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【特集:防災を考える】
慶應義塾における地震への備え ――ハード面の対応を中心に

2018/03/01

  • 繁森 隆(しげもり たかし)

    慶應義塾管財部長

「防災」とは、災害を予防し、被害を抑止、軽減することだけでなく、災害発生後の応急の対応や復旧のための取り組み、さらにはその後の復興や危機管理、BCP(事業継続計画)などにも関わる非常に広い範囲に及ぶ概念であるが、ここでは、慶應義塾における防災の取り組みのうち、もっとも大きな被害を引き起こす恐れのある災害である「地震」にフォーカスし、防災の各局面における施設・設備などのハード面の取り組みについて説明する。

予防~被害の抑止・軽減

現在の科学技術では地震発生を未然に防ぐことはできず、発生予測もまだまだ実効性が期待できるレベルではない。

このため、大地震が発生した際の被害の抑止、軽減のための取り組みが現実的な対策となる。これはハード面で言うと、建物が大地震に耐えられるようにすることである。日本国内において、建物は建築基準法に則って建設されるが、建築基準法に適合させることで定められた耐震基準を満たし、必要な耐震性が得られることになる。

ただ、耐震基準はたびたび見直しが行われている。1981(昭和56)年に改正された耐震基準、いわゆる「新耐震基準」は、それ以前の基準(旧耐震基準)が、震度5強レベルの地震で損傷しないように設定されたものであったのに対し、新基準では、震度5強を超える震度6強~7レベルの地震に対して、損傷はするが倒壊・崩壊はしないような耐力を持たせるようになっている。このため、この新耐震基準の以前と以後の建物で、大地震に対する被害の程度が大きく異なることとなり、実際、1995(平成7)年の阪神・淡路大地震では、この新耐震基準で建設された建物が大きな被害をほとんど受けなかったのに対し、旧耐震基準で建てられた建物には倒壊などの甚大な被害を受けたものが多数あった。

義塾は阪神・淡路大震災の後、数年間の間に、保有する建物のうち旧耐震基準で建設されていた建物のうち、100棟近くについて耐震診断を行った。耐震診断は建築物の構造体について、新耐震基準で設計されている建築物と同等の耐震性能を有しているか否かを調べるもので、いくつかの指標で評価するが、その中でもっともわかりやすい指標がIs値(構造耐震指標:地震力に対する建物の強度や粘り強さを考慮し、建物の階ごとに算出する)である。このIs値が0.6以上あれば新耐震基準で作られた建物と同等の耐震性能を有していると見なされる(文部科学省は校舎の耐震性能の基準を最低限のIs値0.6から若干割り増しし、0.7に設定している)。

義塾は、耐震診断の結果、Is値が0.6に達していないなど補強が必要と判断された建物について、耐震性、施設利用者の年齢層等によって優先順位をつけ、耐震補強の実施計画を策定した。この計画に沿って、2003(平成15)年から順次、耐震補強工事が進められ、2013(平成25)年までに30棟以上の耐震補強工事を行い、当初、補強が必要と診断された建物については、ほぼすべて補強が完了している状況である。

現在は次の段階として、当初、診断を行わなかった小規模建物の耐震診断・耐震補強を進めている。また、重要文化財として外観の意匠などの保存が必要な三田の図書館旧館は、通常の耐震補強工法では対応できないため、免震レトロフィット工法(既存建物を免震構造化する工法)により耐震性能を確保する難しい工事に取り組んでいるところである(2019(平成31)年春完了予定)。これらの取り組みにより、2018(平成30)年春の時点で義塾が保有する建物全体に対し耐震化されている建物の割合は、面積比で98.4%に達している。

また、地震被害は建物構造体の倒壊や破損だけでなく、天井材や外装材、設備類の剥落、落下などによるものも多く、これら非構造部材の耐震化の推進もこれからの課題である。

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