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【特集:裁判員制度10年】
裁判員制度は刑事手続を変えたか

2019/10/05

3 控訴審・裁判員裁判非対象事件への波及

総括報告書は、「裁判員裁判の取組や理念の波及」との小見出しの下、控訴審や裁判員裁判非対象事件の審理に及んだ影響についても論じている。

すなわち、同報告書によれば、控訴審の事後審としての性格が徹底され、従前より破棄率も、控訴審において事実の取調べが行われた事件の割合も低下している(控訴審が平成18〜20年に終局した事件〔第一審が裁判官裁判〕では17.6%であった破棄率は、控訴審が平成24年6月から平成30年12月末に終局した事件〔第一審が裁判員裁判〕では10.9%に低下した。同様に、事実の取調べが行われた事件の割合も78.4%から53.6%に低下した。21頁以下)。

また、同報告書は、裁判員裁判非対象事件においても、「刑事訴訟法の本旨に立ち返った裁判は、……実現されるべきものである」とした上で、「当該事案における真の争点、すなわち判断の分岐点はどこか、その判断のために最良の手続、証拠は何かという発想」によって、「裁判員裁判のプラクティスの目的を踏まえた上で、非対象事件の事案においてそのプラクティスを活用する必要性・相当性があるのかどうかを十分に吟味することが必要である」とする(23頁)。

さらに、裁判員裁判対象事件においても、(非対象事件も含めた)全事件においても、保釈率が上昇傾向にある。

前者においては、平成18年から平成20年(裁判官裁判時代)においては4.5%であったが、平成24年6月から平成30年12月末(裁判員裁判時代)においては10.7%まで上昇している。また、後者においても、平成20年の14.4%から平成30年の32.5%まで上昇しているのである。

総括報告書は、裁判員裁判対象事件における公判前整理手続につき、「柔軟かつ幅広い証拠開示が早期に行われるようにな〔った〕」とする(7頁。そのような姿勢が現れた判例として、最決平成19年12月25日刑集61巻9号895頁、最決平成20年9月30日刑集62巻8号2753頁参照)。

積極的な証拠開示は、裁判員裁判対象事件についてだけ行われているわけではない。

公判前整理手続は裁判員裁判を実施するための不可欠の前提であって、裁判員裁判対象事件においては必ず行われるが、それ以外の事件については任意的に行われるに止まる。また、刑事訴訟法は公判前整理手続での証拠開示につき詳細に規定するが、公判前整理手続が行われない場合については明文の定めを置いていない。

しかし、「柔軟かつ幅広い証拠開示」は、裁判員裁判対象事件および裁判員裁判非対象事件であって公判前整理手続に付された事件のみならず(すなわち、公判前整理手続に付された事件のみならず)、公判前整理手続に付されなかった事件において行われている(齊藤啓昭ほか「裁判官・弁護士座談会〈特集・近時の刑事裁判実務──裁判員裁判制度スタートから7年経過して〉」LIBRA16巻6号(2016年)3頁〔神山啓史発言〕参照。さらに、同5頁山本衛発言・齊藤発言も参照)。

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