三田評論ONLINE

【特集:障害と社会】
座談会:これからの障害者雇用を考える

2018/12/05

インセンティブを上げる施策

中島 出縄さん、福祉の現場でいうと、「みなし雇用」の制度が導入されたら、もっと仕事をとれるという自信とか、期待みたいなものはありますか。

出縄 非常にあります。うちは45年間、ホンダさんの仕事を受注していますが、2006年度に特例調整金という制度ができました。障害者雇用促進法の中に、在宅就業障害者支援制度というものができ、通勤できない身体障害の方が在宅勤務で仕事をするときなどに、企業が雇用ではなくて仕事を発注し、その支払われた工賃に対して一定の特例調整金という助成金を発注企業に支給する仕組みです。自宅に加えて一定の条件を満たした福祉施設も対象とされています。

障害者雇用促進法では、直接雇用の場合に障害者雇用調整金や報奨金が支給されますが、それに上乗せして支給されるのが特例調整金、特例報奨金です。これは極めて画期的な制度でした。

それまで、ホンダさんが障害者のための仕事をいくら出しても、ホンダさんにとって社会的な評価につながるものが何もなかった。法定雇用率を満たした上で福祉的就労分野にも仕事を出してくださっているにもかかわらずです。それが、この制度ができたことから、2008年からホンダさんに特例調整金が出るようになりました。今、自動車業界では唯一、ホンダさんだけです。

また2015年には、厚生労働省の優先発注企業等厚生労働大臣表彰という、福祉施設に仕事を積極的に発注している企業を表彰する制度ができ、ホンダさんをはじめ花王さんやJR九州さんなど10社が表彰されました。障害者雇用ではなくて、福祉施設に優先的に仕事を発注して福祉の底上げに寄与しているということで表彰してくれたのです。これは非常によい施策だと思います。

「みなし雇用」やこういった発注奨励策をもう少し強化していけば、企業も助成金を得てメリットがあるでしょうし、法定雇用率に加算されるとなれば、相当に状況は変わってくると思います。なおかつ、企業は価格、品質、納期をちゃんと守ってくれるところを探すはずですから、福祉施設の中で競争原理が働きます。これは福祉制度の中で工賃を上げるインセンティブになってくると思います。

今、福祉施設に工賃をアップしようというインセンティブがないのです。中島さんも著書でご指摘のように、福祉施設の職員の給料は公的資金の自立支援給付費から出ていますので、工賃が1万5千円から3万円に上がっても職員の給料はほとんどど変わりません。これが福祉的就労が沈滞している大きな原因になっていると思うんですね。

中島 そうですね。それに今もらっている給付金を障害者の給料に回してはいけないことになっていますから、むしろ自分たちの労働時間を障害者の人たちの仕事に回している。それで何とか工賃を出すということですね。

出縄 私はそういったことをしている福祉施設は、むしろ偉いと思うのです。要するに、自分たちのお給料を削って障害者の人たちの工賃に回しているわけです。それをけしからんと言う厚労省の方がおかしいのです。

ただし、今後、「みなし雇用」が導入され、頑張る福祉施設が企業に売り込みに行って仕事を確保すれば売上が伸びます。これを作業会計と言いますが、この中で障害者に支払う目標工賃を設定していますから、これをまずクリアしたら、次のステップとして職員の方に還元すればいいのです。

中島 インセンティブになりますね。

出縄 これが本当に理想であり、目指すところです。

柔軟な制度設計は可能か

中島 丸物さん、例えばフランスでは法定雇用率が6%ですが、そのうちの3%ぐらいまでは多様な障害者雇用ができることになっていますね。例えば障害者の人たちと個別に労働協約を結んでもいいし、あるいは施設サイドに発注してもいい。このようにいろいろなかたちで、結果的に6%を達成しましょうということです。

それに比べて、日本の場合は直接雇用で、それもだんだん雇用率が上がっていき、企業側としてはこの先どこまで上がるのかという懸念もあると思います。一方で福祉施設の経営はかなり苦しいところもある。

そういう中で、全体の制度を考えたときに、もう少し柔軟さを高めていったらいいのではないかと思うのです。関村さんから精神障害の方たちは柔軟な働き方のほうが働きやすいというご指摘もありました。全重協(全国重度障害者雇用事業所協会)の専務理事をお務めになっている中で、そのあたりはどのように評価されますか。

