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【三人閑談】
クラフトドリンク造りの愉しみ

2024/07/19

クラフトドリンクの地域性

古谷 醸造所の場所や素材へのこだわりはありますか?

山口 日本酒はありそうですよね。ビールはどうだろう。個人的な意見ですが、やはり地ビールで失敗した過去が大きいと思います。

かつて地域ごとの醸造所がお土産ユースのビールを造っては道の駅に卸していたことがありました。しかしその質がとても低かった。今は改善されましたが、世間的には地ビール=劣化版みたいな印象をもたれてしまったのです。その反省から、僕たちは地ビールと受けとめられないようにしています。

佐藤 僕らは逆にローカルに軸足を置くことを大事にしています。ホップ(カラハナソウ)を使い始めたのもそうです。東北ではもともとホップを使ったどぶろく造りも行われてきました。

実際に使うのは日本に生えているカラハナソウという植物ですが、僕らが最初、何を大切にしたいかと考えた時に出てきたのは素材でした。そこで秋田で山を持っている方とつながり、そのカラハナソウを使い続けています。

製造量が増える中でこのやり方がどこまで通用するかはわかりませんが、ローカルコミュニティを大切にすることも、拠点をもって酒造りをやっている立場では重要です。その地域で愛されて、かつ、1000年単位で続く酒蔵の一歩を刻みたい。日本には500年くらい続いている酒蔵はザラにあるので、数百年というのは普通に考え得る時間軸なんです。

そのためにもローカルコミュニティや地域の自然環境は切っても切り離せない関係です。自然が終わったら酒造りも終わってしまう。すべては時間軸の見きわめに関わります。

日本中の酒蔵が地域を大事にするのはそういうことだと思うんです。酒蔵の十数代目という人たちと話すと、自分たちの代の繁栄の話にならない。やはり皆、孫の世代くらい先を見越して話をします。「50年後はこうありたいから今これをやる」という感じです。

サステナブルであるために

山口 確かに、醸造所をやっていると地域は大きな存在ですね。TRYPEAKSの醸造所は沼津ですが、OEMではB to Bにおけるローカルな関係性を大事にしつつ、B to Cではローカル色を出さずにわりと切り分けているところがあります。

古谷 私たちには提携する山主さんが北海道から沖縄まで全国20カ所にいます。これまでは山に生えているものを摘み取っていただけでした。ですが、最近、マタタビの実を年間5千キロ買いたいというオーダーがあり、栽培も始めることになりました。

山主さんと協力して栽培するので、東京を拠点にしつつ、各地の山にも強い思い入れがあります。いくつかの地域が自分たちのローカルになっているところがあります。

今つくっているものが次の世代にも需要が引き継がれるのかということ、さらに製造や栽培が引き継がれるのかという2つの問題があります。マタタビを5000キロ栽培することになったのも、それまで採ってくれていたおばあさんたちを束ねるおじいさんが亡くなったからです。その途端におばあさんたちと連絡が取れなくなってしまいました。

個人的な関係の中での取り引きでは産業にならないのです。ですので、山のものの産業化は私たちには大きな課題です。

佐藤 うちも同じ事情があります。カラハナソウの安定的な確保が難しくなった場合、どのように材料を調達するかは話し合っています。

古谷 私たちはそういう需要を会社として請け負いたいんです。

ともコーラの一番売れている銘柄はほとんど海外の材料を使っています。柑橘は全部国産ですが、ハーブやスパイスは輸入もののカルダモンやシナモンを使います。日本のスパイスだけで造るスペシャルエディションもありますが、それは年に1回、最大でも2000リットルしか製造できません。これを増やそうとすると原料の生産に関わっていくことになります。私たちはその部分を始めた感じです。

原料の調達を安定させようとすると、第1次原料を栽培しながら製造業もやる感じになります。佐藤さんの醸造所も隣にカラハナソウの畑をつくってはいかがですか?

佐藤 でも、産業にするとその後の代にまで責任が伴いますよね。マタタビを採っていたおばあちゃんたちが産業化したいと思っているのかという問題もあるし。産業化が行き過ぎると、山のバランスが崩れますよね。とても難しそうです。

古谷 産業化が行き過ぎることは防げると思います。基本的に自分たちが必要な量だけをつくるのでそれほど多くはない。それによってある地域が少しだけ活性化するような例がつくれれば良いのかなと思います。

現在の原料生産はこうした稼ぎ方のレパートリーが少ないのも課題です。需要があるものを作っていくことで新しい産業を作っていきたいのです。

クラフトから考える日本の植生

佐藤 お米は地元の農家さんとの関係の下で使えているので、うちも勉強させてもらうつもりで関係を深めています。農家さんがちゃんと稼げるものにしたいので適正価格で売買することが基本ですね。うちの酒かすで有機肥料を作ってもらい、お米を有機栽培することも今年始めます。

お米以外の素材は、例えばホップで言うと、最後に香りや味をつくる段階で西洋のホップを使うんです。日本のハーブやフルーツやスパイスでやりたいのですが、カラハナソウと西洋のホップを比べると、カラハナソウの香りはとても繊細です。入れても入れなくても、一般の消費者にとってわかりやすい美味しさにはならない。

でも、僕らもローカリティを追求しようとしたら、地の素材で造るべきなんです。それが僕らのやりたいカルチャーの到達点。自分たちが山に入って植物を採集するほどのことはまだできていないので是非やってみたい。その意味で古谷さんはすごいことをやっていると感じます。

古谷 でも、ホップが美味しいのは、これまでビールで使われる中で品種改良されているからでもあるじゃないですか。カラハナソウもポテンシャルがあると思いますよ。

実は生態学的に言うと、岩手でホップを栽培しているのはナンセンスなんです。というのも群生している場所が近いことでカラハナソウと交配してしまうからです。そうすると日本の種がなくなってしまう。

佐藤 駆逐されていくんですね。

古谷 そうです。長野で今、ヘーゼルナッツがつくられていますが、もともとは日本のヘーゼルナッツと呼ばれるハシバミが生えている土地です。だから群生地が近いとハシバミがなくなってしまう。これと同じことが岩手でも行われています。

本当はホップをつくらずに、むしろカラハナソウを美味しくすればいいと思います。でも誰もそれをやりません。

佐藤 なるほど。育ちやすいからといって近くで育ててしまうのは生態学的に良くないのですね。

古谷 雑種になってしまうのです。だから、私はカラハナソウの品種改良プロジェクトをやりましょうよと言いたい。

佐藤 それはいいですね。カラハナソウは本当に繊細で、ホップほどの苦みもないし、香りも強いわけではありません。でも、西洋のホップが品種改良されてきたようにカラハナソウでもそういうことが可能かもしれません。

古谷 最初は私もどうして悪いのだろうと思っていたのですが、植物学者の人たちと話すとそれがいかにひどいことかというのがわかりました。得てして海外のものは強く、在来種がなくなってしまう。

山口 ブラックバスみたい(笑)。

古谷 そうですね。外来種は香りが強く、ということは生命力も強いのでしょう。個体も大きい。クラフトドリンク造りを追究すると素材の問題に直面し、それが植生のあり方を考えることにつながっていくのですね。

(2024年5月20日、三田キャンパスにて収録)

※所属・職名等は本誌発刊当時のものです。

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