【特集:「多死社会」を考える】
藤井 多希子:将来推計からみた"多死社会"の実像
2026/02/05
5 「多死社会」を誰がどう受け止めるか
日本では、団塊の世代が75歳以上の後期高齢者となる2025年を1つの到達点として、早くから高齢社会への備えを進めてきた。その象徴が、2000年に創設された介護保険制度である。あわせて、医療・介護・予防・生活支援・住まいを一体的に地域で提供する「地域包括ケアシステム」の構築が進められてきた。
この四半世紀の取り組みにより、医療と介護の専門的なケアについては制度化と連携が進み、かつてと比べれば格段に在宅療養が可能な環境が整いつつある。しかしその一方で、契約行為や様々な手続き、金銭管理などの日常生活の細かな支援、さらには前項で述べたような意思決定の支援といった領域については、依然として家族が担う部分が大きいのが実情である。制度による支援が拡充される一方で、その前提として「家族の存在」が暗黙のうちに組み込まれてきたともいえる。
しかし、単独世帯の増加や未婚者割合の上昇、家族関係の多様化が進むなかで、こうした前提は次第に成り立たなくなってきた。このため2015年頃から、それまで家族が無償かつ包括的に担ってきたインフォーマルなケアを、地域の様々な主体に分散して地域全体で支援が必要な人を支えるという方向へと、大きな転換が図られてきた。「家族ケアから地域ケアへ」というこの流れは、「地域共生社会」という大きな理念のもと、高齢者に限らず、障害者、子ども、生活困窮者など、支援を必要とするすべての人を対象とし、一方的に支える/支えられるという関係性ではなく、時には支え、時には支えられるという地域での支え合いの考え方へと政策の軸足が移されてきたことを示している。
そして、その方向性を確実に具体化する策として、2021年からは重層的支援体制整備事業が始まった。これは分野や制度の縦割りを超えた支援体制の構築を可能とするものであるが、地域の実態に即した仕組みを自治体主導で実施することが求められており、ハードルが高いせいか2025年度の実施自治体数は473(2024年10月時点の調査に基づく実施予定数)と全自治体の3割弱にとどまっている。
「死」はもはや個人や家族だけが引き受ける出来事ではなくなりつつある。多死社会とは、死の数が増える社会であると同時に、死をどのように受け止め、支え、つなぐのかが地域全体に問われる社会でもある。そのなかで、自治体が果たす役割は、これまで以上に広範に、かつ重いものとなっていくだろう。
※所属・職名等は本誌発刊当時のものです。
2026年2月号
【特集:「多死社会」を考える】
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