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【特集:障害と社会】
座談会:これからの障害者雇用を考える

2018/12/05

企業からのチャレンジ

中島 次に、リクルートで障害者雇用に関わっていらっしゃる三井さん、企業の立場から、この10年の進展についてお話しいただきたいと思います。

三井 10年前というとリーマンショックが起きた年でしたが、その後、景気が回復していきました。僕は今から7年ほど前にこの仕事に就いたんですが、その時期から、障害者雇用については、法的な部分の拡充と併せて、まさに拡大に次ぐ拡大という時代だったと思っています。

課題はいろいろありますが、まずポジティブな部分で考えると、法定雇用率という数字があるがゆえに、企業としてのわれわれはいろいろなことにチャレンジせざるを得なかった。

僕が来てからのチャレンジは3つあったかと思います。1点目は、それまでは受け入れていなかった精神障害者の方を受け入れました。仲間としてどうやって働けるか、いろいろ工夫して彼らの能力を生かせるところを模索してきました。

2点目は、免疫障害の方を受け入れました。この方たちは身体障害というより社会的障害というところで、一緒に働くことについて周囲がまだまだ抵抗があったと思います。そのような方たちを会社の中で受け入れる素地を、勉強会などを開いて徐々に作り、今、30人ぐらいの方を受け入れていて各部署に1人ずつぐらいいる、という感じです。このようになると皆さん、「じゃあこの会社で働こう」と来ていただける。

3点目は、地方の在宅勤務の方の受け入れです。地方に住む障害を持った方の中には、優秀なのに仕事にリーチできないために働けずにいる方がいるのではないか、という仮説を立てて、それを始めました。今、52人の障害のある方が地方の在宅勤務というかたちで働いています。目標を高く置いたので大変でしたが、だからこそ、これまでになかったことをいろいろやっていかないと駄目だ、とポジティブに思いながらやっています。

ネガティブな部分で言えば、中にはちょっと怪しいような偽装雇用みたいなことをする会社も出てきてはいる。そこのところはどうなのかなとは思っています。

中島 なるほど、法定雇用率がだんだん上がってきたのを、「よしっ、じゃあチャレンジしてみよう」とポジティブに受け止めた会社もあれば、それにかなりの負担感を抱いた会社もあるわけですね。

特にリクルートの場合は、ヒューマン・リソースに関わる仕事がメインですから、そのへんはポジティブに受け止めている感じですね。

三井 そういうふうにやっていかなければいけない立場にある会社なのかなと思っています。

障害者の長所を伸ばす雇用

中島 では、関村さん、精神障害当事者の立場から、この10年間をどのようにお考えなのか、振り返っていただきたいと思います。

関村 職場で自分の障害をオープンにできない障害者は、まだまだたくさんいると思うのです。私は主に社会保険労務士として個人事業主の立場で働いているのですが、他のところでも雇用されるかたちでちょっと働いています。また、統合失調症の当事者として、自分の障害をオープンにして理解を広める活動もしています。

障害者の中には、声を上げられない人も多いのが現実の社会です。ですから、私は彼らの代弁者となり、人々の障害への理解を深め、差別をなくすということをテーマにして活動してきました。

私自身は、今、社会保険労務士としての障害年金の仕事もそうですし、雇用されて働いている部分も、好きなことをやっているのでストレスもかからないですし、自分がこのように好きな活動をしていられることが本当に幸せなんですね。

でも、こういう幸せを感じられる障害者はごくわずかで、大多数の方はまだまだ雇用されることができず、社会との接点を持つことができていません。障害者の利点というか、長所を伸ばしていくような雇用、職場が増えれば嬉しいなと、統合失調症の当事者としては思います。

中島 三井さん、精神障害の方についてこの10年でいろいろな取り組みをしてこられたとのことですが、企業側としては、そういった当事者の方が得意としていることをやってもらうというような配慮はあるのでしょうか。

三井 企業はそこまで配慮するところまでは行っていないかもしれません。今は、「とにかく受け入れよう」という段階で、それも「ある一定のレベルを超えられた方は受け入れる素地があります」というレベルかもしれません。

大きな障害特性を抱えている方を受け入れるということは、少なくとも毎日通勤するということを考えると、まだ難しい面があるかと思います。朝、オフィスに来て「おはようございます」と挨拶をし、「普通」の振る舞いをして過ごすことが求められてしまっている。この「普通」ということが、特に精神障害の方にとってはつらいことが多いのかなと思っています。

これが在宅になると、「普通」の幅がもっと広がるんです。先ほど在宅の方が52人いると言いましたが、統合失調症の方も結構いらっしゃって、「宇宙人と会話をしているのだ」と言う方とかもいるんですよ。

関村 僕もそうでした(笑)。

三井 「この間、北海道で地震が起こったのは俺の責任だ」とか言う。でも、その方も自宅という環境で、テレビ会議で朝「おはようございます」といって、普通にチャットで仕事をすることはできるんですよね。なので、僕は、ICTの活用で精神障害の方の雇用がもう少し広がるのではないか、という感じを持っています。

中島 なるほど、興味深いですね。出縄さん、福祉の現場で精神障害の方を福祉から雇用へ結びつけていこうとしたとき、従来型の知的障害の方とはやり方が違いますよね。そのあたりは福祉サイドとしてどういう工夫ができるのでしょうか。

出縄 そこは難しくて、いつも悩んでいますね。私どもがやっている進和学園はもともと知的障害者の方の施設ですが、知的障害と精神障害では支援の仕方が真逆のときがあるんです。

知的障害の方は知能指数は低いかもしれませんが、体は元気で精神的にも安定していますから、朝来て、「おはよう、今日も頑張ろう」と言うと、「オーッ」と、明るく応じてくれるんです。ところが、精神障害の方にそれをやってしまうと、逆に負担に感じてしまう。

後で「頑張ったね」と言うのはいいけれど、「頑張ろう」と言っては駄目だ、と精神障害を専門とする福祉施設の職員に私どもは諭されました。私はいつも「頑張るぞ!」とやってしまうので(笑)。

中島 ちゃんと調子を見て言葉をかけるんですね。

出縄 そうなんです。やはり障害特性に合った支援の仕方をしっかり研究していかなければいけません。

障害者自立支援法で3障害(身体、知的、精神)の垣根が取り払われて、障害のある方すべてを受け入れられるようになりましたので、進和学園でも精神障害の方をどんどん受け入れていかなければいけないのです。

でも、職員サイドが経験を積んでいないものですから、そこがなかなか難しい。福祉サイドも、もっと勉強しなければいけないと思います。

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