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【特集:防災を考える】
座談会:来るべき地震災害にどう備えるか

2018/03/01

命を守るために考えるべきこと

大木 会社によっては安否確認システムに家族も入れるところもあります。家族も、「うちの旦那は、今日は営業だからどこにいる」というのが同じシステムで見られるようになっている。それはすごくいいなと思って、慶應にもそれを提案しているのです。

そういう家族も含めた安否確認システムを事業所の単位で考えていけば、帰宅困難もだいぶ緩和できると思うのです。企業も、自分の家族まで考えてくれているのだという思いも出てくる。

山崎 うちの病院でも安否確認システムに家族が入れる体制にしました。東日本のときも、ドクターもナースも病院から離れられないから、自分の家族がどうなっているか分からない。目の前に患者がいるので、自分の家族と連絡していられなくなるのです。

山口 交通機関は復旧まで結構時間がかかりますが、帰宅困難者はいつまで滞在しなければいけないのでしょうか。

廣井 東京都だと一応3日、もしくは東京都が安全宣言を出すまでと言っていますね。

3日というのは、72時間は生きているかどうか分からない人を助けるモード、72時間たったら今度は生きている人の命を継続させるモード、と行政対応が切り替わるのです。だから復旧とは関係なく3日たったら基本的には「歩いて帰れ」で、そのための帰宅支援も計画されています。あるいは高齢者などはバスなどで拠点まで搬送するという計画になっています。東京都の条例では3日間は帰らないでくださいとなっている。

でも全員帰ったら困るけれど、3分の1ぐらい帰るのだったら、歩道でそこまで深刻な過密空間は発生しないと思うのです。3日間の中でも、時差帰宅をするとか、どうしてもという人は先に帰すとか、たぶん折り合いをつけることができます。帰宅困難者対策の主目的はやはり人的被害の軽減ですから、必ずしも全員が都心部にとどまらないと駄目というわけではないとは思います。

大木 いま企業のトップにいらっしゃる方は、日本がたまたま災害が起きずに経済成長していた時期に働いていた方々だと思います。社員のための一定の備蓄は5年たったら消費期限が来て、使われないことになりますが、それはもう当たり前の投資だと考えてほしい。

また日本では学校などで、熱中症注意報が出ているのに運動会をやって搬送されたりします。なぜ「やめる」という決断ができないのか。私はSFCに来てすぐ、台風の予報が出たときに24時間前に休講にして、「その日私が教える授業よりももっと大事なことを教えられたと思っている」と言いました。命の前には全部ドタキャンしていいんだという概念を持って大人になってほしい。そういう意識を企業のトップが持っているかいないかは大きな違いだと思うのです。


山崎 自分のジレンマですけど、医者や看護師は患者を置いて逃げていいのかと常に悩むのです。

大木 私は災害医療従事者の研修の講師をさせていただいていますが、いつも1時間の研修の最後に、「患者さんのベッドの下に入ってでも自分の命を守ってください。あなたが1人生きていることでもう3000人助かることができる。そう考えねばならない事態です」と言います。でも、社会は得てして殉職した人などを美談にしてしまう。

山崎 たぶん看護師などは帰りたいけど帰らないで病院にい続ける人たちがたくさんいると思うのです。そういったところを美談にしてはいけないし、帰れと言ってもいいのかもしれないけど、本当に帰るとグッとスタッフの人数が減ってしまうので悩ましいところです。

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