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【特集:防災を考える】
慶應義塾における地震への備え ――ハード面の対応を中心に

2018/03/01

応急対応~復旧

大地震の際、発生した被害に対し、応急的な対応が必要となる。ハード面においても、被災後の建物の安全性について的確な判断を行うことが重要である。地震によってダメージを受けた建物が安全かどうか、余震等に耐え得るか、いわゆる応急危険度判定を行い、安全が確保されない建物は立ち入り禁止にするなどして、二次的災害を防がなければならない。応急危険度判定士の資格を持った施設部門の建築技術者などが、各建物を点検し、被害状況を確認、安全性の確認をするなどして、これに対応する。

また、組織は被災により低下した機能をできるだけ速やかに回復させなければならない。これは危機管理やBCPに関わる話であるが、これを施設面でどう支えるか、という点がハード面での課題である。前にも触れたとおり、現在の建築基準法では、大きな地震が発生した際、倒壊はしないレベルを最低限の耐震性として求めているが、建物の寿命の間に一度来るかどうかの大地震に対して、どこまでの耐震性を求めるのか、という経済的な要素も考慮し、極めて稀に発生する震度6強~7レベルの大規模地震に対しては、倒壊はしないがある程度の破損は止むを得ないという考え方を取っている。破損により建て替えや大きな修理が必要になれば、その建物はすぐに使うことはできない。

しかし、災害時の拠点となるような建物については、倒壊しなければよい、というだけではなく、大地震発生後もすぐに機能する必要があり、それが可能な耐震性能や設備を備えた建物であることが求められる。外部の電力やガス、水道の供給が停止することも想定しなければならない。一般的に、災害に備えた食料や飲料水の備蓄量や設備のスペックについては、災害発生後、3日間対応できるよう想定するが、実際には、備蓄量算定の対象人員の想定や、停電時の電力バックアップの対象範囲などをどうするか、と言ったことなど検討が必要な要素も多く、またそれを技術的にどう実現するか、ということも含め、今後の課題と認識している。

ここまで地震対策のハード面についての取り組みについて述べてきたが、防災はハード面とソフト面の両輪がしっかり嚙み合うことで、より効果を発揮する。防災についての組織や体制、制度などの整備、教職員、学生、生徒、児童の防災や危機対応についての意識の向上が、災害を未然に防ぎ、災害発生時の被害を抑止、軽減する上で非常に重要である。私たち管財・施設部門が主に担当するハード面の整備も、ハード面だけを考えて行うのではなく、ソフト面の整備も意識し、連携を取りながら進めることが重要であると考えている。


※所属・職名等は本誌発刊当時のものです。

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