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【特集:投資は社会を変えるか】
座談会:自分のため、社会のために考える新しいお金の循環

2023/04/05

  • 上口 洋司(かみぐち ひろし)

    金融広報中央委員会事務局長(日本銀行情報サービス局長)
    塾員(1993経)。大学卒業後、日本銀行入行。2004年コロンビア大学大学院公共経営修士。13年企画局企画調整課長、15年金融機構局金融第一課長、18年鹿児島支店長、20年金融機構局審議役を経て22年より現職。

  • 浦田 千賀子(うらた ちかこ)

    EY新日本有限責任監査法人公認会計士
    塾員(2006経)。2007年新日本監査法人(現EY新日本有限責任監査法人)入所。不動産業などの会計監査に携わる傍ら、書籍の執筆、雑誌への寄稿やセミナー講師も行う。同法人ウェブサイト(企業会計ナビ)編集委員。

  • 米良 はるか(めら はるか)

    READYFOR株式会社代表取締役CEO
    塾員(2010経、12KMD修)。2011年日本初のクラウドファンディングサービス「READYFOR」をスタート。14年に株式会社化し、代表取締役CEOに就任。内閣官房「新しい資本主義実現会議」民間議員。

  • 岩田 匡矢(いわた まさや)

    株式会社電通、慶應義塾大学経済研究所インバウンド観光研究センター顧問
    塾員(2017文)。Global Gift Gala in Tokyo 2022 日本開催総責任者。2019年よりカンヌ国際映画祭でのPRイベント・ローマ法王来日時の社会貢献活動・英国王室主催ポロイベントに従事。電通ビジネスプロデューサー。

  • 藤田 康範(司会)(ふじた やすのり)

    慶應義塾大学経済学部教授
    塾員(1992経、97経博)。2006年東京大学大学院工学系研究科博士課程修了。工学博士。専門は応用経済理論・経済政策。慶應義塾大学経済研究所国際ビジネス創造研究センター長。

企業の投資行動の変化

藤田 現政権において「貯蓄から投資へ」というキャッチフレーズが採用され、またESG投資といった動きも広まり、投資が注目されていると思います。従来、投資マインドがあまりないと言われていた日本人も、クラウドファンディングやチャリティーの拡がりなども含め、自分のため、また社会のためのお金の使い方に新しい動きが出てきているのかと思います。

そこで本日は、様々な立場の皆様にお集まりいただき、あらためて日本人の広い意味での投資、お金の使い方・活用の仕方について、考えていく機会にしたいと思います。

まず投資と言うと個人に目が行きがちですが、大きな割合を占めるのが企業の投資です。企業の戦略行動としての投資も最近変化していると思うのですが、公認会計士の浦田さん、どのようにお考えでしょうか。

浦田 私はEY新日本有限責任監査法人というところで公認会計士として働いています。2007年に入所以来、一貫して携わっているのが、一般事業会社の監査業務です。上場会社はルールに基づき会社の業績を開示する財務諸表という書類を作成するのですが、それが正しく作られているかをチェックするのが監査業務のイメージと思っていただければと思います。

企業の戦略行動としての投資の変化ですが、会社ごとに資本戦略の考え方は様々ですので、ここでは私が個人的に感じたことを申し上げます。

私が入った2007年は、ちょうどライブドアの堀江貴文氏がメディアで持て囃された時期で、それを機にベンチャー投資がメジャー化し、増えてきた時期でした。私の担当は若い会社が多かったのですが、そういうところはエンジェル投資のように、設立したてのベンチャー企業に、上場するまでずっと投資をし続けているようなイメージでした。

ところが最近、昔ながらの伝統的な会社でも、こういったベンチャー投資のようなことを行う傾向が見られるようになりました。特徴としては、会社のビジネスとシナジーがありそうな若い会社に対して、何社か小口の投資をするというパターンです。

コロナ禍の少し前くらいから、そのような投資行動をする会社がちらほら出てきた印象があります。市場全体の傾向としてどうなのかは正確には申し上げられないのですが、私の個人的な観測値の範囲だと、少しずつ会社の投資マインドに変化が出てきている印象はあります。

寄付文化を根付かせる

藤田 一方で最近、特に若い人たちを中心としてお金の使い方についての考え方が変化してきているような気がします。米良さんは金融の最先端で長年ご活躍されてきて、この10年ぐらいで変化を感じていますか?

