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【特集:サステナブルな消費】
持続可能な森林管理と木材消費

2019/08/05

民間の持続可能な森林管理の取り組み

森林問題においては行政による強制では限界があり、民間の活動も大事だという認識は世界で広く共有されている。日本では政府の多額の補助金(業界経済規模に対してだが)が森林に投入されることで、林業活動はほとんど林野庁の意向によって左右されている。そのため民間活動を持続可能な森林管理の重要なプレイヤーとして見る意識が低い。

国際的には影響力の大きい様々な民間レベルの活動があるが、その多様な活動が森林において、消費者までを巻き込んで、森林認証という制度が必要だとされた。既に政府間の議論とは別に、1992年の地球環境サミット以前から森林減少、熱帯雨林の荒廃の現状を打破するため、森林認証制度の必要性が語られ始め、林業者、木材消費者、流通業者、環境団体、人権団体らの代表によって、1993年、FSC(Forest Stewardship Council=森林管理協議会)設立総会がカナダのトロントで開かれ、26カ国から130人が参加、初の理事会メンバーが選ばれた。この年、初めてのFSCFM(森林管理が対象)認証がメキシコで行われ、CoC(加工・流通が対象)認証が米国で生まれた。

FSCは適切に管理した森林からの林産物であることを証明するシステムによって消費者の選択を推進する仕組みを持っており、市場メカニズムを利用し、消費者の理解と購買力により責任ある森林管理を支えていく。

先進国では木材貿易を通じて、世界各国からの木材を原料とする製品を消費しており、言い方を変えれば先進国の社会は開発途上国の森林や生物多様性を犠牲に成り立っているといってもよいかもしれない。日本もその1つである。現代社会の生活は消費を前提に成り立ち、その多くは貿易によって成り立つ。消費者は自分たちの消費しているものが、どこでどのような状態で生産されたかは知る機会は少ない。

森林由来の製品は実は木材だけでなく果実や紙や繊維、薬品など多様なものを提供している。これらがどの森から来たか、その森がどのように管理されているかなどは、農作物以上に気づくことはないが、消費者の選択の基準に森林の管理の状態などに思いを抱くことが大事になってくる。これを実現させた制度がFSCである。

日本林業の持続性

一方、日本は国内の森林は、近世の歴史上もっとも豊かな状況となっている。江戸時代に入る17世紀には既に人々が利用できる森林は伐採されていて、ゆえに「留山(とめやま)」のように強い規制をかけて森林を守る必要があった。燃料はもちろん、家も橋も港や河川改修や新田開発、船や漁具全て木材だった。江戸時代以前に既に城や社寺建築で木材は過剰に伐採され、江戸時代に入ると都市の拡大、明治期にも発展する産業のための建築用材、燃料として採伐され続け、太平洋戦争の戦時用材の強制伐倒、戦後復興用材と、森林は常に開発された。結果、長い間日本は洪水に苦しめられた。

1964年に輸入丸太の関税は概ねゼロとなったが、当時の日本の森林は15年生以下が70%を占めるほど若い林ばかりで、輸入木材が国内の木材需要を満たしていった。それ以前に1950年代から70年初めまで、毎年30万〜40万haの植林が行われ、20年間に800万ha程度が植えられた。現在の人工林全体が1000万haだから8割となる。それらが成長し日本の国土の70%が森林に覆われ、人工林は伐採もできる50年生前後の森林が多くなった。

今の日本の森林問題は、良くも悪くも森林の樹齢が高くなり、森林の木材の量、つまり森林蓄積が増加し続けていることに起因している。戦後長い間輸入木材に頼ってきた日本の木材事情により、国産材の大量加工流通の整備が遅れ、また山からの立木を伐採して平場に持ってくる伐採搬出の技術や体制も旧態依然で、それぞれの近代化が遅れた。政府は多額の補助金で近代化をけん引しているが、その効果は限定的で、山から木材製品にする行程の生産性は上がらない。

そのような状況の中で木材の自給率は一時期17%まで落ちたが、現在は36%に向上し、国内で作られる合板は8割以上が国産材で作られている。それ自体は喜ばしいことではある。しかし、一時期下がった木材製品の価格自体は昭和から平成に代わる時期の比較的高い価格まで戻っているのだが、その当時は製品価格の約20〜30%が山側の立木価格(山で生えたままでの木の価格)であったものが、現在は4〜5%になっており、山林所有者の所得が非常に低くなってしまっている。伐った跡に再び植えるのはほとんどが森林所有者であり、そこに今まで育てたリターンが入らなれば次の再造林は行われなくなる。森林再生は自然に任せれば良いといっても実際は、もし植えないままに森林の回復を待てば、植林より20年間ほど遅れるだろうし、場所によっては森林にならない場合が出てくる。現状では、再度植える森林所有者はまれだから、日本の森林は荒廃を招く可能性がある。

国内では林野庁が間伐を推進するために作業に直接かかる費用を負担する形で補助しているが、この補助が結果的に山側の立木価格を引き下げることとなっている。大量に市場に丸太が供給されると当然価格は下がって、ゆえに国産材は使われるようになる。使われれば木材価格が上がるはずだが、それは柱や板の製品の価格が上がるだけで、山には還元されない。

今後は山から木を伐り、製材工場までの徹底したコストダウンと、製材工場のコストダウンを行うことで、山側に利益が出る状況を作る必要がある。

※所属・職名等は本誌発刊当時のものです。

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