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【特集:物流危機を考える】
座談会:「2024年問題」は本当に起きるのか?

2023/12/05

ファクトが摑めない現状

佐々木 ムラという話は、まさにその通りだなと私も思っていますが、問題は、今それを定量的に捉えられていないということなんですね。どこが余剰でどこが逼迫しているのか、定量的に把握されていない。

例えば積載の問題も、定量のように見えてもそれは定性で、アンケート結果なんです。どれだけトラックに積載されているのか、誰もデータとして摑んでいない。現状がどうなっているのかを誰もファクトとして摑んでいないという問題をクリアしないと、「どうやらマクロで見ると非効率でマズそうだけれど、どこに手を入れたらいいのかがわからない」という状態がずっと続くのだと思います。

いろいろな方にヒアリングすると、いろいろなことを言うわけです。長野さんに聞いてみれば逼迫していない。また他の方に聞くと、「いや、めっちゃ逼迫しています」と。荷主の方に言うと、「値上げ要請がすごいです」と。

一方で長野さんのようなご意見はほかにもある。運送会社間のマッチングをやっているサービサーの人たちは、いまだに運送会社は荷物を欲しがっていると言う。車が空いているということですかと言うと、そうだ、と言う。

なので、いろいろな側面で見方が変わり、何がファクトなのかがわからないのが今の状況で、ファクトを固めないと手が出せないのだと思います。

小野塚 積載率は今、平均すると40%弱です。問題なのは、この40%弱を果たして何%まで上げられるかということが実はわからないことです。

知らない人は、100%を目指せるんでしょうと言いますが、絶対無理です。関東から東北に行く荷物と東北から関東へ行く荷物は、東北から関東に行くほうが断然少ないので、この往復で見ても絶対100%にはならない。

また、店舗配送は普通、物流センターから出た時、仮に100%の積載だったとしても、複数の店舗を回って帰ってくるときは満パンのわけはないですよね。空になっていたら平均積載率は50%です。こういうものすべてひっくるめて40%と言っているので、最大どこまで上げられるかは、実は国も摑んでいないのです。

政府の「持続可能な物流の実現に向けた検討会」で、それを計算しませんかと提案したのですが、この期間では難しいということでした。だから対策の中に、積載率を上げることでこれぐらいカバーできますと書いてあるのですが、積載率がどこまで上げられるかという上限が誰もわからないまま施策を打っている状況です。

物流は最後の暗黒大陸?

帖佐 積載率とは稼働中のトラックの荷物ですよね。例えば、東北で降ろして、帰りの荷物がないから、どこかの駐車場で3日間待っているというのはその計算に入るのですか。

小野塚 それは入らないです。移動している時間だけです。

帖佐 そうですよね。だから実際はもっと低いですよね。

小野塚 そうです。動いている時間の中での積載率という形です。ただ、問題は今、トラックの不足ではなくてドライバーの不足なので、働いていない時間はとりあえずいいという考えはあると思います。

帖佐 うちも、トラック待機場というものがあるのです。一時駐車場なんですが、見ていると48時間以上、停まっているトラックがある。荷物が取れるまで帰ってくるなと言われているらしく、3~4日間そこにいて、近所のスーパー銭湯などに行っている。そういう滞留者は結構いると思います。

小野塚 おっしゃる通りです。長距離のほうがよりクリティカルだと思いますが、都市内の配送の場合も、圧倒的に多いのは午前中納品なので午後は空いているケースがありますね。

なので、それが全部「見える化」されたら、実は2024年問題などないくらいスカスカなのかもしれません。ただ、それが実は誰もわかっていない。物流は最後の暗黒大陸だとどこかの雑誌に書いてありましたが、まさにその通りで、誰もわかっていない。国もわかっていないというのが実態です。

佐々木 大手の物流会社もわかっていないんですね。例えば、ある大手物流のヘッドクォーターは全体が見えているかというと全く見えていなくて、各支店で閉じられています。こちらの支店で車が余っているから、別の支店で使えるのではないかという話が出ても、そのためには会計システムを通さなければいけないから難しいとなる。そもそもリソースが余っていることもヘッドクォーターから見えない。1つの物流会社でもそうなのです。

帖佐 定量化はとても難しそうですね。5年ぐらい前、フィジカルインターネットのような発想で、リアルタイムでどこに荷物があってどこにトラックがいて、インターネットの情報の通信のようにそれをやれば最適化が図れるという構想が注目されましたが、おそらくまったく上手く進んでいないと思うんですよね。

