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【特集:人口減少社会のモビリティ】
座談会:新しいモビリティは地方を救うか

2020/07/06

ライドシェアの課題

田邉 皆さん、ライドシェアには好意的ですね。あえてネガティブなことを言います。

例えば地域では、バス会社であれば長年経営しているので、急にサービスをやめることはないだろう、という安心感がある。しかし例えばUberだと、運転手がそこにたまたまいないと、乗りたい時に乗れなくなってしまうのではないか。また、言ってしまえば白タクなので、ドライバーが信用できるのかという安全性の問題がある。

さらに、技術的に高齢者はスマホが使いこなせないのではないかという話も聞かれます。そういった懸念も聞くのですが、安永さんいかがでしょうか。

安永 ネガティブな面という意味だと、最近、アメリカのレンタカー会社大手のHertzが民事再生になっています。これはコロナの影響ももちろんあるのですが、それ以前からLyftやUberのようなライドシェアの企業にかなりのお客様を奪われていたということも大きいと思います。

ただ、米国の企業というのは新陳代謝を繰り返していますので、どんどん新しい企業が出てきて、古い企業は退場していく。その中で、完全に退場するのではなくて、新しい企業との融合で、別の新しいビジネスをやったり、MaaSのような形で新しいビジネスをつくっていくことがあるわけです。

しかし、日本で同じように新陳代謝のため、どんどん古い企業をつぶしましょうというのはなかなか難しい話だとは思います。

ドライバーの数や安全性などの問題点で言えば、企業によっていろいろな考え方があるのですが、UberもLyftも、まずドライバーの数を、必ず需要と供給に応じて、地域ごとにアルゴリズムで、この人数以上は必要だという数字を持っているのです。そして必ずその数字を超えるように、いろいろなやり方でドライバーを確保し、できるだけ公共交通に近づけている。乗りたい時にアプリを開くと、遅くても5分以内で来るドライバーの数を各地域で供給できるよう調整しています。

安全面でも、UberもLyftも、SOSボタンを装備し、そのボタンを押すと地元の警察に連絡が行って、ドライバーが誰で、車がどこを走っているかがわかるようになっています。

また、スマホを使えない人の問題は、アメリカでもあるようです。そういった人に対しては、スマホのアプリだけではなくて電話対応を入れたり、ショートメールで配車ができるようにしたり、現金で対応できるようにするなどの努力をしているようです。

自動運転の可能性

田邉 次に自動運転について詳しくお話を伺えたらと思います。地方部での移動は、相当な高齢者でも車で移動していて、痛ましい事故が起きていることも最近報道されているとおりです。

自動運転の見通しについてはいかがでしょうか。

西村 先ほども申し上げたとおり、現状は自動運転と言ってもドライバーレスではないので、高齢者に自動運転の車を提供しても、実は事故が増えてしまうのではないかと私は思っています。

ただ、おそらく10年もあれば結構技術的には進展していると思います。このあたりは5GやICTの技術力も関係してくると思いますが、相当なレベルに行っている可能性はあるので、高齢者にも安全を提供できるようになるでしょう。

とは言え、「最悪の場合を考える」ということが、安全を考える上では大事です。例えばマイクロモビリティの場合でも、それが走るエリアには大型の車は入れないとか、万が一にも事故が起きた場合でも、乗っている人がダメージを受けないことを前提にして交通の整備をしなければいけません。自動運転の車そのものの技術だけではなくて、やはり全体の環境を安全な状況にするというケアもしないと、コミュニティではうまく行かないと思うのです。

重野 自動運転に関しては、今各国とも急速に技術開発、研究開発を進めています。日本では総合科学技術・イノベーション会議が主導する内閣府の戦略的イノベーション創造プログラム(SIP)を中心に推進されています。

見通しを申し上げますと、2025年を目途に高速道路でのレベル4の自動運転の実現を目指しています。運転条件が「高速道路であれば自動運転できます。ただし、緊急事態は人間が対応しなければいけません」というものです。

