【三人閑談】
クラフトドリンク造りの愉しみ
2024/07/19
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山口 公大(やまぐち こうた)
連続起業家、株式会社TRYPEAKS代表。
2010年慶應義塾大学環境情報学部卒業。アフリカ最高峰キリマンジャロ登頂時に麓で飲んだキリマンジャロビールの美味しさに魅せられ、ビール造りに興味を抱く。 -
佐藤 太亮(さとう たいすけ)
醸造家、haccoba, Inc.代表、クラフトサケブリュワリー協会副会長。
2015年慶應義塾大学経済学部卒業。かつて日本で造られていた自家醸造酒「どぶろく」のレシピや文化に魅せられ、福島県南相馬市小高と同県浪江町で酒蔵を営む。
“飲みたいから造る”
山口 僕は、TRYPEAKSという会社でクラフトビールを造っています。レシピなどを開発して工場に製造を委託する、いわゆるOEMでやっています。2018年にクラウドファンディングを立ち上げ、2019年に創業しました。
きっかけは2018年に脱サラしてキリマンジャロに登った時です。帰国したら起業しようと決めて登りました。何をやるかは考えず下山した時に思い浮かんだことをやるつもりでした。
キリマンジャロでは下山するとキリマンジャロビールが振る舞われるのですが、では何をするかと考えていたタイミングでビールが出てきた。乾杯する時に「これをやれ」ということだなと合点したんです(笑)。
佐藤 近場で見つけましたね(笑)。
山口 そう。僕はそれまで会社員をしながらバーの立ち上げもしていたので、ビールは比較的近い領域でした。
佐藤 僕は福島県南相馬市の小高で「haccoba(ハッコウバ)」という酒蔵を立ち上げ、2021年からお酒を造っています。造っているのは基本的に米のお酒ですが、米以外の原料も一緒に発酵させています。メディアでは「クラフトサケ」と呼ばれ、新しいジャンルとして紹介されることもあります。
今は酒税法で禁止されていますが、実は日本にはもともと家でお酒を造る文化がありました。お酒を造れない国は世界的に見ても少ない中で、僕は常々日本人は酒造りの喜びを忘れさせられていると思っていました。
自家醸造していた時代のレシピ本を見ると、かつては皆自由にお酒を造っている。米と一緒に土地の果物やハーブを入れたり、あわやひえひえなども使っていました。この“飲みたいから造る”楽しさを取り戻したいと思い、日々お酒を造っています。
古谷 私は2019年に会社をつくり、クラフトコーラを造って販売しています。ドリンクは今、主に2つやっていて、1つは「ともコーラ」というクラフトコーラの会社です。もう1つの「日本草木(くさき)研究所」はドリンクだけでなく、日本の山に群生する可食植物を原料にお酒などを造っています。
私はもともとマーケティングの仕事をしていました。2018年頃にドリンク市場を調べる中で、クラフトのジンやビールの次は何があり得るかと考え、クラフトコーラに行き着いたのです。そこでまず、自家製のクラフトコーラを造り、クライアントに新規事業として提案しました。スパイスやハーブがもともと好きでいろいろと工夫したのですが、クライアントには好評だったものの実現には至らず、「こんなにいいのにどうしてやらないの?」と思い、自分で始めることにしました。
クラフトドリンクの“特別感”
古谷 私はもともと好きだった野草探しが長じてクラフトコーラを造り始めたのですが、「ともコーラ」の発表と同時期に、東京の伊良(いよし)コーラというブランドもした。自分でもイケると思って始めたことですが、クラフトコーラなどというよくわからない概念を同時期に考えていた人がいたのかと驚きました。
佐藤 野草探しは子どもの頃からやっていたのですか?
古谷 そうです。コーラは東アジアや東南アジアのスパイスやハーブで造るのですが、日本の素材でも造れるのではないかと思っていました。それと同時に、コーラだけを造っても、と思い、日本の植物を有効活用できる会社として日本草木研究所を始めたのです。
クラフトコーラを造ってみて面白いなと感じたのは、お酒を飲む人の中にあるパターンを見つけたことです。それは「本当はノンアル(ノンアルコール飲料)を飲みたいけれど、ソフトドリンクは損をしている気分だからお酒を飲む」という考え方。友だちの結婚式でクラフトコーラを出してみると、わりと多くの人がお酒ではなくクラフトコーラを選んだのです。
理由を訊いたところ、同じノンアルでもクラフトだと特別感があるということでした。オレンジジュースやウーロン茶とは違い、お酒に比べて劣っている感じがしないのだそう。クラフトにはノンアルの高級路線の可能性があり得ると感じました。
山口 たしかに普通のコーラは原液を薄めている感じがあります。
古谷 だから私は「クラフトサケ」のことが気になっていたのです。これも新しいカテゴリーですよね。
佐藤 クラフトサケは「その他の醸造酒」に分類されています。
古谷 クラフトサケも一斉に広まった印象がありました。醸造家の人たち同士仲がいいし、皆で頑張ろうとしているところが既存の日本酒業界と違って面白い。
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古谷 知華(ふるや ともか)
調香師、プロデューサー、日本草木研究所発起人。
東京大学工学部建築学科卒業。調香やハーブ・スパイスに関する知識を活かし、飲食ブランドを設立。日本各地の山に入り食材収穫するのが趣味。