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【特集:物流危機を考える】
座談会:「2024年問題」は本当に起きるのか?

2023/12/05

ドライバーがハッピーになる施策を

國領 だいぶ論点は出てきたと思いますので、最後に政策とか、こういう商慣行を変えていこうよ、ということがあれば伺いたいと思います。

長野 荷物のバッファをもっと増やさなければいけないということが1つあると思います。例えばカップ麵の会社で積み込みをやっているといろいろな業者の車が入っているので、トラックがどんどん来る。

でも、一社で何台分も積む会社では積み込み専門のドライバーを常駐させ、積み込みができた車はこちらへ置いておきます、というものが必要だと思います。次に、走る専門の人が出勤してきて積み込み済のトラックに乗って長距離を走る。そういうバッファが必要だと思います。

海上コンテナはそれがあるんです。船舶利用のフェリーも自分のタイミングでお客さんのところへ行って荷物を積んできて、トレーラーを港に切り離して帰る。でも、切り離しができないトラックではバッファがないのです。

小野塚 トラックも最近は、スワップボディコンテナという荷台部分を切り離せる車両がありますね。納品先に着いたらすぐに荷台部分を分離し、車両本体は前回到着時に置いていった荷台を持っていく。そうすれば、ドライバーは運転だけに時間を費やせる。

國領 もともとコンテナはそういう発想ですよね。

小野塚 おっしゃる通りです。

長野 それから、モーダルシフトの話ですが、政府の物流革新緊急パッケージの項目は、物流全体から見てボリュームの小さい分野への対策が目立ち、使えるのは大手だけです。船にしても運べるトレーラーは数百台とか数千台ぐらい。毎晩何万台というトラックが動いているので一部の解消にしかならない。下請会社が実運送をしているボリュームの大きい部分をどうやって改革していくかが重要だと思います。

2024年問題で労働時間、拘束時間が減らされ、仕事ができない分、ドライバーの手取りが減ります。この2024年問題は、本当は家に帰ったら自由な時間が増えるわけですから、ドライバーがハッピーにならなければいけないのに、誰もハッピーになりそうにない。

例えば夜の高速道路のパーキングエリアなど、法定で4時間に30分運転を止めなければなりませんが、トラックを停めるところがなく道路まで溢れていて、時々そこに追突して死亡事故が起きている。そういうところを、「10年でパーキングエリアの停められる台数を倍にします」とか、実際にドライバーが喜ぶようなことをしないといけない。

また、2023年に月60時間超の残業代は1.5倍にするとされましたが、それがほとんど実行されておらず、マスコミもほとんど言わない。

それがきちんと機能すれば、労働時間が減っても給料は変わらないはずです。

成熟社会日本と物流

國領 帖佐さん、いかがですか。

帖佐 待機時間の問題ですが、例えば大井ふ頭などはひどい渋滞するんです。要は小さな倉庫がたくさんあって、トラックバースは2、3個しかないような倉庫が延々と続いている。でも、誰も再開発しようとしないわけです。それは所有権が分かれている倉庫で、建て替える資金を工面できないとか、隣の地権者と一緒にやるという発想がないところに大きな原因があるんです。

例えばわれわれの相模原の一棟で10万坪以上あるような非常に大きい倉庫は、かなり広い屋上に駐車スペースがいっぱいできる。そうすると、ボディースワップはとてもやりやすい。

そういうゆとりのある設計にすれば、かなり待ち時間の効率化ができるのに、古くて小さい倉庫がずっと連なり、それぞれにトラックが1台、2台しか停められない。そうすると循環しなくなるわけです。ですので、倉庫1人1人の地権者が自分の土地を差し出して、4区画集まれば、あなたの土地代はこれだけ価値が上がりますよという施策ができればよいと思うんです。

土地代を上げるのは容積率を上げればいいだけの話なんです。例えば大体工業地域は200%の容積率しかないのですが、4区画以上集まれば300%にしてあげましょうというと、不動産の価格は、理屈上は1.5倍ぐらいになるはずです。大きな施設を開発するデベロッパーに対しては、駐車場の附置義務を厳しくすればいい。これは実現できる話ではないかと思います。

