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【特集:ジェンダー・ギャップに立ち向かう】
ジェンダー・ギャップ指数に見る男女の雇用格差

2020/04/06

女性活躍と非正規雇用

女性活躍推進というと管理職比率に関心が集まりがちだが、日本の女性雇用者の半数以上が非正規労働者である。

図表3は、雇用者に占める非正規労働者の割合(以下「非正規雇用比率」)を年齢階層別に見たものである。男性は若年層と高年齢層が高く、中年層が低い。一方の女性は年齢に伴い上昇していく。このグラフを私は「胃袋型」と呼んできた。総務省「労働力調査」(2018年)によると、女性雇用者の56.1%が非正規雇用であるのに対して、男性は22.2%である。

このグラフは、欧米諸国と比べるとかなり特異である。欧米では、女性も日本の男性の形に近く、中年以降の非正規雇用比率は低い。実際、欧米の非正規雇用比率には、男女差があまり見られない。例えば、非正規雇用比率(全年齢)の低いアメリカで男性4.1%に対し、女性3.8%(2017年)、この比率の高いスペインで男性26.0%、女性27.7%(2018年)であった(OECD調査) 。

日本の女性の非正規雇用比率の高さは、かなり特徴的と言えるのだが、日本では、女性が非正規であってもさほど不思議だとは思わないようでもある。ちなみに、2015年11月、厚生労働省から非正規雇用比率が4割になったことが発表されたときにメディアは大きく取り扱った。しかし、女性の非正規雇用比率が5割を超えた2003年(総務省「労働力調査」)、それはほとんど注目されなかった。

図表3 男女別・年齢階層別の非正規雇用比率(2008年、2018年)

パートタイム労働の特殊性

どうして、日本では非正規雇用に関するこうした特徴が生まれるのか。その理由として、日本のパートタイム労働の特殊性が挙げられる。日本では、パートタイム労働者というと、賃金や他の労働条件が正規労働者よりも劣る非正規労働者(non-regular workers)として取り扱われることが一般的である。これに対して、語源となった英語のパートタイム(part time)は、労働時間が短いという意味しかない──正確には、「part time」に「労働時間が短い」という意味しか持たせないように法の整備を進めてきた。

EU諸国でも1980年代以降、フルタイムの正規雇用以外の働き方(非典型雇用)が増え始めた。そこでEUでは低賃金労働の広がりを避けるため、1997年にパートタイム労働指令、1999年に有期労働指令、2008年に労働者派遣指令を策定した。これに従い各国は典型・非典型雇用間の「均等待遇」確保に向けて法整備を進め、そうした取組みの中で非典型雇用の待遇が改善されてきた。

一方、日本では良質の短時間雇用機会が少ない。女性が結婚し、出産後に退職すると、再就職先は多くが非正規雇用になるため、離婚でもした場合には子どもの貧困にもつながっていく。日本の貧困問題は、ほとんどがシングル・マザー問題に辿り着くのだが、その根源的な原因が、再就職する女性に非正規の雇用機会しか準備されていない日本の労働市場にあるとも言える。まして、そうしたリスクを想定する人たちは、結婚や出産にも躊躇する。この国の将来を考えるうえで、女性の高い非正規雇用比率、そしてそれを促している被用者保険における適用除外などの見直しが強く求められているのは、そうした理由にもよる。

いわゆる「同一労働同一賃金」

非正規労働者の待遇改善に関しては、2007年のパートタイム労働法の改正により、均等・均衡待遇や、通常の労働者への転換の推進に関する選択的措置義務が導入された。その後、2008年秋の金融危機後、2012年の労働契約法の改正により、有期雇用契約労働者について5年経過後に期間の定めのない労働契約に転換できる仕組みが設けられるなど、いくつかの法改正が行われ、非正規労働者の待遇改善が進んできた。

そして、こうした取組みを拡張する形で、2018年6月に働き方改革関連法が成立した。同法に基づき、今年4月からは、いわゆる「同一労働同一賃金」が導入される。なお、厚生労働省は「同一労働同一賃金の導入は、同一企業・団体におけるいわゆる正規雇用労働者と非正規雇用労働者の間の不合理な待遇差の解消を目指すもの」と説明しており、国際標準的な意味での同一労働同一賃金ではない。日本版「同一労働同一賃金」は、日本の労働市場を抜本的に変えるものではなく、非正規雇用の問題が一気に解決することは見込めない。

ジェンダー・ギャップ指数と日本

先にも述べたように、日本でのジェンダー・ギャップは、政治分野、経済分野が顕著であり、特に、閣僚、国会議員、そして管理職に占める比率の男女差が大きかった。このうち女性管理職比率は、女性社員比率と相関がある。女性の管理職を増やしたいのであれば、女性の管理職登用に注目するだけでなく、女性労働者全体が能力を発揮できる環境を整備することも、やはり重要であろう。

そして、日本の労働市場では、正社員の働き方の柔軟性が低く、良質の短時間雇用機会が少ない。このため、フルタイム(しばしば残業つき)で就業できない場合、正社員に比べて待遇の劣る非正規雇用という選択肢しかないことが多い。女性雇用者の過半数が非正規で働いているというのは、他の先進国と比べて極めて特徴的である。

こうしたファンダメンタルな問題の解決と、閣僚、国会議員、管理職に占める比率の男女差の間に、どの程度の関係があるのかは分からない。政策としては、ジェンダー・ギャップ指数を改善することも重要であろうが、日本の労働市場が抱える根深い問題にも取り組んでもらいたい。

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