【三人閑談】
クラフトドリンク造りの愉しみ
2024/07/19
何をもってクラフトと呼ぶか
山口 クラフトコーラは比較的プレイヤーが少なそうですが、誤った消費を招いていることはないですか?
古谷 コーラは誰でも造れるので参入障壁がほとんどないんです。この2年ほどでブランドは150件ほどに増えました。
ともコーラはOEMで製造しているにもかかわらず、OEMを請け負う立場にもなりました。依頼に応じてレシピを開発し、製造・納品も手掛けています。最近は「これから始めたい」と言われても「もう遅いと思います」と返すこともあります。これ以上ブランドが増えても飽和状態になるだけですし、競合が進めば簡単に淘汰される状況でもあります。
これから残るのは地域で愛されるブランドですね。鹿児島の喜界島ではTOBA TOBAコーラが浸透しています。小さな島ですが、空港から居酒屋までどこでも飲めます。そういうものに成長すれば絶対になくなりません。
そういう状況の中で、ともコーラは最近、米国にも輸出を始めました。ですが、「クラフトコーラ」ではなく「ゆずコーラ」と謳っています。というのも向こうではコーラを普通に手造りするから。
佐藤 なるほど。「クラフトコーラ」が根付いている地域では、クラフトはブランドにならないのですね。
古谷 そう。調べると「クラフトコーラ」を打ち出しているところは世界で1つもありませんでした。
山口 では日本でつくられた造語?
古谷 そうですね。クラフトビールは米国でも「クラフトビール」ですか?
山口 米国でもそう呼ばれます。日本はビールでも、ジンでも、オリジンの定義から離れた「クラフト○○」が広まってしまいましたね。
古谷 ヘンな話ですよね。そうなると、どこまでをクラフトと呼んでいいのか。日本は今、すべてが何となく「クラフト○○」で通用してしまっています。
「クラフトはメディアである」
佐藤 クラフトはカウンターカルチャーでもあると思うんです。クラフトビールも大手メーカーの寡占状態に対して、「ビールってもともと多様だったよね」というメッセージが込められている。多様性への回帰に美意識があって、僕はそれがクラフトに通底している面白さだと思います。
山口 原点回帰と言う人も多いですね。もともと地域や家庭で各々造って消費していた飲み物がその後大量生産・大量消費化された。それをもう一度民主化しようという動きですよね。
佐藤 僕は、クラフトサケのようなものに飲み手の方々がどこまで付いてきてくれるかが気になっています。もともとお酒はお酒であって、ジャンルなんてなかったのです。僕らは今、ホップを入れたお酒を造っていますが、昔の日本でもどぶろくを造る時にホップ(カラハナソウ)を入れたりしていました。
ホームブリュワーの人たちはただ美味い飲み物を造ることを追求していた。それが商品となって消費者に消費されるようになると、飲み手が受けとりやすいようにジャンル分けが進んでいく。そういう中で、クラフトを深掘りして本質に戻り過ぎてしまうと、誰も付いてこられないのではないかと思うんです。
山口 古谷さんは凝り過ぎて、お客さんが付いてこなくなったことはありますか。
古谷 私は凝ったものを造らないんです。というのも、クラフトはメディアであるべきだとずっと思っているから。実は私自身、もともとコーラは好きではないんです(笑)。
ただ、クラフトには何でも混ぜられる自由がある。地域の果物やハーブを入れると素材そのものに関心がなくてもドリンクに興味をもつ人がいます。私は多分、メディアとして分かりやすいものをつくることにしか興味がないのだと思います。
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