三田評論ONLINE

【特集:日韓関係の展望】
張済国:新たな韓日関係を目指して──「釜山・福岡国際特区構想」を中心に

2022/05/09

釜山· 福岡国際特区構想

釜山と福岡の間の距離は220kmに過ぎない。釜山からソウルまでの距離である400kmより近い。飛行機では35分、高速船でも3時間ほどで行ける距離である。このような地理的近接性を積極的に活用し、国際経済特区の発足を検討することができる。国境を越えた経済特区を発足することができれば、中央政治に決して左右されない「安定した」韓日関係の構築に大きく寄与できるからである。このような国際特区の構築が可能となれば、これは北東アジア唯一の国境を越えた経済協力圏という象徴性を持つことができよう。象徴性の確保は非常に重要である。韓日関係において、中央政府でなく地方都市である福岡と釜山が役割を果たすという意味を持っているからである。

周知のように、欧州にはユーレジオをはじめとする国境を越えた地域間の連携が多く存在する。デンマークのコペンハーゲンとスウェーデンのマルメ地域の戦略的連携はすでによく知られている話である。朝になると、オーレスン(Oresund)橋を渡り、国境を越えて出勤する人々が集まる姿は、超国境経済協力体の象徴となっている。最近では中国の広州· 香港· 深圳· マカオを結ぶ珠江デルタ地域が国際特区のもう一つの例である。地図を広げてよく見ると、北東アジアでこのような国際連携ができる唯一の地域が釜山と福岡だけだということが分かる。

釜山と福岡が追い求める未来産業分野には重なる部分が多い。釜山の場合、ITを組み合わせたデジタルコンテンツや映画映像などの新産業の育成に努めている。福岡の場合も、デジタルコンテンツ、映像等の分野に特化した雇用特区を追求していることから、両地域が国際特区を構築することにより生み出せるシナジー効果は非常に大きいものと期待される。デジタルコンテンツ、映画映像分野は最先端の未来産業であり、この分野における韓日協力は、未来産業分野における新たな韓日協力モデルを提示するという意味でもその重要性は高い。アイデアを持つベンチャー起業家のための国際的クラウドファンディングの立ち上げも可能であろう。

第2に、釜山-福岡間の経済協力を通じて韓日の人的資源のミスマッチをかなり解消できるということだ。韓国の場合、青年失業問題が非常に深刻である。十分な学歴と経験(インターンシップ、海外研修、奉仕活動など)を積んだにもかかわらず、大学卒業と同時に国内で就職できる職場が非常に不足しているのが現実である。これに対し、日本の場合、少子高齢化社会が進むにつれ、企業は人手不足を訴えている。最近、日本の大学4年生の就職内定率が95%に達したというのは、就職市場の供給的側面から示唆するところが大きい。このような、韓国と日本が直面している求職と雇用のミスマッチを解消できる方法が、日本企業が必要とする人材を韓国で育成することである。

第3に、釜山と福岡所在の大学間コンソーシアムを活性化することである。2007年にはすでに両都市所在の24大学が参加して協定を締結している。それにもかかわらず、まだ活性化されておらず、実質的な成果は不十分な状態である。これを積極的に活用して、仮称「釜山-福岡連合サマースクール」を設立し、大規模な交流を行うことが考えられる。このような交流を通じて相互理解が図られ、学生時代から両都市の若者間の人的ネットワークが構築できれば、卒業後の大きな資産になる。このような事業を通して、信頼を築けば、大学間の国際単位交流やキャンパスの共同使用など、より高いレベルの連携、連合が可能になるであろう。両国と両地域について深く理解する若い人材の養成は、将来の韓日関係構築に非常に重要であることは言うまでもあるまい。

もう一つの大学間協力の方策は、オンライン上の相互授業交流であろう。最近、米国の大学を中心にオンライン公開講座のMOOC(Massive Open Online Courses)が大きな人気を集めている。釜山所在の大学が保有する優れた講義コンテンツと福岡所在の大学のコンテンツを一か所に集めてB(Busan)- F(Fukuoka)MOOCシステムを構築し、このシステムを相互発信することで、両都市の大学生が自由に双方の授業を受けられる道を開くことも、両都市所在の大学間の良い戦略的提携になり得る。

最後に市民レベルの交流活性化が重要である。そのような意味で、多くの市民の関心を集め、参加できるメガプロジェクト(Mega-Project)の開発と実行が必要である。 両都市の市民が気軽に楽しめる大規模なイベント企画として、例えば、釜山と福岡で有名な屋台を集めて「韓日屋台大会」を開くのも面白いであろう。食べ物が観光商品になりつつある今、特色のある屋台店が釜山と福岡の街に出現すれば、全国から観光客を呼び寄せる効果も上げられると期待される。

そのほか、ミュージカルなど有名な公演を両都市で共同マーケティングすることで、相互往来を奨励できるであろう。 また、釜山産製品と福岡産製品をオンラインで大規模に販売するブラックフライデーセールの開催も検討に値する。中国のアリババは毎年光棍節(「独身の日」)商戦を開催し、1日に15兆5000億ウォンを売り上げたことがある。釜山と福岡にある会社が作った製品を共同で世界市場に出すことができれば、それは画期的なイベントとなると考える。

現在までの歩み

こうした「釜山・福岡国際特区」に関する構想を実現するため、この20年間、両都市は実質的な活動を進めている。まず2006年に釜山と福岡の産業界、官界、マスコミ界、学界の代表によって構成された「釜山-福岡フォーラム」を創立し、毎年釜山と福岡を往来しながら会議を開催している。本フォーラムの提案により、2009年を「釜山-福岡友情年」とし、前述の「釜山-福岡大学間コンソーシアム」を結成した。2010年には釜山福岡国際特区の設置がもたらす経済的効果を研究した報告書を発表した。また、釜山市と福岡市は経済協力協議会を設立し、超広域経済圏を作るための4大基本方向、9つの戦略、23の細部推進事業を提示した。2015年には両都市のジャーナリスト間の対話体である「釜山-福岡ジャーナリストフォーラム」を開催し、韓日関係におけるメディアの役割について討論が行われた。両都市の商工会議所は「釜山-福岡CEOフォーラム」を設置し、毎年商工業者の対話チャンネルを構築してきた。もはや議論にとどまらず、具体的な実践に移さねばならない時期に至っている。

結び

持続可能な韓日関係は、偶然に、あるいは単に「友好親善」を叫んだからといって実現できるものではない。たゆまぬ努力による信頼構築と経済的に密接な利害関係の構築が前提にならなければならない。

そのような意味で、前述した大学間コンソーシアムの活性化、企業の契約学科(特定企業の要望によって開設された学科)設置による相互の都市進出機会の拡大、釜山-福岡国際特区の構築による未来産業共同育成などは、韓日関係のバージョンアップに役立つだけでなく、韓日間の共同体意識を育む基盤づくりに寄与するであろう。

最近、韓日関係に新たな雰囲気が形成されつつあるのは事実である。しかし、少なくとも歴史に対する両国間の認識の違いが存在する限り、活火山のように不安を伴う状態が続くであろう。協力によって葛藤よりも価値のある両国間の関係を築いていく必要がある。このため、両国関係の新たなパラダイムの提示が求められる。「釜山・福岡国際特区構想」がおそらく一つの方法になると考える。

※所属・職名等は本誌発刊当時のものです。

カテゴリ
三田評論のコーナー

本誌を購入する

関連コンテンツ

最新記事