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【特集:3. 11から10年】
災害支援と「共助」の情報技術

2021/03/05

現在から未来へ──情報支援レスキュー隊IT DARTの取り組み

IT DART(情報支援レスキュー隊)は、東日本大震災での課題を教訓に、よりスムーズな支援活動を情報面からサポートする目的で2015年に設立された民間の支援団体である。IT DARTは災害時の情報収集、情報活用、情報発信を支援する団体で、主に被災地で直接支援を行う団体に対して後方から情報支援を行う役割を担っている。筆者も立ち上げ時からる。筆者も立ち上げ時からIT DARTに参画し、現在代表理事を務めている。IT DARTの活動内容は多岐にわたるが、以下に代表的なものを紹介させていただく。

(1)災害ボランティアのための情報提供

大きな災害が起きると、各地域で災害ボランティアセンターが開設される。熊本県を中心とした令和2年7月豪雨における対応では、新型コロナウイルス感染症のため、多くの災害ボランティアセンターでは遠方からのボランティアを受け付けず、近隣の自治体や県内の募集にとどまった。このような募集状況だけでなく、必要な持ち物や交通情報など、支援に参加するボランティアが事前に知っておくべき情報は多岐にわたる。IT DARTでは、各地の災害ボランティアセンターのボランティア募集状況をまとめ、翌日の募集に関する情報を前日夜にTwitterに投稿し、支援活動に参加するボランティアへの情報提供を行っている。

(2) 災害支援団体へのIT機器やサポートの提供

被災地の外部から入るNPOなどの災害支援団体は現地に拠点を設けて活動を行うが、拠点で情報をまとめたり発信を行うためのIT環境の整備は後手に回りがちである。IT DARTでは、支援団体に対してPCや複合機、モバイルルーターなどの機器を提供し、情報収集や情報発信を支援している。また、被災地では、ITリソースの不足から、被災者からの支援依頼の申し込みなども紙の書類で管理されていることが多く、スムーズな処理のためにはどこかのタイミングでデータ入力を行う必要がある。西日本を中心とする平成30年7月豪雨では、IT DARTはヤフー株式会社の社内ボランティアと協働して、倉敷市の災害ボランティアセンターなどでデータ入力やマッピング支援を実施している。この活動を通じて、被災者の個人情報の適正な取り扱いに関するルールの策定が今後の大きな課題であることがわかった。

(3)支援を円滑に進めるための情報提供

東日本大震災では、支援団体の相互連携が不十分であったことから、支援が偏ったり支援の空白地帯が生じることが大きな課題となった。この課題への対応として、全国規模や都道府県レベルで、連携した支援活動のためのコーディネートを専門に行う中間支援NPOが各地で発足している。IT DARTは、これらの中間支援NPOと協力して、支援団体どうしがそれぞれの活動状況を共有したり、先遣隊としていち早く被災地に入ったチームが撮影した写真を他の支援者と簡単に共有できるシステムを開発・提供している。写真や動画は、電子地図上にマッピングして提供されており、状況を一目で俯瞰できるようになっている。この他にも、支援物資の管理やボランティア登録などにITが活用され始めているが、全体としてはNPOを中心とする災害支援団体のIT活用はまだまだ発展途上であり、「共助」を担うこの分野の今後の強化が望まれる。

岡山県倉敷市災害ボランティアセンターで行った データ入力支援

これからの課題──情報の流れを整える

東日本大震災から10年が経ち、社会のIT環境や人々のリテラシーも大きく変化している。TwitterやLINEといったソーシャルメディアを通じて、災害発生時のリアルな情報が迅速に把握できるようになった。一方で、「首都圏に毒物を含んだ雨が降る」「地震の影響で動物園から猛獣が逃げ出した」などのデマ情報の拡散も課題となっている。通信インフラに関しても、避難所では無料で使える00000JAPANというWi-Fiサービスの整備が進む一方で、災害急性期を過ぎた復旧復興期の対応はまだ十分とは言えない。避難所を出て移り住んだ仮設住宅でネット接続環境がなく、生活再建に必要な情報を得られないという相談もしばしば寄せられているところである。

災害リスクは年齢、家族構成、生活環境によって一人一人異なる。災害に遭っても人々が健康でいられるためには、発災時だけでなく復興期、そして静穏期を通じて一人一人が自分の災害リスクを知り、リスクに見合った物資・情報の両面の備えを怠らないことが重要である。災害サイクルと個別リスクにあわせた情報提供を実現する技術の開発が期待される。

AIやIoT、ドローンといった先端技術を災害支援に導入することで多くの情報流通の課題が解決に向かうことは論を俟たない。しかし一方でデジタルツールが情報技術の全てではないことも忘れてはならない。情報とは、本来、人が何かを意思決定しようとする時の不確実性(右と左のどちらに逃げればよいかがわからない)を減らすためのインプット(高台へのルートが矢印で表示されている)であり、情報技術とは、意思決定が必要な時に、不確実性を減らすための情報をタイムリーに提供する技術、すなわち「情報の流れを整える」技術全般である。「アナログな情報通信技術」、例えば、記入しやすく間違えにくいデータフォーマット、わかりやすい分類のための色分けや付箋、次に何をすればよいかが直観的にわかるデザイン、そしてスムーズな連携を実現するための組織間の協力体制などが整ってはじめて、デジタルツールという「銀の弾丸」が効果を発揮すると筆者は考える。

IT DART が提供する先遣隊支援システム

※所属・職名等は本誌発刊当時のものです。

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