三田評論ONLINE

【特集:変わるメディアとジャーナリズム】
座談会:ニュースの今、そして、これから

2018/06/26

必要となる人材育成の場

荻上 腕のいいフリーランスとか、あるいはウェブメディアに流れている人というのは、もともと大手出身の記者が辞めて行ったというもので、ゼロからウェブメディアで育ったという人はほぼいない。つまり日本だと、インディペンデントでなかなか育ちにくいというところがある。

そうした中で、これから組織としての記者の育成体力というのがもし落ちていくのだとするならば、例えば別のアカデミックなのか、それとも何かジャーナリズム専門学校みたいなところが役割を担うのかは分かりませんが、今までとは違う経路の育成システムが必要になります。正直、今は大手組織に頼るしかないというのが実状ですね。

籏智 ネットメディアが大手メディアのように新卒を40人とか100人採って、しっかりと研修をして育てるのは、現状では不可能です。だから、大手がネットメディア記者の育成場所みたいになってしまっている。

私自身もそうでしたが、これはあまりいいことではない。新聞社などの体力も落ちていて、志望する学生も減っているという現実もあり、何かの打開策が必要ではないでしょうか。例えば、慶應のメディアコムで無料塾をつくるとか。

荻上 新聞社がメガサイトばかりを目指す必要はないんです。例えば朝日だったら「アピタル」とか、読売だったら「ヨミドクター」みたいな形で、医療情報に特化したサイトのような、個別分野に特化した中で人材を育てていくというのはあると思います。ある種の雑誌モデルに近いところです。大手はバックに不動産運用とか、他のビジネスもあるからこそ、多少の赤字でも全体としては複数のサイトを持てる強みは相変わらずにあると思うんです。 マイクロビジネス的な形でしっかりと10人ぐらいのチーム報道みたいなものが個別のテーマごとに、会社のどこの部署がどこの分野をやっていくのかということがより問われてくる。例えば日本版の「ネイチャー」でもいいですし、ある種のハブのような役割を果たすことができるはずなのです。

若い記者はそれもやりたいという人はいるはずなのに、今の会社ではできないからということでよそに流れていると思う。でも今自社で「君に権限をあげるよ」と言われたら、喜んで残る記者は多いと思うんです。そうしたプラットフォームのつくり方を変えていくというフェーズに、今来ているのではないかと思います。

八田 その通りですよね(笑)。

山腰 実は僕も教えていてつくづく思うのですが、ニュースをつくるというのはどれだけコストがかかって、どれだけ大事なことなのか、あまり社会の中に理解が深まってない部分があると思うんです。だからニュースというのはどうつくられるかという基本的なところを社会の中で共有していくことというのは、大学でももちろん、より広く社会の中で必要なのだと思います。ジャーナリズムというのはそれぞれの組織が担うというよりは、社会の中で育てていくという部分が必要だと皆さんのお話を聞いて感じました。

カテゴリ
三田評論のコーナー

本誌を購入する

関連コンテンツ

最新記事