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【特集:日本の“食”の未来】
本田由佳:子どもの未来は女性の食がつくる

2022/02/04

  • 本田 由佳(ほんだ ゆか)

    慶應義塾大学大学院政策・メディア研究科特任准教授、SFC研究所健康情報コンソーシアム上席所員

「健康情報」の力と「自我作古」の精神で、低出生体重児の予防啓発に挑戦

健康機器メーカー・元研究員の私は、現在、大学の研究者として健康情報科学の研究に従事しています。IoT(Internet of Things)技術を用いて、人々の健康の状態を「見える化」し、「健康課題を抽出」することで、必要な人へ、必要な健康情報を迅速に届ける仕組み「健康情報プラットフォーム構築」の研究をしています。近年、我が国では、低出生体重(2,500g未満)が増えていることを皆様はご存知でしょうか*1(図1)。

図1 出生数及び低出生体重児(2,500g未満)の割合の年次推移(出典)厚生労働省「人口動態統計」、「健康日本21(第二次)中間評価報告書」

この背景には、医学の進歩(早期産児の割合の増加)、多胎児妊娠の増加、喫煙以外に、日本人女性のやせ願望・スリム志向による摂取エネルギー不足や栄養不良の問題が大きな理由になっているとの報告もあります*2。さらに周産期分野では「DOHaD(Developmental Origins of Health and Disease)」という概念が提唱され、妊娠前・妊娠中の女性の食や生活習慣が胎児に影響を与え、将来的に子の生活習慣病のリスクを上げることも明らかとなっています。人生百年時代、高齢者の健康支援・ケアに力が注がれることが多い日本で、自覚症状がない若い女性の健康課題に光をあてた研究を進めることは、なかなか困難な場合もあります。しかし、これから生まれてくる子どもたちは、30年後、50年後の社会を支える世代です。IoTやAI技術の活用で、若い女性の栄養状態や食行動を「見える化」し、必要な時に必要な健康情報を提供できれば、低出生体重児を予防できる可能性はあります。大きな挑戦ではありますが、慶應義塾の「自我作古」の精神を基盤に、諦めずに挑戦し続けていく必要があると考えています。

若い女性の「やせ対策」研究を進める理由

世界では栄養不⾜と栄養過多が併存する「栄養不良の二重負荷」の拡大が大きな問題になっています。新型コロナウイルス感染症は、この問題に拍車をかけていますが、その一方で、我が国においては若い女性の❝摂食障害❞が急増していると報告されています*3。若い女性のやせは、低出生体重児出産のリスク以外に、糖尿病リスクの増加、不妊、骨量減少に影響する可能性があります。早期の「やせ対策」は将来的には医療費削減にも繋がることから、いくつかの先進国では、2000年頃から若い女性の「やせ」に関する社会・政治的な規制が設けられています。その一方、日本では規制はなく(図2)、未だにやせている女性が美の基準で、メディアではもてはやされています。

図2 世界の健康美体格基準と規則

この状況に鑑み、昨年、私共は「若年女性における体格別、理想体格・生活習慣・月経状況のweb調査(364名; 31.4±6.0歳)」を実施しました*4。分析の結果、若い女性の「理想体重」は、実際の体重よりも平均的に4.1kg低いこと、「やせ体格を目指す若い女性の割合」は、BMIやせ群で約9割、BMI普通群で約3割であることが明らかとなりました。「やせていることは美しい」という現在の美の概念を「健康的な普通体格はカッコいい」という概念に変えるために、今後、やせすぎモデルの規制、普通体重維持の教育・啓発、生活習慣の改善、前思春期からのプレコンセプションケア(妊娠前健康管理)の啓発・普及などを、進める必要があると考えています。

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