【特集:障害と社会】
座談会:これからの障害者雇用を考える
2018/12/05
社会とのつながりを持つには
中島 社会的に必要とされている仕事を福祉という枠の中に囲い込むのではなくて、もっとオープンに出していくということで社会とのつながりもできていくわけですね。
出縄 そうです。障害者への就労支援という意味では、施設職員は企業の方々よりもノウハウや比較優位がありますし、企業の労務管理の負担も軽くなる。障害者の働き方を見て本当に優秀な人は直接雇用することもできる。そして障害が重くなったり、不安定になったら施設へ戻っていただく。その企業で働くということは変わらない。ご本人にとっても行ったり来たりできるという仕組みはいいのではないかと思います。
中島 今のお話は、まさにスウェーデンがやっているサムハル型です。サムハルという国営企業では、そこで働いている障害者の人たちはいろいろな企業へ行って、清掃や品物を揃えたり、様々な仕事をする。生産性の面では直接雇用するほど給料は払えないので、企業が直接雇用しているわけではない。
出縄 私の施設ではしまむらさんで働く場合、今、時給400円です。パートさん2人分を4、5人でカバーするというかたちです。
中島 サムハルの場合は人件費の9割を補助金でカバーしています。でも9割までしか補助金を出していない、ということは、1割分は社会的な余剰が発生している。そういう点では必要とされている仕事をやっているということになるわけですね。
出縄 時給400円というのは、最低賃金の3分の1以上をクリアしていますから、B型の福祉施設にとっては大変有難いのです。自立可能な福祉的就労のモデルになり得る。工賃還元率は極めて高いのです。
中島 本当に戦力になっていますよ。
出縄 今、人手不足ですので、スーパーさんもすごく喜ばれています。
中島 三井さん、社会にとっての障害者雇用について企業の立場からどのようにお考えでしょうか。
三井 障害者の方はやはり一様ではなく、すごく多様な存在なのだと思っています。僕も障害者雇用を知らない段階では障害者という存在はモノトーンで画一的な存在でした。でも、あらゆる方がいらっしゃる。いろいろな生き方、いろいろな志向、いろいろな能力の方がいらっしゃるので、その能力を生かしていける環境をいろいろ用意できればと思います。
出縄さんが企業での雇用は難しいというお話をされていましたが、本当にそうです。われわれは今、障害者の方に1年間に1000人会って、採用できるのは20人ぐらいなのです。でも、彼らの中には、特例子会社という守られた世界ではありながらも、リクルートグループの中で他と伍しながら仕事をするんだと思っている方もいます。一方、福祉的な就労を前提にした方もいらっしゃいます。ですから、いろいろなものが用意されているかたちがよいのではないか。
民間企業がどこまでできるかということはありますが、民間企業で働きたいという方には、幅広く選択肢を用意していきたいと思っています。
社会に役立つという実感
中島 関村さん、今、日本は世界と比べても精神科の病床数が人口比で突出して多いですし、入院期間も長いと言われています。そういう中で精神障害の方が社会と、とりわけ雇用を通じてどのように関わっていくか。今後どのような社会を望むか、お話しいただけますか。
関村 健常者の方もそうかもしれませんが、障害者にとって仕事を得る、お金を得るというのは、とてもかけがえのないものなのです。
お金を得ることだけであれば障害年金もありますが、それにプラスして仕事の収入を得るという機会にはなかなかめぐり合えないわけです。お金がすべてということではないのですが、障害者にとって仕事をしてお金を得るということは本当に大切なものです。
お金があれば友達とも交流できるし、いろいろな場にも出られる。でも、なかったとしたら社会との接点がなくなり、孤立を深めてしまう。お金というのは、そのくらい障害者にとって大切なものだということを理解していただきたいと思います。
私は前職は介護士をやっており、今は社会保険労務士として障害年金の仕事をしているので、その部分でも障害者とお付き合いがあります。統合失調症である自分でも、クライアントさんや介護利用者さんから「有り難う」と言われることがある。仕事をすることが人の役に立ち、こんな自分に「有り難う」と言ってくれるんだと思うと涙が出てくるんですね。
自分が社会に役立っている、ということを実感できるという意味で、仕事というのは障害者にとって本当に大切なものですし、仕事に就くことによって体調が回復される方も中にはいらっしゃいます。初めて給料をもらったときの喜びはいまだに忘れられませんね。本当に嬉しかったです。
