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【特集:人口減少社会のモビリティ】
ニュータウンを支える「まちなか自動移動サービス」/泰平 苑子

2020/07/06

  • 泰平 苑子(やすひら そのこ)

    株式会社日本総合研究所創発戦略センター マネージャー・塾員

郊外ニュータウンの高齢化と移動課題

日本では、戦後の高度成長期に産業構造の転換が起こり、都市圏への人口集中と住宅供給量の不足に対応するために都市部の郊外や周辺市町村に多くのニュータウンが開発されました。これら1970年代に開発された郊外ニュータウンには、都市部で働く20代や30代の会社員とその家族が環境の良さを求めて移り住みました。

2010年を過ぎると、入居当時に働き盛りだった世代は60代を超えて、定年退職を迎えます。子どもたちは独立し家を出ており、夫婦2人世帯や死別などによる単身世帯が増えました。住民の高齢化と生活の変化に合わせて、住宅の老朽化、バリアフリー化の遅れ、近隣センターなどの衰退、小中学校の遊休化など、多くの問題が顕在したのが現在の郊外ニュータウンです。

なかでも坂や階段の多い丘陵地のニュータウンでは、徒歩や自転車での買い物や通院は大変です。そのため高齢になっても自家用車を保有し、日常的に運転します。なぜ、バスなど公共交通を利用しないのでしょうか。バスはニュータウンの中と外をつなぐ交通手段です。住宅地の狭い道路では、バスの走行・停車が難しく、バス停があるのはニュータウンの主要道路沿いです。主に通勤通学で利用されるため、昼間の運行本数は限定的です。そのためニュータウン内の移動に適しません。

高齢者による交通事故を未然に防ぐため、運転免許証の自主返納を勧める声があります。しかし、自家用車が無いと日常生活の維持がとても難しいです。そこで自主返納の促進と合わせて、自家用車の代わりになる近隣移動サービスが求められます。

移動を支援する「まちなか自動移動サービス」

筆者が所属する株式会社日本総合研究所では、住宅地内外の移動を支援するサービス(以下、「まちなか自動移動サービス」)の検討を進めています。まちなか自動移動サービスは、住宅地内における「近隣移動サービス」と「公共交通との連携」を通じ、多様な移動手段を用意することで地域内での移動のしやすさを高める取り組みです。目的地までの移動を容易にすることで、高齢者も安心して住み続けられるようにするとともに、住民間の交流や商店などの活性化を図ります。

「近隣移動サービス」とは、低速で走る小型の自動運転車両を用いたデマンド交通です。自動運転は、将来的にはレベル4と呼ばれる運転手が不要な自動走行を想定していますが、法制度・技術・運用・社会受容性の観点から、初期段階では運転手が同席するレベル2の運転支援、またはレベル3の条件付き自動運転の予定です。住宅地の狭い道路を走行し、安全運転や旅客輸送に注意を払い続けることは、運転手の負担が大きいため、自動運転はその負担を軽減する役割が求められます。

「デマンド交通」とは、設定した区域で利用者のデマンド(呼び出しや予約)に応じて乗合輸送を提供するサービスです(道路運送法の「一般乗合旅客自動車運送事業の区域運行」や「自家用有償旅客運送」など)。デマンド交通は、地域の特性に合わせた柔軟性の高い運行形態(ルートやダイヤや停留所)が設計できます。従来は電車やバスの事業や路線が撤退・縮小した地域(交通空白地域や交通不便地域)などで導入されていました。近年は既存の公共交通機関の運行を補完するため、郊外住宅地や市街地でも導入が進んでいます。「まちなか自動移動サービス」では、AIを用いたリアルタイムで複数のデマンドの乗合マッチングを行うオンデマンド交通システムを活用しています。

「公共交通との連携」とは、ニュータウンの会員制ポータルサイト(以下、「まちなかポータル」)を用いて、バスやタクシー、そして近隣移動サービス(低速の自動運転車両を用いたデマンド交通)の情報閲覧や利用ができる仕組みです。市街地からバスで郊外ニュータウンまで戻った後は、予約した近隣移動サービスに乗り換え、自宅付近に向かう利用が想定されます。

(YouTube「 まちなか自動移動サービス」で検索)

新たな利用者層(子育て世帯と子ども)

2019年度に2カ月間実施した「まちなか自動移動サービス」の実証実験(関係者などを除く登録会員773名)では、移動課題を持つ60代以上の高齢者を主要顧客に想定しました。すると、高齢者の利用も多かった一方、実は子育て世帯と子どもの利用も一定数ありました。自治会館での習い事ではリピート利用され、保護者とお子さん、子ども同士など、複数人での利用も多く見られました。

郊外ニュータウンは高齢化が進んでいますが、バブル崩壊やリーマンショックなど経済の転機に伴い、都市部や市街地から少し離れた郊外ニュータウンの空き家や土地の価格が、若い世代にも手が届く範囲になったため、転入が少しずつ進んだのです。

実証後のヒアリングで子育て世帯にお話を伺うと、以下のような声をいただきました。

・ 普段、子どもが高齢者と接する機会が少ないため、高齢者がゆっくり乗り降りする姿を見て、子どもが何か感じることがあったようで、良い機会だった。

・ 普段は会わない人とも、短い時間だけど一期一会で話すことができ、母親同士の情報交換ができた。

・ 車内スペースに余裕があるので、ベビーカーやママバッグなど荷物を置けて良かった。

・ 自宅付近から習い事教室まで子どもだけで利用でき、保護者の送迎が不要になった。

・ 知らない人と乗り合うけれど、会員制のため、運営側が身元を把握していて安心だ。

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