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【特集:防災を考える】
座談会:来るべき地震災害にどう備えるか

2018/03/01

都市防災からみる東日本大震災

大木 廣井さんは東日本大震災についてどのように捉えていらっしゃいますか。

廣井 都市防災の観点から東日本大震災から学ぶことはたぶん4つぐらいあると思うのです。1つは死者、行方不 明者合わせて2万人程度で、負傷者は 6000人ぐらいだったわけですが、阪神・ 淡路大震災などの都市災害では死者の一つ上ぐらいの桁の負傷者が出るの に、東日本ではまさに津波から逃げられたかどうかが運命の岐路となった。さらに福島の原子力災害も考えると、 避難という2文字が非常に大きな論点となった災害でした。そういう意味で まず1つ目が避難、つまり逃げやすいまちを、これからどうつくるかということを示唆した災害といえます。

2つ目は東日本大震災時に首都圏で帰宅困難者が大量に発生し、東京は最大震度5強であったにもかかわらず大混乱しました。東京、大阪、名古屋などの大都市は本当に災害に弱いということが改めて判明しました。大都市特有の防災対策は何なのか、そしてどう進めればよいのか。

3つ目が、複合災害の対策です。東日本大震災の地震火災の4割は津波浸水地域内で起きた津波火災というものでした。これはまさに複合災害で、津波と火災が同時に来るわけです。われわれは避難計画をつくるときに、火災を想定した避難計画、津波を想定した避難計画はつくりますが、両方来たときにどう逃げるかというのはなかなか考えない。火災から逃げる場所は広い場所で、津波から逃げる場所は高い場所です。そうすると、両方来たらどっちに逃げればいいか分からないわけです。自分の家が燃えていて、津波が来るかもしれないというときにどうすればよいのでしょうか。特に大都市では莫大な数の帰宅困難者が発生します。人口・建物密度が高いので市街地火災もある。大阪や名古屋は津波も来る。 道路閉塞なども考えると、木造密集市街地は複合災害リスクの固まりです。これにどう対処するかが3つ目です。

4つ目が、災害後の人口流出の話です。2015年の国勢調査では宮城県の女川町の人口が5年間で三割減少しました。被災をきっかけに限界集落化する自治体がこれからも出てくる。そうして、もう地域の継続ができないような状況になったときに、われわれは地域をどのように再生、復興すればよいかということを事前に考えておかなければいけないでしょう。つまり人口減少・少子高齢化社会における「よい復興とは何か」という課題です。

加えて、南海トラフ巨大地震だと当然広域的な避難・疎開をせざるを得なくなり、震災関連死も莫大な規模になる恐れがある。これら疎開した方々をどのように支援すればいいのかといったことも東日本大震災がわれわれに教えてくれたことかなと思います。

大木 発災の前に避難や復興をあらかじめ考えておくということですね。都市開発というのは広げていくものだったのが、いまはいかにシュリンクしていくかという発想になるのですね。

廣井 都市計画というのは、いままでは経済成長を前提とした社会の中でどう開発を規制するかという方法論だったのですが、これからは、おっしゃったようにシュリンクするわけです。私権に介入することも場合によっては必要かもしれないし、あるいは保険やマ ーケットメカニズムをうまく使うとか、いろいろな方法があると思います。

山崎 撤退戦は難しいですよね。医療も地方だと結局病院を統合、合併して、 数を減らして集約化してという話は当然出てくるのですが、そんなに簡単にまとまらない。

廣井 南海トラフで大規模な津波の想定が出ている地域では、高台に移転しようという動きもあるのですが、高台の面積は限られているので、資産に余裕のある方ばかり移転できて、厳しい 暮らしをされている方々は移転できないということも考えられます。

そういう方々に対して地震リスクが高いというだけで、甚大な被害想定を突き付けることはちょっと暴力的ではないかとも思います。もちろん災害リスクをきちんと伝えることは研究者として重要なのですが、それで諦めてしまう人もいっぱいいるので、そこのバランスをどういうふうに取るか。そこまで見据えた防災計画をつくらないといけないなと思っています。

大木 人間は本当に大事なものはスペックで見ていないですよね。高台のほうがスペックがいいのだからと、携帯やパソコンを選ぶみたいには絶対選べません。愛着があってそこに住んでいるわけですから。

AIを使った避難所情報の収集

山口 東日本大震災は約2万人の死者のうち、災害関連死は約3600人です。家屋の倒壊や津波から逃れて運よく命を拾うことができても、その後の災害関連死で亡くなることは不幸なことで、私は、これは文明社会の怠慢だと思っています。これをなんとかしなければいけない。

被災者に医療サービスを提供するといっても、情報の整理をしないと需要と供給のマッチングができません。派遣できるDMATの数が限られているので、優先順位をつけるための情報が重要です。ただ、情報の整理はとても難しくて、避難所一つ取っても、公的な避難所もあれば、隠れ避難所、テント泊、車中泊、自宅で避難されている人もいる。

大木 熊本では軒先避難という言葉ができましたよね。

山口 避難所の調査はDMATや保健師、災害ボランティアの方がやったりしているのですが、それぞれが同じ避難所に対して異なる台帳をつくり始めていたりするので、まず組織間で情報の共有をしないといけない。

災害医療に関する学会によると、災害関連死の原因は誤嚥性肺炎が多く、 歯みがきなど口腔ケアが重要なのです。われわれは1日、2日歯を磨かないと口の中が大変なことになります。 若い人は体力、免疫力があるから大丈夫ですが、お年寄りは肺炎になってしまう。

内閣府が「避難所運営ガイドライン」と呼ばれるマニュアルを公表していま す。トイレ、口腔ケア、入浴という項 目があり、それぞれに対応する自治体 の担当部署が決められているわけですが、それぞれの対応ごとに膨大なデー タを処理しなければならない。それが 時系列で毎分、毎時のデータになると巨大なビッグデータになり、もはや人間の手で処理することは不可能です。だからAIを使おうというのが私の提案です。これができれば避難所の状況が「見える化」できる。

大木 これまで中越地震のときなどでも、例えばボランティアが必要なものなどをポータルサイトにまとめて、これを見て行けるようにしようと、いろいろな人がトライしたのですが、結局できませんでした。どういう戦略だったらできそうですか。

山口 いまはグーグルやアマゾンのA Iスピーカーがネットにつながって会話をしてくれますよね。つまり機械を相手におしゃべりができる時代になっているので、発災時には自治体の災害対策本部の電話をAI化したらいいのです。スマホを持って避難所へ逃げて、ネ ットがつながっていたら、LINEのチャットボットを使って、「お年寄りが3人いる」とか、「毛布が全然足りない」と話しかければいい。

大木 いちいち入力などしなくてもよいのですか。

山口 ただ話しかければよいのです。避難所の緊急時にエクセルにいちいち入力するなんてことはやっていられな いですよね。ましてお年寄りであればなおさらです。でも、高齢者も話せば AIが対応してくれる時代になっているので、そうやって情報を収集、分析ができないかといま研究しています。

既に米国ではAIスピーカーに話しかければピザが注文できて、配達してくれるようになっています。

大木 いままでは現場に入力できる若手が1人しかいなくてその人がパンクしたりしていました。でも、AIスピーカーというアイデアは、話して確認すればいいのですね。いままではそのテクノロジーがなかった。

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