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【特集:日本の“食”の未来】
石川慎之祐:粉砕技術で野菜廃棄を解消する

2022/02/04

野菜粉末の多様な利用方法

この製法でつくられた野菜粉末は、体に必要な栄養成分、色素成分、食物繊維を生の野菜に限りなく近く保持しているため、様々な用途で活用することができる。筆者らが運営するVegeminは、野菜粉末が栄養を濃縮している特徴を活用したブランドである。粉末化することで野菜の栄養は10倍ほどに濃縮され、わずか3gの粉末でサラダ1皿分相当の野菜の栄養を摂取できる。現在、Vegeminは野菜が苦手な子どもを持つ子育て世帯や野菜不足に悩む単身世帯、食が細くなる高齢者世帯において利用されている。加えて、加工食品の製造においても栄養を添加することができる原材料として着目されている。

また、色素成分に着目すれば、染料として活用することもできる。豊島株式会社のフードテキスタイルは、野菜で染めたアパレルブランドを展開している。粉末化することで色素抽出効率を高めることもできるだろう。

その他にも、食物繊維を活用すれば植物性プラスチックのようなものをつくることもできる。株式会社事業革新パートナーズのHEMIXは食物繊維の一種であるヘミセルロースを活用した100%植物由来生分解性プラスチックである。このような繊維の活用においても、粉末を用いることができる。

図3 粉末の多様な利用方法

活用が進む廃棄野菜の行方

このように日本国内だけでも廃棄野菜を有効活用する取り組みが多数存在している。特に注目されるのは「アップサイクル」と呼ばれる、単なる素材の原料化、その再利用ではなく、元の製品よりも次元・価値の高いモノを生み出すことを目的としている取り組みだ。生活者は持続可能性だけを意識して購買行動を起こすのではなく、その商品の価値自体を感じて購入に至る。これは、至極当然のことではあるが、持続可能性を志向するあまり、生活者のニーズとかけ離れた商品をつくってしまうケースも少なくはない。

今後、筆者らのようなベンチャー企業だけでなく、中小企業や大企業を巻き込んで、新しい価値を社会へ提供していかなければならない。このような取り組みが増えれば増えるほど、生活者はより豊かになり、生産者は廃棄が減少した分利益を確保することができるようになる。アップサイクルの取り組みを通して社会全体を持続可能なものに変えていくべく、これからも多くの挑戦をしていきたいと思う。

〈注〉

*1  環境省 「我が国の食品廃棄物等及び食品ロスの発生量の推計値」(令和元年度)

*2  農林水産省 「令和2年産指定野菜及び指定野菜に準ずる野菜の作付け面積、収穫量及び出荷量」

*3  山形県公認地方卸売市場 (株)丸勘山形青果市場 ほうれん草規格表

*4  農林水産省 「食料需給表」(令和元年度)

※所属・職名等は本誌発刊当時のものです。

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