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【特集:地方移住の現在形】
「関係人口」創出が地域の人材を育成する──岩手県花巻市の地域外との関係構築

2021/07/05

「通い神楽」への集落の演者の意識

「通い神楽」の研究では、集落やその近隣地区に住まずとも、集落に「通いながら」神楽の伝承活動に参加するという仕組みを、集落の演者がどのように評価するのかに着目した。そこで、大償神楽をフィールドに、慶應義塾大学湘南藤沢キャンパスに通う学生およびSFC研究所の研究員計6名の協力を得て、通い神楽モデルによる活動を2019年9月から12月に実施した。

その結果、集落の演者からは、神楽に関わる集落外の住民が増えることは歓迎しながらも、実際に演者として活動をともにすることについては、ともに稽古することを前提に、通いによる活動の持続性や技能、人柄を含めて見極めが必要との意見が出されている。

つまり、演者不足という課題の解決は望むものの、集落外の住民が演者として関わり続けるには、集落の演者との活動を継続するなかで、段階的に承認されていくのが望ましいということである。一方で集落外の演者を確保する、という意図に対しても一定の理解が生まれ、通い神楽という手法についても前向きに検討する発言も見られた。

また、通い神楽モデルによる活動は、集落外の演者が集落での稽古を行い、集落の演者が認める機会での出演を経験し、また稽古による芸の向上を図るというサイクルを繰り返しながら、集落の演者との関係を深め、集落住民の承認を得る経験を積む仕組みとして機能しうることが分かった。

今後の地方における関係人口の意義とは

本稿では、岩手県花巻市が行ってきた「多面的な接点づくり」と、集落の住民と行政がともに実行する「通い神楽」の取り組みについて概観した。

岩手県花巻市の取り組みは、行政が一元的に情報を発信するだけのプロモーションではなく、地域住民が地域外に対し、接点を自発的に提供することを促す取り組みと言える。

これらの取り組みは、地域外からの人材を呼び込む上で、地域住民が自ら関わっているモノ・コトを掘り下げ、地域外の者が関わるための入口を開く力を身に付けるという、人材育成にも効果を発揮しそうである。

そして、「通い神楽」の研究では、地域に受け継がれてきた資源を、地域外に開放し、関係を構築するための手法を考えることを通じて、地域が有する資源を活用し、地域外との関係構築を行う過程を示した。この事例は、集落の演者が地域外の学生や社会人への芸の指導を通じて、伝承活動の継続に対する様々な手法や可能性を模索することで、演者不足の課題解決を考える人材の育成にもつながったことを示唆している。

すなわち、地方において関係人口の創出に取り組むことは、さまざまな人材が地域に入り込む道筋をつくる過程で、地方を存続し、将来も存続してほしいというモノ・コトを地域住民自身が、自分の関わる範囲でその魅力や必要性を再認識しながら、地域課題の解決を図る地域内の人材育成につながると考えられる。関係人口は、育成された地域住民自身が打ち出した戦略や具体的な取り組みの妥当性を判定する存在であるとも言えるだろう。

新型コロナウイルス感染症の拡大により、都市部から地方への移動制限があるなかでも、オンライン会議ツールの活用や対策を施した小規模のイベント開催等によって、地方発の関係づくりは続いている。こうした関係構築の取り組みを続け、地方における地域課題を解決する人材を着実に育てていくことが、将来の地方を持続していくために必要なことではないだろうか。

※所属・職名等は本誌発刊当時のものです。

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