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【特集:変わるインドと日本】
インド市場の魅力と課題

2019/11/05

ベンチャー投資市場の課題

このように、隆盛が目立つインド経済だが、国内のベンチャー投資に焦点を絞ってみると、少し別の景色が見えてくる。ベンチャーキャピタルからベンチャー企業への投資は、2015年にピークをつけて以降、減少傾向にあり、2017年にはピーク時の半分程度に落ち込んでいる。特に顕著なのが、スタートアップ企業に対する投資の減少だ。

その理由を私なりに考えてみると、(1)インドでのITビジネスは既に中国などで確立されたビジネスモデルの移植が多い。他国の競合相手もインド参入を虎視眈々と狙っていたため、自国スタートアップには厳しい状況である。(2)中国と異なり、インドは英語が公用語であるため、中国(韓国、日本)のような自国の言語を差別化要因とした囲い込みが難しく、他国企業に先行を許しやすい。(3)インドマーケットが巨大であるため、海外に目が向きにくい傾向があった。(4)米国では収益・利益が計上される前のスタートアップ企業であっても、大手IT企業による買収や資本提携が日常茶飯事である。それに対して、インド企業は情報開示に消極的なことから、外資による買収が起こり難い等、ベンチャー投資家にとっての出口戦略が限られてしまう。

ちなみに、私どもが個別で見ているインドのITベンチャー企業の中で、最近業績が好調に推移しているのは、中国国内市場のシェアの切取りに成功した企業である。競争の激しい業界において、今後はますますクロスボーダーでの売上げを念頭において事業を考える必要がある。

もっとも、世界に類を見ないほど多様な文化に裏付けられるインド市場を網羅的に理解することはほとんど不可能であろう。しかし、大国となる運命にあるインドに対する投資機会は、今後増加することはあっても減ることはないと考えられ、知らないではすまされない。そして何より、インドは面白いのである。

※所属・職名等は本誌発刊当時のものです。

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