【特集:物流危機を考える】
座談会:「2024年問題」は本当に起きるのか?
2023/12/05
生産性と労働条件
小野塚 統計的に見るとトラックドライバーの人数は毎年2%ずつ減っていっているんです。それは世の中の統計が正しければという前提に立つのですが、長野さんの周りでは増えているかもしれませんが、一応全体として見ると減っていっているというのが、まず1つ言えるかなと思います。
また、今、ヤマトがメール便を日本郵便に委託することになって、メール便の配送をしていた方たちとの契約を打ち切るというので揉めていますが、あれは要するに共配したということです。日本郵便はお手紙の配達が本業でしょう、うちのメール便も運んでよ、そうすれば積載効率がよくなるでしょう、ということです。
でも、共同配送すると、ドライバーはその分だけ不要になるから、それで問題になった。輸送効率を高める取り組みであるにもかかわらず、報道では、「ヤマトは人を切った」という言い方をされがちなんです。
効率化するということは必要な人の数が減るということです。長い目で見たらどう考えても人手不足になっていくわけですが、足元で何か施策を打ったその瞬間だけはダブついてしまう。その人たちからすると職が奪われたという問題になる。
ただ私の立場からは、それでもやらなければ駄目だと思います。日本は世界に開かれていて、世界中でテクノロジーは進化している。他の国では、ロボットに置き換わるような作業はどんどんロボットに置き換わって、その人たちは人間でしかできない仕事にシフトしている。日本が今までどおりの仕事をしていたら、100年後、生産性が高い国はどちらですかということです。痛みを伴う改革をしない限り、日本の生産性は落ちる一方だと思います。
佐々木 長野さんのお話は、確かにその通りなんですが、その先を考えていくと、必要な労働量の絶対数が圧倒的に少なくなる未来はあり得ると思います。すると、たくさん労働してお金を得るという経済モデルでは、そもそもなくなる。
だからベーシックインカムのような話が出てきているのかもしれませんが、人が労働することで、富を蓄積していくようなモデル自体が、自動化等によって変わっていく可能性は確かに長期視点だとあると思います。過渡期はジョブのシフトをしていくことで賄っていくのでしょうけれど、そういうことがトラックドライバーの世界で起こるのかもしれません。
國領 理屈としては生産性を高めていきながら、労働条件をよくする、労働時間を減らしていきながら、分配率は高めていくということを描きたいわけですよね。今の政策の全体の考え方も、理屈の上ではそうなっている。
ただやはり、現場に目を向けていくと、いろいろなところに摩擦が起こっていて、それにきちんと手当てができていないと、やはり社会的な抵抗感でつぶれてしまうということが起こりかねないということですよね。
長野 一方で人間でなければできない仕事は、日本にまだ足りないのではないかと思うのです。一般の庶民がお金を持っていて、生き生きしていたのは、昭和の時代ではないかと思うんです。今は、本当はもっと生活が向上していかなければいけないのですが、昭和から比べると、エッセンシャルワーカーだけでなく、普通に働いている人の余裕がむしろ少なくなってしまっているのではないかという気がします。
あと生産性の話ですが、私が乗っているトレーラーはたぶんアメリカを走っているものと同じ大きさだと思います。この5年ぐらいでこのタイプは結構増えていて生産性は上がっているはずなんです。しかし、では1.5倍積めたら給料が1.5倍に上がるのかというと、ほとんど上がらない。
結局、運送会社の輸送力も余っているし、むしろ他の職種から来たいぐらいのところがあるから、賃金が需給関係で上がらない。本当に3割運べなくなったら、もっと運賃も上がるし、給料も上がると思います。
規制緩和の可能性
佐々木 小さな運送会社の社長さんは、結構いい車に乗っていますよね。だから運賃が上がっても分配しないのではとも思うのですが。
長野 小さい会社は結構分配しているんですよ。
佐々木 本当ですか。そこは給料も高いんですか。
長野 はい。なぜ小さな業者に人が行くかというと、分配率が高いんです。一部の業者は固定先から仕事をもらっているので、あまり営業をしなくても仕事が来る。
小野塚 営業マンが要らないから、その分だけトラックドライバーにお金を配れるということですね。
長野 極端な話、半分ぐらいあげてもいいわけです。残り半分で社長が外車に乗っている。雇われている人も納得して、大手よりも条件がきついけれど無理すれば高収入も望めるから働いている。それを大手は便利だから使っている。そういう構図になっています。
佐々木 そういう構造で中小の運送会社の社長さんは満足しているから、DXしようというモチベーションがないんですね。
小野塚 ただ、日本は個人事業主のトラックドライバーが認められていない。バンは別ですが、5台以上必要です。中国は8割、9割が個人事業主です。
でも、そのほうがデジタル化が進むんです。なぜなら、皆仕事が欲しいからスマホにアプリ入れて、自分でお仕事をもらいます。バンの人は運んだら運んだ分だけ儲かるから、一生懸命自分でスマホを使って営業をやっています。全員個人事業主になったら、実は変わるのではないかとも思います。
今、白ナンバーのタクシーを認めるかという議論が出てきていますが、トラックも白トラックがあり、これを認めたら、実はいろいろなアセットが余っているのではないかとも言われています。そういう規制緩和も考えていかなければいけないのではと思います。
白トラックは今のところ運行管理や車両管理が緩いので、むしろ緑ナンバー並みにきちんと管理するようにしてもらい、その代わり、営業していいとしたほうが、よほどよいと思います。
長野 現在の白ナンバーは、会社の自社の荷物を運んでいるのはありますが、自由に仕事を取っているトラックはほとんどないです。
佐々木 白ナンバーは基本はやってはいけないことになっていますね。ただ、卸だと自分の荷物なので白ナンバーで運べるんです。なので、在庫を買ってしまう運送会社という形で裏技を使いながら、構造を壊していくやり方はあるかもしれないですね。
物流倉庫のイノベーション
國領 帖佐さん、日本の配送センターは海外に比べて人のレベルが高いから機械化が進んでいないとおっしゃいましたが、世界の先進的なものを日本にもし導入するとしたら、どんなことが可能になるでしょうか。
帖佐 自動運転や機械化が進まないといっても数年単位の話で、長い目で見たらそちらの方向にいくことは間違いないとは思います。なので、いずれ誰も働かない、全てがロボット化した倉庫というようなものは遠くない将来できてくるという感じはします。
今の物流施設は、かなり労働環境はよくなっているとはいえ、オフィスビルで働くのに比べれば、まだ快適度合いは低いと思います。
弊社の物流施設は、僕は半分自虐的にガラパゴスと呼んでいるんです。メディアにも結構取り上げてもらっているし、来る人に感激してもらえるし、働いている人たちも嬉しそうに働いている素晴らしい倉庫なんですが、ではこれを海外で展開するかと考えたら絶対あり得ない、超オーバースペックだと思うんですね。
ここまできめ細かく働く人たちのことを考え、行き届いた物流施設は、日本人の琴線には触れる。だけど、海外へ行けば、いくらコストがかかっているんだ。そんなの要らないとなってしまうと思うのです。しばらくはこういったものが主流だと思いますが、中長期的にはまた大きく変わるステージがくるのではないかと思います。
今、なぜこんなハイスペックな倉庫を作っているかというと、物流会社や物流業界で働くことそのものの受け取られ方や働く人たちの意識を、変えていけたらと思うからです。3K産業と言われ、給料も上がりにくい業界だけど、すごく大事な社会インフラを担っていて、もっとリスペクトされるべき仕事をしているのだから、しかるべき評価をされるべきだと思うのです。
2023年12月号
【特集:物流危機を考える】
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