完全手放しで自動車にお任せ、というのがレベル5なのですが、これも例えば限定領域を狭めれば技術的に対応できる範囲は広がるわけです。しかし、2025年に高速道路でレベル4という話であっても、一般道はどうなるのか、何とも言えません。

だからいわゆる限定解除の、どこでも自動運転で対応します、というレベル5の実現は、個人的には2035年か、それ以降になるのではないかと思うのです。技術を推進する立場としては、「すぐにでもできますよ」と申し上げたいところですが、高齢者が1人で乗って、「あとは車にお任せで大丈夫」となるには、思ったよりも時間がかかると思っています。

もう1つ、コストの問題があります。オーナーカーを自動運転対応にするというのは、なかなかハードルが高いです。もちろんお金持ちの方はお買い上げいただければいいのですが、地方で日々の足として使いたいので、今持っている軽自動車を自動運転対応にしたいというレベルで考えると、やはり時間がかかると思います。

このように、日本の車が全部自動運転になるには相当時間がかかるので、おそらく、自動運転車と普通に運転する車が混在する状態が続きます。それが実は自動運転車を運用するのに一番難しい環境なのです。そうすると、やはり工夫が必要です。

例えば専用の軌道をつくるといった環境まで考えて、初めて地方の交通に自動運転を入れることができるのではないかと思います。ここ数年のオーダーで考えると、普及のスピードというのは技術開発とそういった環境の両方を見ながら考えていく必要があるかなと思います。

田邉 20年後は完全にドライバーレスになるということでしょうか。

重野 技術的にはなると思います。あとは受け入れる側、社会がどう思うかですね。

インフラ側との協働

田邉 条件を限定すれば、現状の技術でもある程度実行可能ということなら、例えば地方であれば、一般道で地域の集落の中心から病院、スーパーまでの往復を自動運転車でやるようなことは、それほど難しくないのでしょうか。

重野 具体的な場所を見て検討しないと何とも言えないのですが、一般的には、条件をいろいろとつけていけばいくほど、実現しやすくなります。例えば人や自転車の飛び出しがないようにできるのであれば、それだけでもずいぶん話は変わると思います。

不測の事態にどう対応するのかというのが自動運転の課題なので、コントロールされた状況になればなるほどやりやすくなるのです。

田邉 なるほど。インフラ側がある程度モビリティ側を支援する、ある程度の協働といったようなものがやはり必要だということですかね。

重野 技術的には、インフラ側と運転側で何ができるかというのはずっと議論があるのですが、これまではあまり進んでいませんでした。ただ、基本的には自動運転の研究が進む中で、やはりインフラ側からの支援も必要だよね、という話にはなってきています。

西村 昔からあるITSの技術も使ってという話も出てきていますね。例えば最近では、信号機が青なのか赤なのかを、カメラで識別するだけではなくて、インフラ側から情報を流して車両側に渡すといった補助を取り入れ始めている。

AIを積むことでカメラ画像でいろいろなことがわかるようになってきたので、例えば狭いところから人が飛び出してくるということを、即時に自動車側に伝えて、その情報によってきちんとブレーキングしてくれるといったことはすでにやれますよね。

重野 そうですね。そういったインフラ側のことも含めて、私ども技術にかかわる人間としては、「自動運転はできます」という立場にしておきたいと思います。

普及の話に戻りますが、オーナーカーよりも、業務用の車両のほうが先かもしれません。今コロナ禍で、海外でも物流の輸送の自動運転の議論が始まっています。自動運転車のコストを回収できる可能性は業務車両のほうが高いでしょうから。

西村 業務用トラックの運転手もやはり高齢化が進んでいると言われていますので、そういうところでの安全をまず確保できたら、非常に良いことなのではないかと思います。

田邉 そうなんですよね。人手不足で、トラックもバスも運転手が集まらないので、そのあたりの問題も解決できるかなと期待しております。

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