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【特集:公共図書館を考える】
座談会:変わりゆく図書館──知の拠点は今

2018/07/09

「読書」のこれから

糸賀 インターネットによる情報流通がこれだけ普及したなか、「読書」はこれからどういう方向に変わっていくのか。そのときに公共図書館はどういう役割を果たすべきなのか。そのあたりをご議論いただきたいと思います。

猪谷 確かに今、紙媒体に対する可処分時間は確実に減っています。特にスマホが登場して以降、活字は見ているけれど、メディアの発信した情報ではなく、SNSに多くの時間を割いています。今こういったコミュニケーションに時間を奪われている。特に若い世代ではそうです。

紙の本というのは確かに素晴らしいのですが、デジタル情報に比べると、更新ができず、リアルタイムで動いているものについては、やや情報が遅れるきらいがあります。一方、デジタル情報は端末で見たとき、紙媒体に比べて一覧性が低く、情報と情報をつなげて考える機会が減ってしまいます。同じ情報でも、紙の特徴を生かしつつ、デジタルにも載せていくという、双方向での展開がどうしても必要になると思います。

そして図書館側も、本の文化、読書をいかに守っていくかということを抜本的に考えていかなければいけない。例えば、フィンランド大使館で司書や作家の方を取材したことがあるのですが、フィンランドでは図書館で本を借りた場合、作家に1冊につき15円が国庫から払われると聞きました。他にも、作家に対して年間平均7000ユーロの補助が出るともおっしゃっていました。

もちろんフィンランドは税金が高いですし、国としての仕組みが全く違う。とはいえ、フィンランド独自の文化や作家を大事にしようというマインドがあるわけです。そういうことを日本でも皆で考えていくことが大事なのではないかと思うのです。

糸賀 やはり「読書」というのはこれから減っていくのでしょうか。

小中高の学習指導要領がこれから移行期間を経て改訂されていきます。この中で「探究型学習(アクティブ・ラーニング)」が強調され、図書館や調べ学習の重視を打ち出しています。

それから、ちょうどこの4月から国は第4次の「子供の読書活動の推進に関する基本的な計画」を閣議決定しています。また、朝の読書も全国的にかなり普及している。

したがって、読書量が増加するということはないにしても、どこかで読書人口の減少に歯止めが掛からないかなと期待するわけです。吉井さんはデジタルもアナログもよくお使いだけど、どうですか。

吉井 私は紙もデジタルも両方読みますけど、保存となるとやはり紙のほうがまだいいのかなと思います。 iPadなどで読んでいると電池がなくなってしまったらもう読めないので、新幹線などで読むときは紙のほうがいいですよね。ただ、私は今年で35歳ですが、周りで文芸の本を読む人は少なくて、ビジネス書のほうが多いという感じです。純文学は、芥川賞、直木賞、本屋大賞を取って話題だから、仕事の話のネタになるから読むかというパターンが多いです。だから、これからなかなか大変だろうなと思っています。

糸賀 図書館で「ビブリオバトル」をやるところもずいぶん多いですね。ビブリオバトルで関心を持って、本を読むことに目覚める若い人たちも結構います。だから、それこそ図書館と出版社、書店が協力して読書の面白さに気付かせてあげれば、まだまだ掘り起こせるような気はしております。

松井 おっしゃる通りです。今まで出版社のイベントというと、ほとんど本屋さんとの間のもので、しかもサイン会とかトークショーぐらいです。要するに、売りたい新刊書を本屋さんに持って行って、サインしてということしか出版社はやってこなかった。でも図書館はいろいろなイベントをやっているのですね。

私が「荒川区の図書館は文庫貸し出しのパーセンテージが高い」と言ったら、荒川区の図書館の人が会いたいと言う。抗議に来るのかなと思って身構えていたら(笑)、「一緒に何かやりませんか」と言うんです。あそこには120人入れるイベントスペースがあるんです。

糸賀 ええ、絵本に囲まれたイベントスペースがありますね。

松井 それで、芥川賞、直木賞の「人生に、文学を。」キャンペーンの一環で、石田衣良さんに出ていただくことになりました。イベントは本屋さんよりもむしろ広がっています。予約があっと言う間に埋まってしまったそうです。

書店では実利的に「この本が出たからサイン会をやりましょう」となるわけです。そうではなくて、例えば「作家って面白いですよ。すごいですよ」ともう少し身近に感じられるイベントをやって、本や作家に興味を持ってもらうことをやるべきだと思います。

糸賀 書店と出版社と図書館、あとは学校も巻き込んでやっていくべきだと思いますね。地方自治体が設置する図書館であっても、運営のモデルなりマネジメントのモデルなりを変えていかなければいけないでしょう。

猪谷 先ほど申し上げた「図書館リテラシー」をどう育てるかということも課題ですね。義務教育課程で図書館の使い方だけでなく、その役割をきちんと教える。また、どのように図書館や出版社、書店が成り立っているのか、本の世界の仕組みを利用者側に知ってもらう機会を設けるべきなのではないかと思います。

鳥取県の県立図書館と地元の書店さんとの関係がとてもいいと言われています。そこでは、「人生の記念日に、図書館へ本を贈ろう」という「マイ・メモリアルブックキャンペーン」を、書店商業組合と図書館が一緒に展開していました。

人生の記念日に買った本が図書館に寄贈されたら利用者もうれしいし、書店商業組合を通して本を買ってもらうので書店さんもうれしいし、図書館も蔵書が増えてうれしい。そのような三者がとても幸せになるようなアイデアをどんどん出していくことが大事ではないでしょうか。

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