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【特集:物流危機を考える】
座談会:「2024年問題」は本当に起きるのか?

2023/12/05

物流の平準化は可能か

國領 2024年だけで見ると実は、巷間言われているほど、人手が不足しているわけではないのでは、という姿が見えてきましたが、中長期的な問題としてやはり、新たな担い手が入ってこないということがありそうですね。

帖佐 「運賃も上がらないから給料も上がらない」ということであれば、運賃を上げていくしかないと思います。でも逼迫していないから上げづらいというのだとすると、これは淘汰が起きないとダメということですか。

小野塚 トラックドライバーの運賃は、アメリカのほうが格段に高いのですが、大きな理由は、圧倒的に労働生産性が高いからです。

トラックの大きさが日本よりも断然大きい。また基本的にアメリカは、ヨーロッパもそうですが車上渡しが基本なので、ドライバーが積み下ろしはしない。だから待つこともないし、待ったら別料金という世界です。すると、労働生産性が高いから、1人当たりの賃金が上がるという構図です。

日本の場合、待ち時間の問題はメスを入れられるはずですが、アメリカ並みに大きなトラックにするのは、道路環境上、難しいという問題があるので、積載率を高めて賃金を上げないとドライバーが集まりません。だから積載率を高めようというメカニズムが働くんですね。

佐々木 「逼迫しているか」という問題ですが、もしかすると1年間の需給の総量でいったら足りているのかもしれない。ただ問題は、需要にボラティリティー(価格変動)が大きいということです。ピークがはねたときに車が見つからないということは実際に起こっていて、目茶苦茶値段が上がっている。それが本当に実運送の人の賃金まで及んでいるかというと、そうではないかもしれませんが、荷主が払うお金は増えています。

なので、この逼迫問題は平らにした形で考えてはいけなくて、ピークとボトムの関係性の中で考えないといけないのではないでしょうか。

帖佐 ムラの解消をどうするんだということですよね。

佐々木 そうです。よく山崩しと言われる言葉があるのですが、ピークをできるだけ減らせば今のリソースでもいけるのでは、ということがあって、物流の平準化ができれば、需給はそこまで逼迫しない。

國領 荷主の意識改革ということでしょうか?

佐々木 そうです。物流の平準化をするためには商流サイドに手を入れなければいけない。つまり、商流側で物流のことを考えた発注が行われていないという問題ですね。

例えばこういう発注の仕方をすると、物流コストはこれだけかかって納価に響く、ということが少しでもインプットできれば、発注の仕方が変わり、山崩しもされるので、物流の問題をいかに商流側にフィードバックしていくかがポイントだと思います。

小野塚 出荷計画や配送計画を3日前に組んでくれたらいいのに、という話ですよね。それが前日発注、翌日出荷になると、物流会社サイドは何台必要かわからないからバッファを持っておかざるを得ない。3日前や1週間前に言ってくれたら、山崩しも簡単です。

モーダルシフトは進むか

國領 ここで少し話題を変えます。カーボンオフセットの話、環境の文脈で、モーダルシフト(物流の環境負荷の少ない鉄道、海運などへの転換)の話をしたいと思うのですが、環境というのは、物流の形を変えるのにどれくらい大きなインパクトになるのでしょうか。

小野塚 カーボンニュートラル先進国というとやはりヨーロッパですが、日本でカーボンニュートラル対策で物流やサプライチェーンもひっくるめたCO2の削減に関して、感度が高いのはグローバルカンパニーです。

ヨーロッパで商品を売ったり、資金を調達したりしているような会社だと、物流も含めて環境への意識が及んでいる会社が日本でも出始めている。一部の物流会社はそれに対してCO2の見える化サービスを提供する、EcoVadis のような国際認証を取るといった取り組みを進めつつあります。

ただ、裏を返せば、国内に閉じた会社や、大手ではない中堅・中小となると、スコープ3までカーボンニュートラルをしなければという意識を持っている会社は、あまり多くないのが実態かと思います。

現実には、ヨーロッパでも環境対策で一番早く打てる手はモーダルシフトなので、トラック、飛行機から船や鉄道にシフトさせていくのが王道です。しかし、ヨーロッパでもCO2の排出量に占める物流の割合は10%とか5%なので、飛行機を使うのは全部やめましたという業界はそんなには多くありません。

國領 日本ではトラックから船へとかトラックから鉄道へという流れはあるのですか。

小野塚 日本で全部鉄道にできるかというと鉄道のキャパはもうかなりきつい状況です。この前出た物流革新緊急パッケージの中で船、鉄道の輸送量を10年間で倍にするという計画が掲げられていますが、鉄道だけで倍にするのは結構しんどいですね。

長野 鉄道は昔からキャパシティがギリギリですね。昼は旅客ダイヤの隙間を縫い、夜中は保線作業をやっていますから、今以上は便数は増やせない。

帖佐 ただ1つは規制緩和でできますよね。旅客と運送が一緒にできるようになれば、旅客のスペースに荷物を載せられる。タクシーでもトランクはほとんど空っぽなわけですから配送はできるわけです。僕はモーダルシフトまでいかなくても、規制緩和でかなりいけるのではないかと思っています。

