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【特集:ポピュリズムをどう捉えるか】
比較の中のラテンアメリカのポピュリズム

2020/02/05

ポピュリズムを生む歴史的な文脈

以上述べたように、ラテンアメリカのポピュリズムの包摂性の第2の中核要素は、ポピュリズム指導者への支持が貧しい人々に集中する性格がより強く、その層についてはより広範な支持となることに現れると言えよう。全国レベルで政権に就く運動がヨーロッパに比べて多いことも、この特徴に関連する(政権に就く場合が多い理由として、ラテンアメリカ諸国が総じて大統領制であることが重要なのも明らかだが)。その前提は、社会的・政治的に排除されている考える人々が多く存在したことである。しかし、経済政策と1対1で対応していないことが示すように、ミュデらのもののような、貧しい人々が多い、または、「近代化」が遅れているという単純な図式ではそれを理解できない。自らが排除されていると考え、強い不満を持つ人々が社会に大量に存在する歴史的な文脈が重要だと考えるべきだろう。

政治に代表を持たず、社会的に排除されていると考える社会層が広く存在した時期に着目すれば、ポピュリズムが波として現れたこと、そして、必ずしも「経済的包摂」と合致しない場合があったことが説明できる。第1の波の典型的な諸事例では、特にペロンのポピュリズムでそうだが、工場労働者が重要だった。その説明では、工業化の進展で都市に出てきて、それまでの社会的絆を失い、単純なアピールに惹かれやすい、いわゆる「操作されやすい大衆」が支持基盤であったとの議論が支配的であった。労働組合がペロンを支持したことなどが検証され、その議論は強く批判されるようになる(研究動向については、松下洋の諸文献など)。しかし、それまで自分たちが政治的代表を持たず、社会的にも差別されてきたと考える大量の人々がいて、自らをその代表であるとしたペロンを強く支持したことは否定できない。第1の波のポピュリズムが軽工業の発展を基盤にしていること(エクアドルにおけるポピュリズムを部分的な例外として)は、通説的な理解である。

第2の波以降においては、ポピュリズムの主な支持基盤が、正規労働者ではない、いわゆるインフォーマル・セクターの人々や失業者などであることを、多くの研究が明らかにしている。民主主義が継続するようになったことを前提に、既成の主要政党がそれらの人々を代表していない状態で、その層が拡大する社会経済的な変化(グローバル化と表裏一体の)が起こったことを背景として、そのような人々の不満に訴えた指導者が支持を集めた。時代の要請に従い、政権に就いて新自由主義改革を行った結果、一時的には経済成長やインフレ解決に成功したメネムやフジモリは、ある程度の期間、広範な支持を維持できた。経済の困難の原因が新自由主義にあると認識されるようになった時期には反新自由主義を政策的な主張で重視して民衆層の代表であるとアピールする指導者が、インフォーマル・セクターの人々を中心として、広範な支持を集めた。

〈参考文献〉(言及した中で、特定の英文文献のみ)
Dani Filc, “Latin American Inclusive and European Exclusionary Populism: Colonialism as an Explanation,” Journal of Political Ideologies, Vol.20, No.3 (2015), pp.263-83.
Cas Mudde and Cristóbal Rovira Kaltwasser, “Exclusionary vs. Inclusionary Populism: Comparing Contemporary Europe and Latin America,” Government and Opposition, Vol.48, No.2 (2013),pp.147-74.

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