丸物 私は「障害者にとって何が一番いいのか」と考えたとき、「実際にいろいろな仕事がどれだけ数多くあるか、自分たちがどれだけ職に就けるか」ということが重要だと思うのです。そのためには実雇用率の無理のない上昇が理想です。

今、中島さんがおっしゃったように、法定雇用率はフランスでは6%、ドイツでは5%だそうです。でも、実際の雇用率はその半分ぐらいと聞いています。日本は彼らと比べると法定雇用率は低いですが、実際には少しずつきちっと上がっていって、多くの障害者の方々が働けるようになっています。私はこの形が一番よいと思います。

今のように上がり続けて、多くの企業・団体がもう付いていけないという段階で、「みなし雇用」を検討すべきだと思います。そのとき、ベースになる部分は実雇用にし、上乗せされた部分には「みなし雇用」を認める、というように2つに分けてはどうかと思います。

例えば、2%のところまでは実雇用でやる。そこからオーバーする分については「みなし雇用」でやってもいいとするわけです。大企業の雇用率は、中小企業に比べかなり低い時代がありました。大企業にとって、慣れない精神障害者雇用をするよりも、「みなし雇用」で雇用率を達成するほうが楽だということになれば、企業は一斉にそちらに動き出すのではないかと懸念しています。社会の障害に対する理解が進み、数合わせと言われない障害者雇用が早く来ることを望んでいます。

施設外就労の重要さ

中島 これからの日本社会にとって障害者雇用をどのように位置づけていくべきなのか。雇用率そのものを目標にすること自体は弊害もあるというお話はすでに出ていますが、そのあたりについてご意見をいただきたいと思います。出縄さん、いかがでしょうか。

出縄 「ディーセント・ワーク」という言葉があります。「働きがいのある人間らしい仕事」という意味です。このディーセント・ワークを、福祉的就労においても、あるいは特例子会社であろうと企業の一般就労であろうと、どこにおいても実現していくことが大切だと思います。

ハンディを持っている方にはいろいろな方がいらっしゃいますが、一般就労で最低賃金法に見合う職業能力を発揮できる方は、やはりほんの一握りだというのが私の実感です。そういう意味では、今、20数万人の方はB型の福祉施設で働いているわけですから、私の立場としては「自立可能な福祉的就労」ということを、生意気ながら目指しているところです。

具体的には、障害基礎年金というのが6〜7万円出ますが、その年金と自分たちの働いた工賃を合わせて自立できることが目標です。厚労省の試算では、最低賃金の3分の1以上、月額5万円程度の工賃が必要になるわけです。

そうすると、今、B型の福祉施設の平均工賃が約1万5千円ですから、3倍ぐらいは頑張らなければいけない。それにはどうしたらいいか。パンやクッキーを焼いているだけでは至難の業です。だから、仕事は企業からの「みなし雇用」などで受注する。

丸物さんがおっしゃるとおり、企業での直接雇用を例えば2%まで義務づける。それを上回る部分については福祉施設に発注する。そうすると、福祉的就労のところで底上げができて、そこで支払われた工賃を最低賃金で割り返せば、「みなし」にできますよね。

中島 そうですね。

出縄 先ほどご紹介した特例調整金制度は、助成金というかたちで一部に「みなし雇用」を考慮した内容なのですが、非雇用型のB型にだけ適用され、雇用型のA型は対象外とされます。これが制度上の矛盾になっていますので、その整合性を上手くとる必要がある。

また、福祉サイドからは「施設外就労」、別の言葉で言うと「企業内就労」が非常にいいと思います。ディーセント・ワークを福祉施設の中で感じるのはなかなか難しいからです。

今、私どもは地元の平塚に11店舗ある「しまむら」さんというスーパーマーケットに2チーム出しています。職員が1人付いて、利用者さんが4、5人で1チームですが、このチームでバックヤード業務をやるのです。

野菜の袋詰め、店頭への品出し、掃除もするし、駐車場の草むしりもやる。そうすると、お店に来た地元のお客様が、「頑張っているわね」と声をかけてくれる。彼らは本当に嬉しいですし、「僕たちは役立っているんだ」というのが分かりますよね。しまむらストアさんは法定雇用率もちゃんと遵守した上で発注し、スーパー業界で初めて特例調整金を受給されています。

平塚にある地元密着型のスーパーがやっているのですから、これを全国に広げていけばいいのではないか。それを「みなし雇用」で評価してあげるというのがいいのではないかと思っています。

カテゴリ
三田評論のコーナー

本誌を購入する

関連コンテンツ

最新記事