あと、私どもの施設は、入荷する企業も環境意識が高い企業さんが多いのですが、軽トラックの電気化などは結構やっているところもあるので、充電ステーションの数はかなり増やしています。また、結局電気も元が化石燃料から作っていたら意味がないので、再生可能エネルギーで充電するような施設の開発を進めることは、力を入れてやっています。

配送には電車よりトラックが圧倒的に便利なわけですから、同じ電気で走るようになればトラックでも十分、環境保護につながるのではないかと思います。

自動運転という転換

國領 日本では人口減がどんどん進んでいく中、地方における交通と物流をどうやって支えていくのかということもあります。また、世界レベルで見るとこの30年間ぐらいずっとグローバル化が進展し、物の流れ方がすごく大きく変化しつつあります。

昨日までと同じ物流をどれだけ効果的にやるかという話に加えて、これから経済活動が大きく変化していく中で物流に、どういうビジョンを描いていけばいいでしょうか。

小野塚 特に地方は、今までのやり方だと成立しない世界がやってきつつありますね。鉄道の貨客混載もそうですし、昔ならあり得なかったと思いますが、日本郵便がヤマトのものも佐川のものも運ぶとか、さらに人も一緒に運ぶような状況になっていかないと成立しなくなります。

ただ、基本はそうなのですが、自動運転の時代が本格的に来たら劇的に変わる可能性もあります。ドライバー不足という問題に関しては、いち早く自動運転を実現したほうがいいのではないかという議論もあると思います。

佐々木 うちは農業の物流改革を秋田県でお手伝いしているんですが、東京に生鮮品を運ぶのに新幹線を使えないかという話が出てくるんです。

ただ、規制がだいぶ緩和されて新幹線でも運べるようになり、今、1つの車両を全部荷物用に使うというPoC(概念実証)をやっているのですが、そこまで運び入れるための場所などが整備されていないのですね。そのインフラ整備はかなり大変で、高価なさくらんぼとかはいいですが、葉物のレタスなどを運んでもペイしないのです。

トラック以外のモードのインフラを整備していくのは結構大変そうなので、私も今は自動運転を実装するほうが早そうだと思っています。

國領 第二東名隊列走行のような話でしょうか。

佐々木 隊列走行もそうですし、中国の自動運転のレベル感を見ているとかなり高い。また、アメリカはこの2、3年で自動運転は一気にいくようです。最初は2030年でようやく高速道路での自動運転サービスレベルかなと昔は思っていたのですが、もう少し早くなる可能性もあるかなと思っています。そのぐらい世界のテクノロジーが速く発展してきていると思います。

構造転換は進むのか

帖佐 物流施設の中の自動化、ロボット化は日本は大変遅れているんです。なぜ遅れているかというと結構悲しい理由なんですが、要は日本の働き手のクオリティーがあまりにも高すぎる、そして、かつ給料が安いからなんです。だから自動化する意味があまりないと聞いたことがあります。

アメリカなどは人の働き手は決まったことしかやらない。でも、日本人は「これも頼むよ」と言われると、安い給料でも無理してやってしまう。そういう労働者の負担の上にビジネスが成り立っていて、それが心地よすぎるので、機械が決まったことしかできないとなると導入する動機がない。

たぶんドライバーの話もそうで、アメリカのドライバーは荷物の上げ下ろしはしないじゃないですか。でも日本の人たちは、「前の子はやってくれたよ」と言われたらやってしまう。それが自動運転ではできなくなります。自動運転が普及しないのは規制だけの話でもないような気もするんですね。

小野塚 「現場力高過ぎ」という話ですね。物流の倉庫に関して言えば、日本の多能工ぶりがすごすぎて真似できないというのは1つあると思います。

長野 いろいろなところで自動化がどんどん進んでいく中、ドライバーの賃金は昔よりもむしろ下がっています。

ここ1、2年の社会の動きを見ても、スーパーのセルフレジや外食のタッチパネル注文など、自動化が増えました。自動化すると、エッセンシャルワーカーの仕事が減り、仕事をしたい人、仕事をしなければ生活できない人は多いのに、働き口は減るから、需給バランスで相対的に労働の価値が下がってしまう。先ほど、ドライバー不足で人が集まらないと言いましたが、実はそのような背景から、いろいろな業種から私が勤める会社にもドライバーをやりたいと言う人が来ます。ドライバーの賃金のほうがまだいいわけです。今、ドライバーの給料が安いのはそういう状態なんだと思います。自動運転が実現するともっと下がってしまうのではないかと危惧しています。

歴史的に、産業革命が何度かあったのですが、その過程で既存の職業が駆逐されていく葛藤があったと思います。今、49%の仕事がAIに置き換わると言われていますが、労働者がどんどん貧しくなっていくのか、豊かになるのかのプロセスは、学術的に見ても重要なテーマだと思います。

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