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【特集:日本の“食”の未来】
鈴木隆一:AI味覚センサーが引き出す日本食の力

2022/02/04

  • 鈴木 隆一(すずき りゅういち)

    AISSY株式会社代表取締役社長、慶應義塾大学大学院理工学研究科特任講師・塾員

AI味覚センサーが日本の食を飛躍させる!

私は、あらゆる食べ物、飲み物の味を、5つの基本味(甘味・塩味・酸味・苦味・うま味)に分解して数値化できる味覚センサー「レオ」を開発して、商用化しているAISSYという会社の代表を務めている。AISSYは慶應義塾大学での研究成果を基に、慶應から出資を受けて起業した会社である。社名は、Artificial Intelligence SensingSYstems の略だが、見えないもの(味覚)を見える化するということから、"I see(アイシー)"の音も掛けたもう1つの意味もある。

レオで色々と分析しているうちに、食を通して日本の明るい未来が見えてきたと感じている。ここでは味覚センサー技術を紹介した後に日本食のポテンシャルについて書きたいと思う。

きっかけは日吉のラーメン屋

レオのルーツは慶應の学部生時代に遡る。学部2年生の時に日吉キャンパスの近くに、決しておいしいとは言えないラーメン屋があった。本当に1日にお客さんが5人しか来ないようなお店だ。いきさつがあり、慶應の友人数名と、そのラーメン屋の経営を手伝うことになったのだが、その時に交わした味についての議論が非常にやりにくかった。私自身は理系なので、数字を使って議論するのが当時から好きだったのだが、味の話にはまったく数字の話が出ず、「もう少し塩分を抑えよう」とか「このトッピングを入れて少しうま味が出るようにしよう」などと非常に定性的な話に終始した。この時に味覚を数値化する潜在的なニーズを感じた。

その後、学部4年生になり、現在のレオの基となる技術を指導教員であった鈴木孝治教授(当時)や先輩たちが研究しているのを見て、ラーメン屋の経験と結びついた。食品メーカーや飲料メーカーでは私がラーメン屋で経験した以上に味の議論をしているはずだから、数値化したいと考える顧客がいるはずだと考えたのだ。それまでも味覚センサーは一応あったのだが、甘味を計測できないこと、線形の解析手法のため精度が低いことが課題としてあった。

慶應で開発されたAI味覚センサーは、それまでの味覚センサーの課題を解決する画期的な技術シーズだったので、事業としても十分勝算を感じ、大学院修了後にすぐにAISSYを起業した、という経緯である。

技術要素は電気化学+AI

AISSYでは、慶應義塾大学と共同研究を行い、電気化学センサーで検出した成分濃度についてニューラルネットワーク解析という味覚の相互作用を考慮した解析手法を用いることで、人間が感じる5味(甘味・塩味・酸味・苦味・うま味)をセンシングできる技術を開発した。味覚センサーの概念図と誤差比較は図1のとおり(誤差が小さいため、人の味覚を再現できていると言える)。ニューラルネットワークは、昨今ブームとなっているAIの基本となる概念である。

図1 人間の味覚と味覚センサーの概念図(上)と誤差比較

レオは、商品開発の現場では、いかに目標となる味に近づけるかといった用途で使われることが多い。マーケティングでは、甘味やうま味が高いということを売りにして、売上を伸ばす顧客企業が多い。ご興味がある方はこちらのサイトをご覧いただきたい。

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