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【特集:障害と社会】
全盲弁護士、障害者差別解消法を語る

2018/12/05

  • 大胡田 誠(おおごだ まこと)

    弁護士法人つくし総合法律事務所東京事務所 弁護士・塾員

1 全盲弁護士の仕事

私が弁護士となってから、早いもので11年が過ぎました。

この間、民事、刑事を合わせて400を超える相談や事件処理に携わってきて、ある程度仕事への自信もついてきました。しかし、それぞれの事件には常に固有の新しい問題が含まれていて、いくら経験を積んでも、弁護士の仕事には慣れるということがありません。

まず、全盲の弁護士である私が日々、どのような工夫で執務しているかについてお話します。

私の現在の仕事に欠くことのできないものの1つは、PCの画面読み上げソフトです。私はこれを用い、アシスタントがスキャナという機械を使ってデータ化してくれた訴状などの書面等を読み(聞き)、判例の調査や文書作成などを行います。何かの折に、他の弁護士やスタッフなどに読み上げソフトの音声を聞かせると、その速さに驚かれることがあります。

また、事務所が専任として付けてくれているアシスタントによるサポートも私の仕事には不可欠です。例えば、活字の書面をスキャナを使って私にも読む(聞く)ことのできるテキストデータに変換してもらったり、データ化が困難な図表やグラフ、写真等を言葉で説明してもらうといったいわば机の上の作業から、刑事事件の接見、公判等への同席、参考資料のリサーチの手伝いまで、アシスタントはさまざまな場面で私の仕事を支えてくれており、まさに八面六臂の仕事振りです。

2 希望を手渡すこと

現在、私が担当している案件の多くは、処理の困難な事件も少なくなく、精神的にもプレッシャーのかかるものばかりです。

しかし、私は、日々の仕事の中でやりがいと充実感を感じることができているのも事実です。これは、おそらく、弁護士という仕事に憧れて、自らもその道を目指そうと決意したときの思いを、今、仕事の中で私なりの方法で具現化することができているからなのだと思います。

私は、先天性緑内障のため小学校6年生の頃に失明したのですが、多感な時期でもあり、その後しばらくは、自分の障害に強いコンプレックスを抱え、将来に希望を持つことができない時期が続きました。

しかし、中学生の頃、偶然、日本で初めて点字で司法試験に合格した竹下義樹弁護士が書いた『ぶつかってぶつかって』という本を手に取ったことが私の転機となりました。

ここに描かれた竹下弁護士の姿は、失明したことで自分の可能性まで失われたように思っていた私に、たとえどんな困難な状態にあっても、あきらめさえしなければ自ら道を切り開いていくことは可能なのだという希望と、いつか私も弁護士になりたいという目標を与えてくれました。

私の事務所には、さまざまな理由から現在の社会の中で生きにくさを感じ、希望を喪失している方が多く相談に来られます。自殺未遂の常習の方もいれば、相談中に、「もう死んでしまいたいですよ、先生」と言われることも珍しくありません。決してたやすいことではありませんが、私にとって、法的な知識や経験を通じて、そのような方たちの荷物を少しでも軽くして差し上げることが弁護士としての本懐です。

時には、事件が一段落した後、「先生のような方とお会いできて、自分ももう一度がんばろうと思いました」などと言ってくれる方がいたり、服役中の男性から、「先生に大変お世話になったので、私も、刑務作業で点訳をすることにしました」などという手紙をもらうこともあります。そのようなとき、私が竹下先生の本からいただいた希望を、私も形を変えて手渡すことができたのかな、と少しうれしい気持ちになるのです。

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