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【特集:障害と社会】
座談会:これからの障害者雇用を考える

2018/12/05

法定雇用率をどう考えるか

中島 今年、企業の法定障害者雇用率が2%から2.2%に上がった根拠は、精神障害の方の雇用が義務化されたからということです。しかし、実際の統計を見ると、精神障害の方たちを本気で雇用の現場に受け入れようと考えたら、わずか0.2%の上積みなんてありえないぐらい低い数字です。

この0.2%というのは、社会的な状況などを踏まえた上での、言葉は悪いけれど、さじ加減的なものを含めた上での数字だと私は解釈しているんです。丸物さん、実際0.2%ポイントの上昇で、今いろいろな課題を抱えている精神障害の雇用は進んでいくと思われますか。

丸物 精神障害者に関する限り、法定雇用率0.2%の引き上げで、「働きたい」という精神障害者を受け入れられるかというと全く足りませんね。中島さんが、「社会的な状況などを踏まえた上でのさじ加減」とおっしゃいましたが、私も同感ですね。ただ、急激な引き上げは受け入れ側の雇用意欲を削ぐことになると思います。だから「激変緩和措置」で、バランスを取った雇用率だと思います。一方で、雇用率未達の企業が50%もあるのですから、ここにいかに雇用してもらうかを考えることが大切でしょう。

いずれにしても、はじめにも言いましたが、数字合わせの雇用ではなく、障害者雇用の「本質」を考えての雇用をしてほしいと思います。

また、「精神障害の義務化」と言われていますが、企業は何%の精神障害者を雇用しなければならないと決められているわけではないので、管理手法が確立されていない精神障害者は、採用の場である合同面接会では敬遠されることもあると聞いています。ただ、地域によって若干違うようですが。

中島 出縄さん、福祉サイドから見て、法定雇用率が上がっていくのは望ましいことなんでしょうか。

出縄 私は法定雇用率、いわゆる割当制はいいと思います。ドイツ、フランスも採用していますし、数字がないとなかなか評価できません。ただ、数合わせだけで終わらせないように、そこに質的な担保をうまく絡めて、全体としての調和を図るということが大切ですね。

特に、労働と福祉の連携や融合ということはずっと言われていますが、厚労省へ行っても、労働の部局のほうへ行くと福祉を全然分からない方がやっている。逆に福祉の部局へ行くと、労働のほうは全然分からない。

それでも少しずつよくはなっていると思います。福祉の場で利用者が消費者になったことは大きな前進だと思います。障害者の方が福祉サービスを選ぶ、ということがないと競争が起きませんので悪い施設が淘汰されません。

障害者自立支援法ができたとき、2007年から工賃倍増5カ年計画というのができました。授産施設や就労継続支援事業所を利用し働いている障害のある方の平均工賃を倍にしようというものです。厚労省はこれに相当力を入れていましたが、中身は何かというと、経営コンサルタントを入れて自主製品の品質を高めましょう、ということでした。

その成果が上がったかというと、B型の福祉施設での工賃は現在も平均1万5千円(月額)です。確かに少しは上がっているので、まったく駄目だったとは言いませんが、当初描いていたのとはほど遠い結果です。やはり福祉施設に良質な仕事はないんです。自主製品で勝負しろと言われても難しい。

昔は福祉施設というとクッキーやパンを焼いています、というのが定番でした。うちの施設は、お蔭さまで「湘南みかんパン」というヒット商品が生まれたのでよかったのですが、他のところは本当に苦労されています。

「みなし雇用」の意義

出縄 ですので、やはりそこは、中島さんが提言されている「みなし雇用」という考え方がよいのだと思います。

中島 「みなし雇用」というのは福祉サイドと就労という企業サイドが連携し、いきなり一般就労というのはなかなか難しいので、福祉サイドが仕事を請けて、精神障害の人などに短時間でも仕事をしてもらう。そのときの様子を見て、働ける人たちに働いてもらい、企業側も福祉サイドに発注した業務量に応じて障害者雇用に一部カウントしていくというやり方です。

出縄 福祉施設に良質な仕事が提供される仕組みですね。働く障害者、仕事を発注してくださる企業、支援する機関、みんなにとってハッピーな、まさに福祉と労働のハイブリッド型ですね。

中島 企業側は雇用率を上げるために障害者を雇わなければいけない。その一方で、福祉サイドではA型は給料を払わなければいけないから生産性を上げなければいけない。B型は工賃を増やせと言われる。それらを全部達成するのは非常に難しいわけですよね。

企業側としては、福祉サイドからそれなりの生産性の高い人材が入ってこないと障害者の方を雇えないですよね。

三井 そうですね。やはり厳しいのは、300人とか400人くらいの規模の中堅中小企業かなと思います。あと1人、2人で雇用率を達成できるという会社が過半なのです。その1人、2人がなぜできないかというと、障害者という方がどういうものか分からないし、採用したところでそこにマネジメントコストをかけられない、という問題になってくるのかなと思います。

そうなってくると、中島さんがおっしゃったように「みなし雇用」というかたちで理解してもらうことがまず第一歩としてあるのかなと思います。

リクルートグループの場合は完全に特例子会社が障害者を雇用しているという状況でしたので、僕自身もこの会社へ来るまで、障害者の方とは接点もなかった。だから、分からなかった。分からないものに対しては、怖い、もしくは手を出してはいけないとなる。そこをつなげるような「みなし雇用」のような仕組みがあれば、「分からない」という部分が変わり始めるのではないかなと思いますね。

中島 関村さんは他の精神障害の方ともお付き合いがあると思います。現状の雇用率が0.2%上がったことについて、どのように受け止めていますか。働き方という点でどのような影響がありそうでしょうか。

関村 精神障害者の仲間は、「ピア」と言うんですが、ピアの方は皆、障害者雇用率が上がった、と期待をしていましたが、なかなか職が決まらないという方が多い。現状は何も変わっていないような気がするんですよね。

このまま進んでいけば多少変わってくるのかなという気はしているのですが。

中島 先ほど三井さんがおっしゃった、1人2人足りないところに精神障害の方がポツンと1人で入って普通に仕事ができるかというと、働く側にも不安があるのではないですか。

関村 おっしゃるとおり、確かに「えっ」ということになるかもしれませんね。

中島 「みなし雇用」のようなフレキシブルな働き方というのは当事者の方から見てどうですか。いきなり企業に行って毎日フルタイムで働くということには難しい面もあるのではないかと思うのですが。

関村 それはちょっと難しいという気がします。体調の波もありますし、やはり週40時間フルに働くという固定化したものではなくて、もう少し柔軟に考えて、2日仕事をしたら1日休めるような柔軟な働き方ができることがものすごく大切だと思います。

中島 しかし、企業サイドはそれをいきなり本業の場で、全ての部署にそういったシステムを導入するのは、全体のシステムを急に変えなければいけないので大変ですよね。

三井 そうですね。われわれのような特例子会社だと、皆でこの作業をしましょうと、一斉に始めて、一斉に終わるという仕事がどうしても多くなります。そうすると、時間的に「9時〜5時はちゃんと仕事をしよう」となってしまって、フレキシブルにはなりにくい。5時で終わるから残業なし、という仕組みは導入しやすいんですが。

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