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【特集:投資は社会を変えるか】
座談会:自分のため、社会のために考える新しいお金の循環

2023/04/05

実践的な金融教育を

藤田 なるほど。上口さん、高齢者の方々ほど株を買うといった傾向はあるのでしょうか?

上口 そうした話はあまり聞きません。それは選好の問題かもしれないですね。

藤田 金融リテラシーはあっても株を買わないのですね。リテラシーだけの問題ではないということかもしれないですね。

米良 私は金融について理解するためには、資本家側に回るのが一番早いと思うんです。

私が今、金融をある程度理解できたと思っている理由は会社経営をしているからです。会社経営と同じように自分の財務状況を見ていくと、何に投資して、何にコストがかかって、どうやってお金を増やしていくかということがすごく理解できるようになるんですね。

もちろん座学もいいと思いますが、私はより早い時期から起業のパイロット版みたいなものをたくさんやるのが一番早いのではないかと思っているんです。法人格の登記をしなくてもいいので、まず何かの事業を始めてみましょう。その事業で利益を出してみましょう。その利益をどうやって増やすか考えてみましょう、とやっていく。

結局PL(損益計算書)とかBS(貸借対照表)というのは、それをどう表現するかという話なんですが、私も学生の時は大変恐縮ながら全然わからなかった(笑)。でも今、経営をしているとそれが理解できるようになったので、体験を通して理解していくことをもっと行う必要があるのではと思っています。

浦田 同感です。公認会計士協会や弊法人でも高校や中学校で会計を教える授業を企画するのですが、座学だけではなくて自分でお店を経営するというようなロールプレイングをさせるんです。

もちろん学校の授業の中なので過度にお金の生々しい話はしませんが、運転資金をどう調達するかから始まり、何を作って売って収入を得るか、でも物を作るには人件費も電気代もかかるからコストはどう把握しますか。そして収入からコストを引いた利益はどのように使いますか、収入とコストはどのように記録して残しますか、という体験を通して体感的に会計リテラシーを根付かせるように工夫しています。

上口 金融教育を巡る最近の状況についてお話しすると、成年年齢が引き下げられ、学習指導要領が改訂されて、金融経済教育というものがより明確にカリキュラムの中に示されました。

これは、1つは公民みたいな形で、いわゆる金融政策やマクロ経済政策、財政政策といった類いのものが入っている。そして、これは結構驚かれますが、家庭科の中で、生活設計の一環として、資産形成の視点といったお金の話が入っている。でも家庭科の多くの先生は調理や被服の分野と比較して、いわゆる金融や経済に関する知識はあまり持っておられないわけですね。

先ほどから出ているような、実践的な事例の中で金融を学んでいくという試みは、まさに金融庁もやっていますし、金融広報委員会などでもやっているんですが、なかなか難しい壁もあるんです。まず、それこそ自分の問題として捉えないと、ほとんど記憶に残らないんですよね。

今、金融リテラシー調査などで、金融教育を受けた人の比率は7%程度となっています。でも、本当にそんなに低いのかというのが私の率直な印象です。金融リテラシーの定義が広く、小中高の各学年、複数の科目で少しずつ教えられており、「金融教育」とのタイトルで集中的・包括的に教えられるケースはごく稀なため、生徒に「金融教育を受けた」との印象が残りにくい面もあるのかもしれません。

投資を普及させるためには

上口 もう1つ、よく言われる議論では、わが国においては投資の文化が根付いていなくて多くの人が預貯金をしているので、それを変えるべきだということだと思います。ただ、一方では、日本人は損失回避の選好が強いので、その結果としての家計の合理的な選択である可能性もあります。それが、仮に金融知識を十分持ったうえでの人々の判断だということならば、それは必ずしも見直す必要はないという議論も成り立つと思います。

しかし、私の認識では、そうではなく、1つ目に、人々の金融リテラシーが必ずしも水準として高くなく、きちんと判断をする前提としてのリテラシーが十分根付いているとは言えない。

2つ目に、金融機関の商品販売の姿勢において、顧客本位とは言い難いような金融商品の販売姿勢があったのではないか。これはよく言われる話ですが、そうであるが故に、投資と言うと、「うさんくさい」といった感覚が多くの人に根付いてしまっている。そのあたりは制度的に直していかなければいけない部分です。

3つ目に、NISAとかiDeCo(個人型確定拠出年金)といった制度があるとはいえ、NISAが恒久化されたのは今回の法改正で初めてですので、長期に分散、安定、積立投資を実現するような制度的枠組みがわが国には必ずしも整備されていなかったということもある。

私自身は、この3点についてしっかり直すべき部分は直し、その上で家計がそれぞれの判断で選択することが望ましいと思います。それでも、家計の選好次第では、結果は大きくは変わらないということもあるかもしれませんが、それ自体は特に問題とすべき話ではないのではないかと思っています。

では、仮にそうであった場合、投資を誰がやるのかということが問われるかもしれませんが、投資の主体が家計ではなくて金融機関が間に入るとか、事業会社が入ることを考えればいいということなのではないかと思っています。

藤田 私もいろいろなご縁があって、慶應の一貫教育校で、最初に女子高、次に塾高、中等部という順で金融教育を行わせていただいています。そこで、イノベーションと金融リテラシーが大事だと主張しているんですが、中学生も高校生も、どちらかというとイノベーションよりも金融リテラシーのほうに興味があるようです。

