学、シンガポール国立大学、ハノイ大学の副学長などが参加したに。ITよる新たな教育連携と遠隔教育のためのネットワークを構築するためのものであった。特に延世大学と慶應義塾大学が構築しようとするデジタルラーニングを東南アジア諸国にまで拡大しようという試みだった。

韓日関係の動向に影響を受けない交流

このような多国間プログラムが行われる中、延世と慶應は両校が持つ特別な意味を両校の総長に対する名誉博士号授与で表現した。2014年に鄭甲泳総長は慶應義塾大学で名誉経済学博士号を、翌年には慶應義塾大学の清家篤塾長が延世大学で名誉経済学博士号を授与された。

最近、延世大学と慶應義塾大学の交流プログラムは、その存在がいささか薄れているようだ。その理由は、両校が多様な国際プログラムを開発し、両校には世界から留学生が集まっており、姉妹校も毎年増加してきているからだ。しかし、それにもかかわらず、延世大学において慶應義塾大学が持つ意味、慶應義塾大学において延世大学が持つ意味は格別である。新しい友達をいくら多く作ったとしても、古い友達は色あせるばかりか、より輝くものだ。韓国と日本社会で繋がりが強かった伝統社会で啓蒙の役割を任った両校は、互いの役割を認めながら長い間交流してきたのだ。その交流は韓日関係の紆余曲折に一度も影響を受けたことがなかったのだ。

鄭甲泳延世大学総長(左)に名誉博士号学位記を授与する清家篤塾長 (2014年12月5日、三田キャンパス演説館)

※所属・職名等は本誌発刊当時のものです。

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