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【特集:動物園を考える】
座談会:問い直される動物園の役割

2017/06/01

お客さんの変化と動物福祉

大沼 集客という目的を追求すると、どうしても人気のある動物や珍しい動物を入れようということになってくるのではないかと思うのですが、どういう動物を展示するかという戦略はどのように決められるのでしょうか。

村田 動物園ごとに違いますね。横浜市は動物園を管轄する環境創造局に動物収集委員会という局長をトップにする委員会があって、そこで将来計画を立てるのです。しかし、いずれにしても、今は珍しい動物でお客さんを集めようという時代ではなくなってきています。

お客さんの数よりも質を重視する方向になってきています。最近は、動物に対する思いが、動物園関係者より熱いほどの来園者が多いし、しかもとても詳しい。動物の福祉のために「資産を全部提供してもいいです」という人もいます。40年ぐらい前まではあり得ないことでした。

実はこういうことは海外では当たり前で、チューリッヒの動物園なんかは遺産管理セクションというものがあるそうです。専門官がいて、大富豪の方を10年ぐらい追いかけてケアする。最終的に亡くなられたら、遺産が何十億と入る。そういった寄付金で成り立つのがヨーロッパ、アメリカの先進動物園なのですね。だから、そういう人たちの思いを実現しないと成り立たない。

大沼 強い思いを持った人たちの意見が反映される形ですね。

村田 そうですね。「珍しい動物を見たい」というのは数十年前の話で、今は「この子(個体)を見たい。この子を大切にしたい」という希望が強くなっています。ホッキョクグマのバリーバちゃんとか、ツヨシちゃんとか、個体に対する愛情がすごく強いんです。

そこでアニマルウェルフェア(動物福祉)というものが非常に重要になってくる。

大沼 思い入れが出てくれば、こんな劣悪な環境でいいのかと思いますね。

村田 動物園の役割は時代とともにすごく変わってくるんですよね。今はやはり動物を守るとか、保全で言えば、繁殖させ、将来的に再導入させることが大きな目的になっていて、飼育する以上は動物の幸せを保証すべきであるという考えが主流です。それは人間の責任だし、動物が生きる尊厳は認めなければいけない。

大沼 動物の調達はどういう形でされるのですか。

村田 今は、動物園で繁殖した動物がほとんどです。野生で捕獲することはかなり稀になってきています。あとは国内もしくは国外の動物園のネットワークの中で移動させて、遺伝的多様性を保ちながら飼育下で保存していくようになっています。

ヒサ でも、お客さんはパンダが来たら、皆行くじゃない。だから、動物園側の意識と、お客さん側の意識はまだまだ一致していないよね。

村田 ただ、意識がかなり変わりつつありますよ。昔の来園者の考え方を動物園のトップクラスの人がまだ持っているということが結構問題かもしれませんね。

大沼 現在、日本の動物園に対しては、寄付はどれぐらいあるのでしょうか。

村田 寄付はあるのですが、公益財団法人の場合は巨額のお金を得られないシステムもあるのですね。なかなか公立の動物園で寄付を受け入れるシステムというのも難しくて市全体の雑収入になってしまう。

大沼 一般財源になるわけですね。

村田 そこから動物園に下りてくればいいのですが。京都市動物園で、ある女性が高額寄付して、それがゴリラ舎の建築費に補塡された例はあります。

人間中心からの脱却

大沼 最近は、例えば夜に動物を見せることもやられるようになってきましたね。

村田 夏場にやっていますが、動物のストレスの問題もあります。

動物の福祉とかエンリッチメントとか行動展示と言われているのは、ほとんど来園者が訪れる時間帯にやっているわけです。当然行動展示もお客さんが見ているときにやっている。

でも、動物たちが過ごす1日のうちの16時間は寝室なのです。しかし、その時間帯におけるエンリッチメントや福祉は、あまり考えられていなかったのです。動物の福祉と言いながら、本当に動物のためにはやっていなかったという反省点があります。

長谷川 哺乳類ってほとんど夜行性ですよね。昼行性で多いのが霊長類、サルでしょう。人間はサルだから、哺乳類全体の中では昼間動くマイナーな存在なんですけれど、自分たちに合わせて、95%の哺乳類を昼に見せようとしているわけですよね(笑)。

私は動物園に対して1つ思うのは、社会性のある動物を1匹ずつ飼うようなことですね。あれは、彼らにとってすごくかわいそうなことだと思います。誰か仲間が一緒にいるのが当たり前の状態の動物を、お金がかかるからとかいろいろな理由で1匹しか飼えない場面はたくさんあります。

村田 でも、動物園で社会性の再現をするのは難しいですね。かなり広大な面積が必要になりますし。

長谷川 相性もありますし、難しいですよね。

村田 人間の考えでペアにしたとしても、喧嘩をしてしまったり。

長谷川 あと、あんなに人に見られているというのはやはりストレスでしょう? ですので、「見えない、見えない」と怒るお客には「ちょっと、まあまあ」と制して、チラッとしか見えないような作りは双方にいいんじゃないですか。人間が動物について学ぶ意味でも。

村田 でも最近は、来園者から隠れ場所がないというクレームも寄せられるんですよ。そういうところを見ている人も出てきたので、動物園も対応すべきでしょう。

動物の尊厳を守るということだと思うのです。生き物の権利を守る、生き方、幸福を保障する。その後に、動物と人間との触れ合いを導入しないといけない。人間中心に考えていると、動物園は将来もたないのではないかと思います。

動物園は自然への扉とよく言われるのですが、本当にそういう役割を果たせるのかどうかが問題です。

大沼 「動物園に行ったから、次はアフリカのサバンナに行ってみたい」という人が出てくればいいわけですよね。

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