「株を買うように」とまとまったお金をご両親から与えられている人もいます。だから相当変わってきているなとは思います。株の話をすると、うさんくさいと思われるかと懸念していたら、逆に評判が良いようです。もちろん危ないなとも思っていて、「儲ければいいってもんじゃない、世の中に貢献するという視点が不可欠」ということはかなり強く言っています。

米良 お金の使い方に詳しくなっていく人が増えるのはすごくいいことだと思う一方で、資本主義社会にはお金がお金を生む構造があると思うんです。なので投資を受ける、まさにイノベーションを起こす側の人が増えていってほしいなと思いますね。

藤田 そうですね。また、金融教育に関してはなるべく自分事にしたほうがいいですよね。お店をやってみるとか確定申告してみるとか。

米良 それこそ小さな額でも何か投資をしてみるのもよいと思います。NISAもそうかもしれないですが、結構、小口投資のやり方が増えてきていると思うので、リスクの少ないレベルで少し挑戦してみることは、自分のお金と向き合う上ですごくいいきっかけになる気がします。

新しいお金の流れをつくる

藤田 今後世の中はどういうお金の流れになると望ましいと考えますか。かつては、家計ができるだけ預貯金をして、それを銀行が重厚長大な産業に融資する、という資金の流れでした。当時はそれで良かったと思うんですが、今はそういう時代でもないし、1人1人もある程度のリスクを負うべきだと思います。また、これまでにお話しいただいたように、投資の主体は家計よりも企業だったりする。だから昔のような「家計の余ったお金を企業に融資する」という流れではもはや十分ではないですよね。

米良 今、READYFORでは遺贈寄付という取り組みをしています。これは何かというと、今、日本の中で相続人がいない方がお亡くなりになられた場合、その方が持っている資産は、誰も身寄りがない場合は国庫に入る仕組みになっています。

そのような資産が寄付のほうに少し回るようなお金の流れをつくれないかと思っています。実際、お客さまの中にも、自分の資産が国庫にいくのだったら、お世話になった学校や地域に寄付したいという声はとても多いのです。

ただ、日本では寄付行為というのが一般的ではなかったので、どこに寄付をしたらいいかがわからないということが多い。そういうところを私たちのサポート事業チームが、いわゆる保険の窓口的に相談に乗って、しかるべき先に寄付をさせていただく事業を1年半ぐらい前に立ち上げています。

今、日本は貯蓄で金融資産が約2000兆円と言われていますが、個人の滞留してしまっているお金を、きっかけと仕組みによって、未来に対して、あるいは社会の活動に対して回していく余地はたくさんあるのではないかと思います。この遺贈寄付の取り組みもその1つで、すごく手応えを感じています。

また、富裕層の方々のフィナンシャルアドバイザーもやっています。アメリカやヨーロッパの富裕層の方には運用や、寄付、財団管理などを行う資産管理会社兼お金の管理や相続をやる人たちがちゃんといます。日本は相続税の問題が全然違うので一概には言えないものの、いわゆるファミリーオフィスが少ないと思います。

一方、富裕層の方々には社会貢献をしたかったり、イノベーションのためにお金を使いたいと思っている方はたくさんいる。コロナ以降、世の中を変えなければいけないのでは、という意識を持つ人が増えたようなのです。お金があるところからどうやって再分配していくか。私たちは今、仕組みとして作って実現していこうと思っています。

岩田 私も12月に行ったチャリティーGalaに数千万円も集まると当初は思っていなかったんです。いっても数百万かなと。でもバンバン、ライブオークションで手が挙がったのです。自分のお金がどこに使われるのかということがわかれば、お金をしっかり出してくれるのです。ポテンシャルが結構高いなと思いました。

一方、社会貢献や寄付活動が自分のブランディングになる、自分の人生においてのステータスになる場面は、ヨーロッパに比べるととても少ない。日本の場合、華やかに寄付をするというより、黙って寄付をするのが美徳のように思われているので、社会貢献や寄付活動が自分のステータスになるような世の中になっていくようにしたいと思っています。

例えば、Z世代の人は自分の夢を叶えるためにYouTubeに出て投資をして社会貢献をすることで、トータルに自分の人生を設計することに、非常に関心を持っています。資本主義から脱却して、視座の高い所に自分を持って行きたいと考える人たちが今後多くなってくるのかなと思っています。寄付活動の裾野を広げたいと思っています。

浦田 寄付をすることが、自分のブランディングや得につながるという意味だと、「ふるさと納税」もそうなのではと思います。あれは寄付金控除の対象ですので、個人的には得をしますよね。そして、寄付した相当額分の品物がもらえます。寄付控除が受けられるのと、寄付した分の物がもらえることで得をするという仕組みを確立したという意味では、すごくいい制度だと思っていて、あれも一種の寄付行動なのかと思います。

また、米良さんが仕組みを整えたほうがいいと仰っていたのは確かにそう思います。ふるさと納税はアプリで簡単にできますが、あれでだいぶ寄付へのハードルが下がったように感じます。このように仕組みを整えてハードルを下げてあげれば、日本人にも寄付文化が少しずつ根付くのではないかと思います。

こっそり隠れて寄付をすることが美徳という心情はよく理解できますが、一方で何か自分にとって得があるから寄付をする仕組みを整え、それが広まれば寄付文化が根付くように思いました。

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