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【特集:動物園を考える】
座談会:問い直される動物園の役割

2017/06/01

入場料が安すぎる?

大沼 欧米の動物園は割と入場料が高いですよね。日本でも白浜のアドベンチャーワールドなんかだとやはり高くて4000円ぐらいします。高くすることでむしろ本当の動物好きな人だけが来るわけですね。

価格を高く設定して、少数の人たちにサポートしてもらうというのも1つのやり方ではないかと思うのですが。

ヒサ でも、やはり敷居を低くして、なるべく大勢の人に見てもらいたいというのが公立の動物園の役割としてはあるのではないかと思うんです。

村田 それは議論されていますよ。ただ、難しいのは博物館相当施設なので、高額な入園料は求められないんです。

大沼 ああ、なるほど。

村田 多くの公立動物園はスタート時点でそういう考え方が導入されているため、そういう歴史があるのですぐに変えるということは難しい。

大沼 そうすると、やはり低い入場料でより多くの人を集めるという方法がよいですか。

村田 なかなか難しいですよね。無料にして社会教育の役割を果たすのか、高額な入園料を取って質を高めていくのか。

長谷川 お金持ちから大量に寄付を取ってタダにするとか(笑)。

村田 でも、タダにすると、やはり質は落ちるかもしれません。

ヒサ 野毛山はタダですよ。横浜市民は、皆野毛山の経験があるんですよ。幼稚園のときにも小学校のときも行っている。大人になっても行きやすい場所で、ふらっと寄れる。

村田 エントリーとしてはいいですけれど、やはり将来的に不安はありますよね。

ヒサ いや、不安は全部にある(笑)。例えば、横浜の金沢動物園は非常に希少な草食動物をいっぱい入れたけど、あんまり希少な動物を入れたものだから、それらが死んでしまったあと後継者がいないんですよ。希少すぎて、もう海外から入れられないし、繁殖もできなかった。結局がらんと空いてきてしまうんですよね。

研究ということから言えば、普段身近なフィールドで出会えないような動物たちを身近に観察できるということは重要でしょう? 動物園が研究施設になるとしたら、そういう希少な動物をコレクションすることも研究の対象になり得るわけですよね。

村田 動物を飼う限りは、やはり100パーセント生かすために研究は必要だし、子どもたちを育てる社会教育施設にすべきだと思います。

ヒサ 研究者がいなくて、研究の受け皿がなくて、その研究の記録が残されないという状態で希少な動物を飼っていてもしょうがないですよね。

村田 そうなんですよ。小さなときに感性を養って、大きくなってまた自然との触れ合いを大切にする、自然環境を守るような施設にしていく。そのためにはやはりサポートが必要なので、研究の充足も教育も必要です。

動物の福祉と鳥の展示

大沼 動物の福祉との関連でお聞きしたいのは、鳥の展示です。ケージの外に鳥がいると思ったら羽が切られている例もありますが、どういうふうに鳥の展示は工夫されているのですか。

村田 実はヨーロッパ、アメリカで大きな問題になりつつあります。昔は、「断翼」と言って、片翼を落として飛べないようにしていたり、「切羽」と言って、羽を切って飛べないようにしたりしていたのです。

今は福祉上、当然断翼は禁止されている。切羽も繁殖をするときにバランスを崩すので、うまく交尾できずに繁殖成功率が落ちるので、それもいいのかという議論がされています。オープンなスペースの中で鳥をたくさん飼うことは将来なくなる可能性があります。

長谷川 ビュンビュン鳥が飛んでいるシンガポールの動物園がありますよね。ああいうところは何もケージがないのですか。

村田 あれは意図的に自由に飛ばしています。マレーシアの動物園も遠くに飛んで行って、また戻ってきています。東南アジアは完全に放し飼いです。日本では外来生物法があるからできないですけれど。

長谷川 オーストラリアに行ったときに、キャンベラのオーストラリア国立大学のキャンパスに入ったら、オウムがバンバン飛んでいた。キングパロットとかパラキートとか赤や緑のものがバンバン飛んでいて、いったい何だと思ったら、これは自然の生息地なんだと分かって(笑)。

ヒサ ズーラシアの鳥舎の中にはスズメがいっぱい入っているよね。

村田 入っていますね。キジ舎の餌は、放っておけばほとんど野鳥の餌になります。

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