職場で障害者を雇うということは、根本的には障害への理解だと思うんですよね。そこが欠けると何もなくなってしまう。
上智大学や淑徳大学などに、統合失調症の体験談や障害年金の基礎知識を教えに行く機会がありますが、若い学生さんたちへのメンタルヘルス教育は将来の日本の精神保健福祉にとって、大切な先行投資になります。
この活動は、障害当事者として大きな社会貢献の1つだと自負しておりますし、このような活動が全国に広まっていったらいいな、と思っています。
中島 有り難うございました。当事者の方ならではのお話でした。
最後に一番長く障害者雇用に携わってこられた丸物さん、今までのお話を踏まえて、今後に向けてどのような方向性をお考えになっているか、お話しいただければと思います。
丸物 関村さんが「仕事をすることで、社会に役立っていると感じられた」とお話しになりましたが、まさにそれを実感できる社会というのがこれから目指す社会だと思うんですよね。
今、一番社会に欠けているのは障害者に対して理解しようという気持ちです。それを、これからどのように醸成していくかが長期にわたってやらなければいけないことです。
精神障害の方は仕事とのミスマッチが多く、短期間で辞めてしまう方も多いのです。これは、周囲の人たちの障害に対する理解不足から生じていることが多いと思います。
また、関村さんがおっしゃらなかったので申し上げたいのですが、障害者がお互いに平等の立場で話を聞き合う、「ピア・カウンセリング」が最近また見直されています。精神障害は自分の苦しいことを他の人にいろいろと話すことによって楽になる。また他の人からその人の経験談を聞くことによって自分の対応方法を考えます。健常者も同じですが、聞いてもらうというのはすごく大きな意味のあることなのです。
ところが、主治医である精神科医は非常に忙しいので、1人の患者さんに対して15分も30分も聞いてくれない。そうすると、精神障害の方にとっては非常に不満が残り、主治医をどんどん変えていき、結局、信頼できる主治医がいないという方がたくさん出てくるのです。
そこで主治医はピア・カウンセラーを連れてきて自分の代わりに患者の話を聞いてもらうようにする。ピア・カウンセラーはもともと精神障害の当事者ですから、置かれている状況もよく分かるし、相手もストレートに何でも話してくれる。
そうやって聞いた話をコンパクトにまとめて、精神科医に伝えるのです。精神障害の当事者の方にピア・カウンセラーとなって仕事をしてもらうことは、精神科医にとって、とても有り難いことなのです。
また、ある会社に全盲の課長さんがいて、この方は視覚障害者向けの新しい商品を開発する仕事をしています。視覚障害者である自分が一番困っていることをアイデアにして、商品開発をしているのです。
企業はこのような障害当事者だからできる仕事を幅広く見つけ、作り出していくことが大切だと思います。障害者の方にその仕事をやってもらうことによって、社会の人たちは、「この人がこういうことをやってくれたから自分たちは楽になった」と実感する。そうすることによって、障害者は社会における居場所ができる。居場所ができると、社会における共生という考え方が当然出てきます。
だから、私たちがやらなければいけないのは、障害当事者でなければできない仕事を数多く作ることだと思います。そうすることで障害者に対する理解が深まっていくのではないでしょうか。
中島 どうも有り難うございました。大変いいお話でした。
皆さんのお話を伺って、障害者雇用は、実は障害者だけの話ではないのではないかという感じがしました。本人とちゃんと向き合って、その人にとってどういう環境や働き方が一番望ましいのか。その人に本当に合った仕事は何か。障害者の方にとってはそのことが目の前の重要な課題ですが、これはすべての働く人にとっても必要です。
障害者雇用の重要性をそのように位置づけていかないと、雇用の現場の人たちに関心を持ってもらえないという感じもいたします。そして、今日の座談会を通じてまさに実感したことですが、今、注目されている「働き方改革」も、柔軟な雇用形態によって「働き方を人間に合わせる」という障害者雇用の発想を取り入れれば、幸福度と生産性の向上という一石二鳥の効果につながっていくと思います。そういう点では障害者雇用は「社会を映す鏡」といえるのではないでしょうか。
今日は本当に有り難うございました。
(2018年10月19日収録)
※所属・職名等は本誌発刊当時のものです。
2018年12月号
【特集:障害と社会】
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