【特集:防災を考える】
座談会:来るべき地震災害にどう備えるか
2018/03/01
首都直下地震は生活習慣病対策で
山口 首都直下地震の対策は事象が巨大過ぎてみんな思考停止の状態になってしまっている気がするんです。ようやく2年前に内閣府が数十万人規模を動員する応急対策活動の計画を公表したのですが、果たしてそれをちゃんと実施できるのでしょうか。
廣井 私は4年間名古屋大学にいましたが、南海トラフは20年、30年先ではないかと一般に言われているので、割と長期戦の対策、つまり住み替えとか撤退とかいう議論ができました。野球で言うとペナントレースの戦略です。
しかし、首都直下地震はいつ起きるか分からないという意識が強いからか、どうしても家具の固定とか、初期消火など短期的な、つまり高校野球のような短期決戦の戦い方ばかり議論してしまいがちです。
首都直下地震でも、もうちょっと中長期的なスパンで考える機会があってもいいとは思います。首都直下の難しいところは、日本経済の沈没などを含めた、首都特有の災害とは一体何なのかがなかなか摑めない点です。それこそ未知なので、シン・ゴジラが来てもなんとかできるぐらいの対応技術がないと対応できないところがあります。
このためには、社会全体で未知の部分を解き明かす作業が必要で、これは防災研究者とか防災従事者だけではできない。例えば物流とか、医療とか、いろいろな分野の方々が何が起きるかをイメージし共有するところから始めないと、無理なのかなと思っています。
大木 でも地震学の見地からは、首都直下地震への備えはたとえてみれば生活習慣病対策みたいなものですよ。一方、東日本大震災や南海トラフ巨大地震は難病で、一丸となって救命しなければならない。
首都直下地震は、たとえ打ちどころが悪くても受け身が取れるのです。技術的には耐震性のある家を建てる技術も可能で、耐震基準の法整備もでき、あとは家具を留めるなどは自己責任ですから、教育でかなり解消できると思います。
家は燃えにくくなってきているし、耐震性も強くなっている。首都直下地震は毎日の心がけでいくらでもリスクを減らせる。地震学的にはそういう捉え方をしています。「タバコを我慢できない」という部分にどう切り込んでいくか。本来はその程度の地震なのです。
山口 生活習慣病だからこそ、その人の意識の部分が大切だと(笑)。
大木 そうです。まさに意識の部分の寄与がすごく大きい。揺れている時間は10秒です。まずその10秒を家具の下敷きにならないように生き抜いて、そこから初期消火の段階で火を消せば何とかなります。
廣井 でも上物は深刻ですよ。ここまでの高密都市になると、火災は条件が悪ければ死者が万まで行く可能性も十分にある。そういった意味では、まさに生活習慣病ですが、首都圏は心がけが悪い人がたくさん集まっているので。
山崎 タバコをやめさせるのはなかなか難しい(笑)。
山口 通信インフラの被害想定では、首都圏の固定電話は半分ぐらいが使用不能になる。電柱もばたばた倒れる。携帯電話基地局も停電が起きたら数時間後に停止する。そうするとパニックが起きる可能性もある。首都直下地震で何が起きるかはたぶん誰も解き明かしていないのではないかと思います。
大木 地震学者は地面の中しか見ないので、こういう地震が起こるのですと言う。そうすると上をご覧になっている方が、こんなことが起きるのですよと伝える。これで終わると人間はやる気が出ないんですね。その後に、例えば防災屋としての私が、「これは生活習慣病ですよ。毎日こういうふうにしたらこんなに改善されますよ」と言うと、自分はこうすればいいんだという指標が立つ。それを循環させなければいけませんね。
今日は様々な視点から有意義なお話を伺えたと思います。どうも有り難うございました。
(2018年1月26日収録、※所属・職名等は本誌発刊当時のものです。)
2018年3月号
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