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【特集:地方移住の現在形】
「関係人口」創出が地域の人材を育成する──岩手県花巻市の地域外との関係構築

2021/07/05

関係人口創出には「地域の人材育成」が必要

花巻市による地域外との関係づくりの取り組みは、地域外から花巻市に関わる方法と、地域住民側から地域外に関わる方法の両方を創出していると言える。

6年間にわたり、地域外との関係づくりの事業を企画・実行してきた花巻市職員の高橋信一郎氏は、「こうした取り組みには多くの人材の育成が必要」とする。

高橋氏は、地域おこし協力隊の活動と定着には、ミッション遂行への協力を得られる地域の人材や着任後に協力隊員の活動をサポートするメンターが必要であるとする。また、まきまき花巻については、記事を投稿するライターだけではなく、記事の作成をサポートする人材、そして興味を持ち、取材した内容を発信する技術を指導する人材等が必要であると言う。すなわち、地域との接点づくりのためには、接点をつくるための人材育成も同時に行うことが必要であると言える。

そこで花巻市では地域の課題を解決する市職員の人材育成の一環として、慶應義塾大学SFC研究所との連携協定を締結し、「花巻市地域おこし研究所」を設立した。

図 2 まきまき花巻トップページ

筆者は縁あって研究所の活動に参加し、筆者自身も民俗芸能の演者として活動するなかで、課題と感じていた演者不足の解消方法について研究を行った。民俗芸能がこれまで行ってきた集落内からの演者確保が、集落における人口減少の進行によって持続することが困難である現状に着目し、集落外に住み、民俗芸能に興味を持つ人も、演者として参加できるようにし、既存の仕組みと両輪で行うことが課題解決につながるのではないかと考えた。また、この仕組みの実践を通じ、集落の演者自身が、民俗芸能の演者確保に対する考え方や手法の可能性を広げるという人材育成の場になるのではないかとも思った。

そこで、花巻市を代表する民俗芸能の1つであり、筆者が現役の演者として活動している「大償(おおつぐない)神楽」を対象に、「集落外の演者」を確保する「通い神楽」の仕組みの開発をテーマに、政策・メディア研究科修士課程へ入学し、研究を進めてきた。

「通い神楽」開発の背景と研究の概要

「通い神楽」とは、民俗芸能が伝承される集落外からの「通い」により、演者としての活動を行うという、民俗芸能の伝承活動の一形態である。

全国で約2万件存在するとされる民俗芸能では、芸を受け継ぐ演者不足が課題である。民俗芸能には、「集落の維持再生機能」(橋本、2015)や、「人が舞い戻る機能」(阿部、2014)など、地域コミュニティ存続に資する機能があるとされている。

これまでは民俗芸能に興味を持った集落の児童・生徒を育成し、育成を行った者で社会に出てからも続ける意思のある者が演者となる、という手法により演者を確保することで伝承されてきた。

しかし、民俗芸能が伝承される集落では現在、人口減少の進行とともに、将来の演者候補である集落に住む児童・生徒も減少が続いている。また、子供が興味を持つコンテンツも多様化し、これまでの手法のみで演者を確保するには限界があると考えられる。

民俗芸能に興味を持つのは、集落に生まれ、育った者だけではない。先行研究では、民俗芸能が伝承される集落にIターンする人が演者となる事例や、民俗芸能に興味を持った集落外の演者に対し、集落の演者が芸を伝承する取り組みが書かれている。

こうした事例を踏まえ、演者確保の範囲を集落に生まれ、育った者だけではなく、民俗芸能に興味を持つ集落外に住む者にまで拡大し、「集落外の演者」が集落の演者とともに芸の伝承活動に参加可能となる仕組みとして「通い神楽モデル」を開発し、通ってくる集落外の住民とともに仕組みをつくり上げる活動の可能性を探った。

図 3 通い神楽モデル(筆者作成)
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