【三人閑談】
クラフトドリンク造りの愉しみ
2024/07/19
クラフトドリンクのコミュニティ
山口 クラフトサケが注目されたのは、製造元が直接顧客に販売するD to C(Direct to Customer)の流行と時期が重なったのも大きいと思います。この時、山下貴嗣さんがやっているチョコレートのMinimal(本誌2021年2月号)や、稲川琢磨さんの日本酒のWAKAZE(同2021年10月号)のように、いろいろなジャンルでプレイヤーが登場しました。僕がクラウドファンディングで始めたのもWAKAZEの影響です。
佐藤 僕はhaccobaを始める前、WAKAZEで一緒にやらないかと声を掛けられていました。彼らがパリで酒造りを始める話も聞いており、WAKAZEに参画するのもいいけれど、自分でもやりたいと思ったのです。
クラフトサケはWAKAZE以来市民権を得た感じですが、このジャンルのネーミングはいまだに揺れています。「クラフトサケ」でいいのかと。
古谷 他に呼び方があるのですか。
佐藤 いや、ないんです。haccobaは「その他の醸造酒」の蔵元として、WAKAZEと浅草の木花乃醸造所に続き3件目なのですが、ブランド名に「Craft Sake Brewery」を入れたのはうちが最初でした。
「Craft Sake Brewery」を名乗る理由は海外での醸造所設立を想定しているからです。海外ではお米の酒を造っている蔵の多くは、「Craft Sake Brewery」と謳っています。そうしたら国内で予想以上に「クラフトサケ」がジャンルとしての広がりを見せた。
山口 ドリンクで最初に「クラフト」を冠したのは米国のクラフトビールですよね。
佐藤 そうですね。クラフトビールはブリュワーズ・アソシエーションができ、そこから皆でマーケットをつくる動きが広まりました。僕らもそれを知り、同業者のアソシエーションでマーケットをつくり盛り上げたいと思っています。
山口 クラフトコーラにそういうコミュニティはありますか?
古谷 一昨年、伊良コーラとクラフトコーラカルチャーの公式発信基地にしようと「クラフトコーラウェーブ」というウェブメディアを始めました。ともコーラがOEMを委託している大阪の工場も今では50社のコーラを造っています。
佐藤 産業が生まれていますね。
古谷 ただ、マーケティングができているかというとまだ弱いのです。最近はカフェなどで独自にクラフトコーラを造っていたりします。
見かける頻度は増えたので小さな市場ができているのかもしれません。とは言え小さいブランドが集まって盛り上げようとしても、大手飲料メーカーが、一瞬でその売上げを抜き去ってしまう。
誤解されるクラフト
山口 米国では、クラフトビールがきちんと定義付けされているんです。「小規模であること」「独立していること」「伝統的であること」の3つです。ですが、日本では大手飲料メーカーがそれを壊してしまった。
実は、日本のビール業界には地ビールで失敗した過去があります。それをもう一度リブランディングしようと、定義が曖昧なままでいたら、大手が「クラフトビール」を名乗り始めてしまったのです。
古谷 クラフトコーラも似ています。やはり大手が「クラフト」と銘打って出したのは、ただのコーラにスパイスの粉を少しまぶしただけの商品でした。それがコンビニで売られているのはジャンルの失墜だと思っています。ワードだけをマーケティング的に借用して文化に敬意を示さないのは残念です。
山口 そうですよね。ほとんどが大規模メーカーで、伝統というよりも大規模生産に最適化された造りをしている。
古谷 消費者の問題もありますよね。それが偽物だとしても「聞いたことある」と言って食い付いてしまう。でも、クラフトが100~200円で買えるわけがないんです(笑)。
山口 そう。そういう意味でも、日本酒こそ日本オリジナルのクラフトだと思うんです。海外でもクラフトは小規模で独立的で伝統的だという信頼があります。
佐藤 だから日本の今のようなクラフト受容を見ていると、「クラフトサケ」と呼ぶのは抵抗があるんです。僕の個人的な思いはジャンルとしての「クラフトサケ」を確立したいわけではない。日本で造られている米の酒がほぼすべて「クラフトサケ」ですからね。
山口 酒蔵の職人さんがイラッとしてしまいそう。以前、日本を代表するある日本酒の酒蔵を見学させていただいた時に、「あそこは商業化したからもう本物ではない」と言われていることに社長が憤っておられました。
古谷 「商業化したら本物ではない」という発想が妙ですよね。
山口 モノは良くなっているのに、ファン離れのようなことが起きているそうです。売れたミュージシャンのファンが「もう俺がファンだった頃のあいつじゃない」と言い出すみたいなことなのでしょうか(笑)。日本酒に比べ、ビールでそういう声は聞かれません。皆、よなよなエールが嫌いとは言わない。
古谷 よなよなエールはクラフトビールなのでしょうか。
山口 個人的にはクラフトのバランスをとっているイメージです。今やスモールではないかもしれませんが。
佐藤 「スモール」の定義は都合に合わせて変わっているところもあります。パイオニアの人たちもビッグになっていくからそれに合わせて規模の定義が変えられている。
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