佐々木 最近のトライとしては、弊社が三菱食品とやっている取り組みがあります。3500台の車両に全てわれわれのGPSの端末を付けてもらっています。これはすべて下請けの会社の車なんです。これまで自社の車両は見えていたけれど、初めて、傭車といわれる協力会社の車も含めた3500台の動き方が、ヘッドクォーターに見えるようにしたんです。

すると、それまでは1つの物流センターの周りだけで最適化されていたものが、複数の物流センターでの車の回し方を考えたら、もっと効率的に運べることがわかってきました。

帖佐 一社単位でも、大手は、ある程度やっていると思うんです。でも、運送会社は大半が中小ですよね。

小野塚 ほとんどです。6万社強あるうちの99%ですから。

帖佐 そちらがやらないと意味がないわけじゃないですか。

小野塚 「持続可能な物流の実現に向けた検討会」の最終取りまとめには、「デジタコ(デジタルタコグラフ)の義務化」との記載があります。要は荷待ち時間の問題も、デジタコが義務化されていれば、荷主に問題があるとデータでトレースできるわけです。

そうなれば暗黒大陸にメスが入るはずなのですが、最終取りまとめでの記述は「義務化が必要であるとの意見が見られた」です。中小の運送会社さんのコスト負担を考慮すると、「義務化する」とまでは言えなかった。

確かに運送会社さんからすると、誰がコストを負担するかは別にしてコストは発生します。ただ、それで「見える化」されて、変な待ち時間があることがわかれば、それによって運送効率がよくなり、ドライバーがハッピーになるはずなんです。コスト負担が難しいという話で、このデジタル化の動きが止まってしまうのは、もったいないと思っています。

長野 携帯の位置情報などでも、ここでものすごく待っているなということはわかるはずですね。

小野塚 NX総研の試算では、実は荷待ちと荷役の時間を削減しただけで、再配達をなくさなくても、物流の転換をしなくても、2024年問題は起きないとなっています。荷待ち時間がそれだけ発生しているからです。

なぜドライバーは待たなければいけないか?

長野 佐々木さんがおっしゃったように企業間でデータがやりとりできていないから、荷主さんの側も今、日本地図上に、このぐらいの車が自分のセンターに向かっているというのがわかっていないわけですよね。ふたを開けてみたら何十台も来ていて、降ろし待ちに何時間もかかるという状態になる。もう前の日からわかっているはずですが、その情報が共有されていない。

もう1つは、来る時間を変えればいいわけです。全車「午前8時必着」で待たせるのではなくて、24時間稼働して、この時間に来てくださいとすれば解決できるわけです。

帖佐 バース予約というのはそういうことですよね。それはやっています。

國領 出荷もやはりお客さんのニーズで特定の時間に集中してしまうようなことがあるのですか。

佐々木 出荷で多いのは、荷造りが終わるまでドライバーが早めに行って待っていること。荷物がいつできるかがわからないのです。

倉庫内の人は、このぐらいでこの荷物を作れることはわかっているはずです。そのコミュニケーションがドライバーとされていない。早めに呼んでおけばいいやで、できたら載せていくというオペレーションになっている。

でも、そこが今変わりそうになってきています。今、配送のところのリソースの制約条件が増えてきているので、サプライチェーンマネジメントの中に制約条件を追加しなければいけないんです。具体的にはまだあまり進んでないようですが。

帖佐 結局、力関係において弱いということだから、トラックドライバーは待たざるを得ない。

長野 早く来て待っておけということです。運送会社の給与体系は慣習的にまだ、仕事一本に対して幾らという歩合制が多いですから、待っても追加料金は発生しないわけです。

小野塚 物流会社さんも悩ましいのは、例えば今ならそういう交渉をしやすいわけですが、荷主にドンピシャなタイミングで指示してくださいと言うと、「君らは働く時間が短くなるんだよね、その分、値段を安くしてくれるのか」と言われかねないことです。

そんな交渉をするぐらいなら、今のままがいいと思う人が確かにいるわけです。トラックマッチングの会社では、お仕事をくれという人がいることを考えると、結局どっちなのかという問題があるんです。

帖佐 不思議ですよね。本当に困っていたら、値段を上げてお願いしてでも払うわけではないですか。この時間に荷物がなかったら次に行くから、と強気で言われたら、「ごめんごめん」となるはずです。そうならないということは結局、逼迫していないということで、問題は本当にあるのかとも思います。

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