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【特集:ポピュリズムをどう捉えるか】
欧州統合とポピュリズム──「リベラルEU」対「反リベラル・ポピュリズム」

2020/02/05

今後の展望──「地政学的コミッション」のゆくえ

EUが世界のGDPに占める割合は、2016年に約22%で、約25%のアメリカに次いで第2位となっている。また、EUは約5億人の人口を抱え、世界の輸出入でそれぞれ15%を占め、米中と並ぶ世界最大の貿易圏の一つである。イギリスのEU離脱でEUの立場は低下するものの、その経済パワーは依然として強大である。

2019年11月、フォン・デア・ライエン氏は欧州議会で、「地政学的コミッション」がEUで早急に必要とされていると演説した。一般に地政学とは、国際関係における地理的要因を重視して、国家安全保障や外交政策を考える立場を指す。また、ボレル外務・安全保障上級代表(コミッション副委員長)も、12月1日の就任演説で共通外交・安全保障政策の行動原則として現実主義を掲げ、権力政治の世界において「戦略的目標と利益に関する明確な共通ビジョン」が必要とされると表明した。この背景には、気候変動対策に関するパリ協定やイラン核合意からの脱退など、多国間枠組みの「破壊者」であるトランプ米大統領がEUを「敵視」していること、デジタル監視技術を駆使した権威主義的体制のゆえに、EUが統治モデルをめぐる「システミック・ライバル」 とみなす中国の台頭、プーチン大統領の下で高まるロシアの軍事的脅威などがある。そのような中、EUは「多国間主義のチャンピオン」という立場を維持しつつも、超大国が地政学と経済的利益の追求を組み合わせた対外政策を進めていることに対抗して、EUが得意とする貿易を武器に他国と同盟を形成し、安全保障と経済的利益を追求するという姿勢を打ち出している。

貿易政策はEUの権限事項であり、原則として加盟国の全会一致を必要としない。しかし、共通安全保障・外交政策は全会一致が行動原則である。このため、貿易と安全保障を結びつける「地政学的コミッション」が十分機能するためには、その前提として各国首脳で構成される欧州理事会および外務理事会(各国外相を構成員とする閣僚理事会)での全会一致が常に必要である。それは必ずしも容易ではない。たとえば、ハンガリーのオルバン首相は「反リベラル国家」としてロシアや中国を自国モデルとする一方、外交ではアメリカのトランプ政権を支持して、チェコおよびルーマニアとともに、2018年5月、EUがアメリカ大使館のテルアビブからエルサレムへの移転決定を非難する共同声明を出すことを拒否した。

このように、EUは内部においてポピュリスト政党に揺さぶられているだけでなく、外交・安全保障分野でもポピュリスト政権国がロシア、中国やアメリカの意向に与して、EUの共通行動をブロックするというリスクに直面している。リベラルEUの動向がグローバル社会の自由な秩序のゆくえを左右する。

※所属・職名等は本誌発刊当時のものです。

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