三田評論ONLINE

【特集:変わるメディアとジャーナリズム】
座談会:ニュースの今、そして、これから

2018/06/26

フェイクニュースはなぜ生まれるのか

荻上 今回の「反日学者に科研費を渡すな」というような動きがあるということは、一つ、これから注意しなければいけないところですね。

でも、例えば、小西議員に対して自衛官が罵声を浴びせたという事件に対して、「BuzzFeed」さんが戦前、80年前に「黙れ事件」というのがあったんだと伝えた。あれは素晴らしいなと思いました。

籏智 あれは僕が書いたんです。今回のような事件に素早く反応していくということに、一つネットメディアの意義があると思っています。

あくまで「火消し」のような仕事だと言えばいいのでしょうか。僕は、今の時代に漂う「なんだか変な空気感」を左右両極端にいない多くの人たちに知ってもらいたい、という問題意識で普段から記事を書いているのですが、そうした問題が起きた直後に「初期消火」をすることで、間違った情報や考え方が広がっていくのを防ぐことは、すごく大事なことかな、と。

山腰 他方、依然としてフェイクニュースというのはあって、日本でも非常に問題になっているわけです。いろいろな対策があってもそれが上手く機能しないというのはどういった点に原因があるとお思いですか。

籏智 僕は一度、日本におけるフェイクニュースの生産者に取材をしたことがあります。「大韓民国民間報道」というサイトで、嫌韓デマニュースを掲載していました。ただ、やっている本人はヘイトの意識は全くない。そうした情報を好む人たちを対象に記事をばらまいて、広告収入を稼ごうとしたが、儲からなかった。だからやめた、というすごくシンプルな構造なんです。

今、ネット上に同様のまとめサイトなどが多数ありますが、そういうサイトが極端な見出しを立ててフェイクに近いニュースをばらまいているのは、やはり「大韓民国民間報道」と同じようにお金稼ぎという側面も大きいと思っています。

だとすると、そうしたサイトのマネタイズ(ネット上の無料サービスから収益をあげる)を断つということが、大事な作業になってくる。つまり、広告の問題です。漫画を違法に無料提供していた「漫画村」が注目されていますが、これも同じです。「漫画村」に広告を出していた側にだって、問題があるということです。

収入源を断てばそうしたサイトはなくなるでしょう。だからこそ、違法だったり、ヘイトやフェイクを載せたりするサイトに広告を出しているんだ、ということを広告主に知らせていくことは重要です。

変わるジャーナリストの意識

津田 お金ということで言うと、気になっているのが、先ほど八田さんのお話にもありましたが、要は一次情報を取ってくる人たちの問題というのがやはりある。一般紙だとなかなかお金を払って電子版を契約しづらいと思うんです。そうなってきたときに、既存メディアの体力というのはどんどん弱っていく。それで地道に、それこそ警察とか役所に詰めて情報を取ってくるという記者がどんどん減っていくのではないかという危惧があります。

マスメディアの形態がネット中心になっていく中で足を使って地道に情報を拾ってくる人をどう維持していくのかということは、健全な民主主義を考える上でも非常に重要な論点ではないかと考えています。

八田 全くそうですよね。今起きているデジタル化の動きというのは不可逆なわけです。環境が大きく変化している中で、新聞各社の個々の判断や意思決定で対応を考えていくのではないかと思います。変えなくても何とか持ちこたえられるだろうと言う人もいるかもしれません。でも、変わらない限りは、ご指摘の通り、自分のところの宝である情報を集めてくる現場の記者の雇用ができなくなってしまう恐れがある。

はっきり言うと変化は痛いです。私たちの会社の中にも、「俺の仕事は人の話を聞いて原稿を送るだけ。見出しを考えるのは別の人間だ」という人はいます。少し知恵を使って気の利いた見出しを考えてみようとか、気の利いた写真を付けてみようとか、前向きに取り組めば、読んでもらえる人も増えますよと呼びかけています。ジャーナリストの仕事はどんどん変わっています。これは不可逆ですからしょうがない。自分たちで変わらない限りは自分たちの土台を壊すだけですよ。それは、各社の経営者だけでなく1人1人のジャーナリストの意識でもあります。

籏智さんみたいに飛び出した方は、「朝日新聞」のときと比べると、いろいろな業務を1人でやっていらっしゃるのではないですか。

籏智 そうですね。記事に対する労力は増えました。見出しやサムネイルは記者個人がリアルタイムで数字の伸び方を確認しながら、付けていますね。

八田 それが今の標準的なジャーナリストの仕事のやり方になってきているわけですよね。僕らみたいな全国紙の記者が今まで通りでいいかと言うと、いいわけはないです。

籏智 僕たちのようなネットメディアの記者が、情報源、ソースに当たれるかどうかという問題もあると思っています。やはり記者クラブ制度をはじめとして、既存メディアでないと取材できないという壁は、いまだに大きい。会見によっては「ネットメディアは質問禁止」ということもありますし、そもそも入れないというところもあります。そうした門戸をどう開いていくかについても、これからは課題になっていくと感じています。

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