米良 私は2011年に日本で初めてのクラウドファンディングのサービスとしてREADYFORをスタートし、会社は2014年に創業したので今、9期目になります。

私は、当初あまり起業家に対してよいイメージがなく、どちらかというと従来の日本人に近い感覚だったので、あまり近寄りたくない金の亡者のようなイメージを起業家に対して持っていました(笑)。

10年前にクラウドファンディングのサービスを始めたときは、日本ではそういったサービスがありませんでした。当初は、日本は寄付文化がないし、何かの事業を応援するような感覚は日本では生まれないんじゃないか、と言われました。ただ、アメリカには35兆円の寄付の市場がありますが、10年前にスタンフォードに留学した際、私は日本には文化がないというより仕組みがないことが大きいと痛感したんですね。自分の出したお金が具体的にどういう形で使われ、どうやって社会にインパクトを与えたりするかという手触り感が全然ないなと。

一方、アメリカはそういう工夫がとてもされている。だから、少なくとも日本の中で、手触り感があるお金の流れを実感したいと思う人は多いのではないか、と思い、クラウドファンディング事業を立ち上げたのです。まだ道半ばですが、金銭的なリターンがない中、年間、100億円ぐらいはお金を流しているので、当初より、市民権を得られてきたのかなと思っています。

それを支えてきたのは、やはりリテラシーがある若い人たちだと思っています。彼らはテクノロジーに当たり前に触れていて、スマホで何でも買うし、インターネットがメインのツールになっているところが、この10年間の大きな波だったなと思っています。

さらに、彼らはお金の使い方について、SNSや自分の周りの人たちが勧めてくれているものに対して、共感したり応援したいという気持ちが強い。そこが一定の若い層の人たちに受け入れられたのだろうと思っています。

ただ、最近、私よりももっと若い、Z世代と言われる世代は社会貢献意識が高いという調査結果が出ていますが、本当にそうなのかなと思うところはあります。日本が厳しい状況の中、今までのやり方ではないお金の使い方を若い人たちが考えているという感じに近いのかなと思うのです。

ですので、私たちは、むしろ比較的、高齢者層の方々がもっと若い世代に対してお金を循環させていく仕組みを作りたいと、考えているところです。

Galaイベントの開催

藤田 金融の最先端と言えば、岩田さんは昨年12月に日本で初めてのGalaイベントを開催されました。Galaイベントとは何かも含めて説明していただけますか?

岩田 私は、大学卒業後、マーケティングやブランディングなどを学びたいと思い電通に入社しましたが、2019年、藤田先生が経済研究所内にインバウンド観光研究センターを発足するタイミングで、立ち上げのサポートと顧問ということで参画させていただきました。

この研究センターは、コロナ前、インバウンド事業をメインに、富裕層が日本で寄付をする仕組みやビジネス実装ということをメインにプロジェクトを立てていたんですが、海外を廻る中で、Gala(ガラ)という文化が欧州には根付いていると知りました。

このGalaイベントというのは15世紀、貴族の方々が夜、ドレスアップをして社会貢献や自分のビジネスネットワーキングのために、ある場所に集まって寄付をする催しで、欧州には今でもそれが根付いています。

例えばカンヌ国際映画祭とか、ファッションショー、ユニセフのGalaとか様々なGalaがあるんですが、日本にはそもそもそういう富裕層の方が集まる場所が全然ない。そのような場所で、一気にお金が落ちて、それが社会に還元されるインパクトがあるイベントを作れないかと思いました。そして、3年かけて「Global Gift Gala Foundation」という財団と連携し、昨年12月にアジアで初めてのGalaを開催しました。

それはいろいろなハリウッドスターや財団のファウンダーの方々を日本に呼ぶ、華やかな催し物ではありますが、ワイワイ騒ぐだけではなく、ライブオークションがあったり、社会貢献に対するスピーチをして、一晩で7000万円くらいのチャリティーが集まったのです。

そういう文化事業の責任者をやらせていただきましたので、今後も社会貢献の文化を日本にどうやって根付かせていくかを考えていければと思っています。

私はゆとり世代とZ世代の間ぐらいで、生まれてから日本が景気がいいという時代がないまま27年間過ごしてきましたが、Z世代の人たちは、情報が社会に溢れている中で、手っ取り早くお金持ちになりたい、そしてその後でどうやってそれを社会に還元しようか、といったマインドがかなり強いのではないかと思っています。

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