小野塚 海外に目を向け、中国の自動運転トラックの状況を見ると、いつから日本は「憧れられる国」ではなくて、他国を「憧れる国」になったのでしょうかと思います。特に物流の領域においては憧れる一方です。たぶん新幹線を作った時は、こんなに素晴らしい鉄道は世界になかった。高度経済成長期、日本はある一時期とても憧れられる国でした。しかし、今や残念ながら中国に行っても相手にされない状況になっています。これでいいんですかと。

日本は世界でもっとも高齢化が進んでいます。だから、生産年齢人口が少なくても成り立つ社会を作り上げられれば、世界の最先端をリードできるはずで、その意味で物流はいいチャンスだと思っています。

物流は日本で一番労働集約的な産業のうちの1つですが、それが今ものすごい勢いで壊れようとしている。自動運転はこれを完全にひっくり返せる。労働生産性がガラッと変わる社会が到来する。ポイントは、テクノロジーがもたらすインパクトです。

もう1つ、物流はありとあらゆる産業につながっています。経済の血脈とも言われますが、ほとんどすべての産業が物を運びます。だから、物流が変われば日本の産業全体が変わります。

日本という国は成熟し、社会自体が高齢者です。だから、物流は動脈硬化しているわけですが、血管が生まれ変われば臓器も生まれ変わるはずです。なので、イノベーションしませんかと。進化に対しての投資をぜひ国や民間には期待したいですし、慶應義塾もそういう人を輩出してほしいと思います。

憧れられる国に再びなるために

佐々木 私は運ぶことを最適化することを8年半ぐらいやってきていますが、業界の岩盤が分厚いんですね。小野塚さんの言う進化に投資をするためには、投資対効果の考え方を変えていかないといけないと、思っています。

例えばデジタル投資も、ロボティクスの投資も、それによって人がどれだけ削減できるか、人工(にんく)がどれだけ削減できるかですが、それに人件費をかけてROI(投資利益率)のRにしているんですが、そうするとなかなか効果が出せないということで、稟議が通らずに決裁されないケースが非常に多い。

それに対して、日本のデジタル系の人たちやロボティクスの人たちは価格を下げるんです。そうすると儲からなくて回らないから、いいものを作れないという悪循環に陥っていく。

進化させるためには投資が企業から出てこないといけないのですが、企業の中のロジックだと、どうしてもスタックしてしまう。ここを突破していかなければいけない。

最近、1つ光があるかなと思っているのが、物流に対する投資をサステナビリティー投資として捉え直すということです。企業は中長期的な視点に立って経営をしなければいけない。そういう視点に立った物流に対しての投資の枠組みのようなものを、政策として作れないかと思っています。物流に投資をしていくと中長期的にこれだけPLにもよくなるという考え方を編み出していくことが大事だと思います。

國領 本当に様々な論点を出していただきました。マクロ的には2024年の需要と供給を全部積み上げると、もしかしたら足りているかもしれないという話をいただきましたが、ミクロのレベルで考えると、ムラやムダに使っている時間があって、逼迫した状況が想定される。

その中で、今までドライバーがバッファになっていたものを、駐車スペースやデータでバッファすることを考えたり、中小の倉庫の集約化や、駐車スペースのようなものを確保していくような形で、状況を変えていきましょうという話がありました。

テクノロジーが劇的に進んでいく中、実は未来志向のことがたくさんできるはずで、それを積極的にやっていきながら、アジア全体が少子化していく中、またカーボンオフセットのように環境のことも重視されていく中、物流だけでなくて、日本の経済システム全体が最適のものを作っていく。そうすれば競争力のあるステータスを得られる日本が憧れられる国に再びなる可能性はあるということでしょうか。本日は有り難うございました。

(2023年10月19日、三田キャンパスにて収録)

※所属・職名等は本誌発刊当時のものです。

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