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【三人閑談】
クラフトドリンク造りの愉しみ

2024/07/19

こだわりをいかに届けるか

古谷 そういう視点からクラフトサケを見て気になるのは、お酒のリテラシーが高くない人とどういうコミュニケーションをとるかということです。クラフトサケには美食家の人が飲んでいるイメージがありますが、そうじゃない人には「日本酒に香りを付けただけ」と誤解されてしまいそうです。佐藤さんはどんな工夫をしていますか?

佐藤 まさにそれが課題です。今は食が好きな人や味覚の探求心が強い人にだけ届いている感じです。そうじゃない人にどう届けるかは大問題です。

古谷 クラフトサケは高級店のペアリングで出されますよね。そこで知る人も多いはず。

佐藤 造り手側からのコミュニケーションで大事にしているのは、「家でお酒を造っていた時代はこういうものだったんです」と言うことです。もちろん今の酒蔵のかたちもあるので、商業化以前の酒造りだけを主張したいわけではありません。ですが、ある意味ではそれが本質ということも初期から言い続けています。するとお客さんだけでなく料理人の方にも喜んでもらえる。

山口 きちんと説明してくれる場所で提供されるのは良いですね。

古谷 裾野を広げたいとは思っていますか?

佐藤 普通の日本酒よりも飲みやすいので、若い世代の裾野は広げられるはずだと思っています。

山口 裾野を広げるか、思い切り深掘りするか、迷いませんか?

佐藤 その両方のバランスでずっと悩んでいますよ。

山口 クラフトビールもそうです。一番よくできたと思う商品が一番売れていなかったりする(笑)。

古谷 それは面白いですね。こだわったものほど売れないという。

山口 イングリッシュペールエールと言って、ビター系でカラメルのような甘みがわずかにある、ちびちび飲むようなビールなんです。最高に良くできたと思ったんだけど……(笑)。

逆に、ヒューガルテンに近づける感じで、皆が飲みやすいように造ったものがすごく売れたりして、日本人の好みは悩ましいと思いました。

ものづくりとビジネスの間で

山口 以前、同じ3本のビールをラベルの色を変えて友人たちに渡す実験をしたことがあります。「どうだった?」と訊くと、皆「○○が一番美味しい」と言う。

古谷 面白い。あてにならない。

山口 中には「全部一緒じゃないか」と言う人もいましたが、ほとんどの人は「これが一番美味しかった」と言いました。

佐藤 嫌な実験ですね(笑)。

山口 それを聞き、多くの人は“雰囲気”で飲んでいるとわかりました。だから最近は味にこだわりつつ、どうすれば雰囲気をつくり出せるかということに関心があります。

古谷 ビールの味はどのようにつくっていますか?

山口 僕は基本的に自分でつくりません。飲食店のお土産やスポーツチームのグッズとしてビールを造ることが多いので、まずはそのコミュニティに入り、日本で買える200種類くらいのビールを関係者に振る舞います。そこで好みを聞き、人気の高かったものをチームでレシピにします。全員が納得感を持てるような造り方をします。

佐藤 多数決っぽくなって味がぼやけたりはしませんか。

山口 そうなる時もあります。この造り方だとエッジがきいたものにはなりません。逆に1人で造っていくとマニアックな味になっていき、売れないものになっていく。

佐藤 そうなりますよね。

山口 そういう自己満足を避けるために造り方を変えたところもあります。ある程度はビジネスとして成り立っていないと趣味になってしまいます。そのバランスが難しいですね。

古谷 コーラの場合は本当に何でも原料になってしまうので、「これを使ってほしい」というオーダーを受けることも多いです。例えば、廃棄する無農薬バナナの皮や、バターを作る時に入れるホエー(乳精)など。変わったオーダーが結構あります。これまでは私がすべて味をつくっていたのですが、最近はそれを確かめてもらう工程を入れています。

私は味をつくるのは独学で、調香や化学の勉強もしたのですが、結局は舌と鼻だなと思い至りました。いろいろな素材を味わい続けると、鼻も訓練されますよね。自分の感覚を養いながら味をつくっています。

佐藤 僕らも同じです。味覚の幅と深さをどれだけ持てているか。料理、ドリンク、あらゆるものを摂取して、ヒントを探っている感じです。

その一方で課題もあります。haccobaはいつも僕が味を決めて、最終チェックを妻にしてもらうのが基本路線になっています。今度ベルギーで醸造所を始める予定なのですが、すると、僕が日本を離れることになります。酒の味にタッチできなくなる期間が生まれるので、メンバーと味覚の幅を共有しようとしているのですが、これがとても難しい。

どのように味を作るか

山口 haccobaではどんな素材を使っているのですか?

佐藤 僕らはスパイスもフルーツもハーブも使いますし、先ほど話に出たホエーも使ったりします。基本的には自分たちが飲みたいものを造る感じです。

でも、それは造りたいものを造ることとは違います。飲み手として飲みたいものではなくなると、技術的な追究になってしまうことがあります。とくにある程度商業性があるクラフト的なものは、完全なるアートをやっているわけではないので、飲み手としての自分の気持ちを持ち続けるようにしています。

もちろん、自分たちが飲みたいものの前に、直感的にこの素材を入れたら美味しくなるだろうと発想するのもありだと思います。でも、僕らがそれをやるには、自分たちにとってどういう意味があるのかと最初に問うようにしています。

山口 売れそうだから造るという考え方はありですか?

佐藤 うちは“なし”にしています。自分たちがやっていることが酒造りの本質であると思っていたいし、そう思ってもらいたい。そう考えると、売れそうだから造るという話で片づけられないという感じですね。

山口 僕は素材を探究するところまではいかないです。ただ、ビールの味はストックしておきます。味覚の体系化は難しいと思うのですが、例えば「あの銘柄のこの風味を少し減らした感じ」と言語化はできます。そのボキャブラリーを増やしたい。ビールもブレンドする麦の種類や、ホップを加える量やタイミングなど、変数がいくつもあります。それをディレクションができるほどには数を飲んできました。

ではその味を実現させるためにどのような素材を使うか、というところは職人さんにお任せします。職人以外にも、うちのメンバーには飲んだビールのレシピを書ける人がいるので、その部分も完全に頼ることにしています。

佐藤 僕らはコラボレーションも大事にしています。造り手のエゴにならないための“素人”の視点が欲しいからです。飲み手としてのピュアな意見を採り入れることをブランドの仕組みにしたいという考えもあります。

これまでには、例えばチョコレートブランドや、伊良コーラさんとも一緒にやりました。コラボすると「こういう酒を造れませんか?」とフランクに言われます。チョコレートブランドからはガトーショコラを入れられないか、とか。

さすがにガトーショコラは実現しませんでしたが、酒造りに詳しくない人たちに投げかけられると、意外とアリかもと幅を広げてもらえます。他の分野のプロとのコラボは単純に楽しいだけじゃなく、エゴに陥らない仕組みを持てるのも大きい。それはクラフトビールの文化から学んだことでもあります。

クラフトビールはメイカーがコラボをして、ファンを共有したりもしていますね。

山口 クラフトビールにはファンカルチャーをうまくつくっているところがあります。海外ではブリュードッグが世界で一番上手でしょうし、日本ではよなよなエールの戦略も巧みです。

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