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【特集:裁判員制度10年】
裁判員制度は刑事手続を変えたか

2019/10/05

4 到達点と課題──まとめにかえて

裁判員制度の導入は、同制度対象事件の第一審公判手続を変容させたのみならず、裁判員裁判非対象事件の公判手続、さらには公判手続に先行する捜査・公判準備や後行する控訴審をも変容させた。

その変容は、肯定的に評価できる方向へのものである。国民の司法参加によって刑事手続全体を改革しようとする平野の構想は――平野の主張した参審制度ではなく裁判員制度によってではあるが――現実のものとなりつつある。

もっとも、裁判員制度に伴う課題も存する。擱筆するに際し、同報告書に基づいてこれらの課題を整理しておこう。

公判前整理手続については、その長期化傾向が指摘されている(公判前整理手続期間の平均値は、平成21年では2.8月であったが、最も長期化した平成29年では8.3月であった。38頁)。公判前整理手続期間が長期化すれば、その分、被告人にとって様々な負担が増す。このため、十分な対応が求められる。

長期化傾向は、審理期間や開廷時間、評議時間についても指摘される(38頁以下)。すなわち、平均審理期間は平成21年に5.0月であったものが平成30年には10.1月まで長期化している。また、平均開廷時間は平成21年に526.9分であったものが平成30年には640.3分まで、平均評議時間は平成21年に397.0分であったものが平成30年には778.3分まで、それぞれ長期化している。

これらの長期化傾向のうち評議時間について、総括報告書は、3年後検証で裁判員経験者が評議時間が短かったとする意見が多かったことに照らして「裁判官が長めに評議時間を設定していることが要因の一つと考えられる」、「納得いくまで十分に議論したいという裁判員の事件に取り組む真摯さの表れというべきであって、否定的に捉えられるべきものではない」とする(15頁)。

しかし、これらが長期化すれば、裁判員の負担のみならず、被告人の負担も増大する。また、同報告書も指摘するように、「評議での議論が判断の分岐点以外の点にまで拡散し、そこに時間を費やしているという可能性も考えられないではない」(15頁)。裁判員にとって必要かつ十分な評議時間が、いっそう適切に設定されるべきである。

裁判員候補者の辞退率・出席率の動向もやや気がかりである。現在のところ、「制度施行から今日に至るまで、裁判員の選任に具体的な支障が生じた事例はない」とされるものの、「辞退率の上昇、出席率の低下という傾向」が続いたことも指摘されているためである(2頁以下。ただし出席率は平成30年から好転し始めた)。

※所属・職名等は本誌発刊当時のものです。

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