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【特集:変わるメディアとジャーナリズム】
座談会:ニュースの今、そして、これから

2018/06/26

ニュースの受け手の変化

山腰 次に視点を変えて、ニュースの受け手のことについて考えてみたいと思います。デジタル化によってニュースのつくり手と受け手との関係はどのように変わってくるのでしょうか。

籏智さんは、新聞記者時代、自分の記事を友人が読んでくれなかったと言っていましたが、「BuzzFeed」に移ったことで自分のニュースの読み手が変わったという実感はありますか。

籏智 コメント欄もあり、反応が可視化されますよね。新聞社時代にネットに出た記事もありましたけれど、「BuzzFeed」だと、URLが自分の名前になっているので、自分の名前をURLに入れればネット上で僕が書いた記事も全部見られます。

計測ツールを用いて、シェアがどれぐらい伸びたかも数字で見ることができます。それだけではなく、どういう文言でシェアされたかということも見て、読み手側からのフィードバックを受けて次の記事につなげることもできる。

逆にすぐに炎上もすることがあるので、攻撃を受ける怖さももちろんあります。それでも、僕はコミュニケーションを取れるということ自体がすごくポジティブだな、と捉えています。

山腰 そうした読者の反応がきっかけで、次のテーマや取材に生かされるということはあるのですか。

籏智 ありますね。いわゆる情報提供に止まらず、こんな事例があるよと教えてくれる読者がいたり、こういう見方もしているという専門家の方がシェアしてくださったりして、さらに深掘り取材を進めていく、というケースは何度も経験しています。

山腰 八田さんは、紙媒体が中心であった頃と比べ、日経電子版の読者層の反応や読者層そのものに何か変化をお感じですか。

八田 読者のプロフィールが大きく変わりましたね。電子版だけの話をすると、春先、新しく購読していただいている方の4人に1人は20代です。そして4人に1人は女性。そのぐらい、若く、そして女性というところにどんどんシフトしている。

40代から60代ぐらいの管理職、経営者は依然として大きな読者層ですが、そこだけでなく、将来のコア読者である若い方や女性の方々とも向き合いたいと思っています。読者のプロフィールが変わっているのだったら、その人たちに必要な情報を考えて、必要な書き方をしなければいけない。

また、荻上さんがおっしゃった通り、Instagramだろうが、ツイッターだろうが、フェイスブックだろうが、そういうところにとにかくニュースを置かないことにはお客さんは来てくれませんから、必ず僕らも置きます。

反応もやはり、日経というブランドに対して、不正確なものを書くんじゃないぞ、といった意見は入って来るので、あらためて期待されるものは大きいと感じています。

競合か相互補完か

山腰 一方、例えば「NewsPicks」とか経済専門のネット専門のニュースメディアについてはどう見ていますか。ライバルですか。それとも違う世界で展開しているメディアですか。

八田 見せ方など参考にするところは参考にしています。さすがに上手いなと思います。その半面、僕らが持っている一つの大きな疑問は、彼ら自身が一次生産者としてニュースを生産しているのかということです。例えばわれわれが特ダネとして出したものをプッシュ通知すると5分後ぐらいに「News Picks」のプッシュ通知が、私たちが作った見出しで送られて来る。日経新聞のニュースだと書いてはありますが、「この人たちは自分ではニュースを作らずに、何なのだろう」と疑問に思うことが多々あります。

「NewsPicks」では、いろいろな人のコメント自身がコンテンツになっている。最近見ていると、あまりにも分散化していて、最初のニュースや解説は読まないでこのコメントだけを見ている人が結構いる。それで何が得られるのかが正直よく分からない。

山腰 ちなみに「現代ビジネス」や「東洋経済オンライン」はいかがですか。

八田 見ていますよ、全部(笑)。競合だとか思われるかもしれませんが、一つのエコシステムでもあると思う。われわれメガサイトではできない部分をいろいろなところで補っている。「上手いな」というところは僕も真似したい。でも、そこと真っ向勝負しているという感じではないんです。読者の方から見れば相互補完の関係なのではないかと思います。

山腰 籏智さんは周りのネットメディアをどのように捉えていらっしゃいますか。

籏智 すべてのメディアはライバルだと思っています。記者の規模は、既存メディアに敵いませんが、より速く、より違う視点で、時には独自の特ダネを出したい、と思って常に動いています。僕が朝日時代にほかの新聞社やテレビ各社と競っていたのと、なんら変わりはありません。

どんなメディアであれ、先に記事がYahoo! Japanのトピックに取られたり、先にニュースアプリのプッシュが来たりしたほうが読まれる。ネットメディア、既存メディアに拘わらず、相互補完をしている一方で、そうした緊張関係を持っているのではないでしょうか。 ただ、速報ニュースのところでは、できるだけ速く、できるだけ違う切り口でということを常に考えながらやっていますが、全国に取材網を持つ既存のメディアにはなかなか敵いません。そこで、僕らは「1・5報」などと呼んでいますが、これから話題になるであろうテーマを先回りして取材をしたり、ほかの切り口を考えたりする。「ゲリラメディア」などと自称したりもしますけど、そんな戦い方をしています。

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