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【特集:人口減少社会のモビリティ】
ニュータウンを支える「まちなか自動移動サービス」/泰平 苑子

2020/07/06

子育て世帯と子どもの移動課題

子育て世帯と子どもは、通常はどのように近隣移動をしているのでしょう。「平成27年全国都市交通特性調査(国土交通省)」の年代別集計を見ると、30代女性の私事の移動目的(平日)は、「買い物」や「食事等」を超えて「送迎」が多い(男性の8倍)ことが分かりました。送迎手段は自家用車(33%)と自転車(30%)が多く、バスの利用は1%に留まります。子どもの交通手段でも、公共交通の利用は限定的でした。年代から想定すると送迎対象は子どもですが、子どもの送迎を含む子育て世帯と子どもの移動には、公共交通では充足が難しい、何らかの移動課題やニーズがあると考えられます。

非公共交通(自家用車・自転車・徒歩)にも課題があります。妊婦の方は、大きなお腹での運転に不安を感じます。保育園や幼稚園、塾や習い事の送迎は、施設周辺での駐停車が周辺交通の妨げになることもあります。幼児用座席を設置した自転車の利用は、転倒事故の危険と隣り合わせです。ベビーカーや抱っこ紐の利用や、小さなお子さんと手をつないだ徒歩での外出は、移動の安全に気を遣います。雨の日など悪天候では、自転車や徒歩で移動する負担はさらに大きいでしょう。

持続可能な地域形成には、地域に転入する若い世代や将来のまちづくりを担う子どもたちの参加が重要です。子育て世帯や子どもに優しい近隣移動サービスは、高齢者にも利便性が高く、住民全体の買い物や食事など外出意欲の向上も期待でき、地域回遊性の向上や地域経済の活性化につながります。高齢者、そして子育て世帯と子どもが利用する近隣移動サービスは、今後のまちづくりの重要な要素になると私たちは考えます。

近隣移動サービスの課題

しかし、住宅地内限定の近隣移動サービスは、移動距離の短さから運賃収入が限られるため、事業性が乏しく、ニーズの有無にかかわらず実装の困難さが指摘されます。運行費用の多くを占めるのは人件費です。自動運転の技術が進展し、運転手が不要になるまでは、プロの運転手(2種免許保有者)に運転してもらいたいのですが、十分な人件費の確保が必要です。地域住民に2種免許を取得してもらい、ボランティア精神で運転してもらう方法や、自家用有償旅客運送など普通免許で乗合輸送をする案もありますが、それでも運賃収入で運行経費を全て賄うことは難しいでしょう。

「まちなか自動移動サービス」が挑戦するのは、自治会などとの連携を通じた地域の自助・共助と民間サービスとの組み合わせによる、移動サービスのエコシステムづくりです。地域の商店などと連携することで、運営に必要な資金が循環し続ける仕組み(以下、「ローカルMaaS」)の構築を目指しています。近隣移動サービスだけでなく、公共交通との連携、そして非交通サービスとの連携を含めたローカルMaaSを構築することで、近隣移動サービスの事業持続性につながると考えます。

ニューノーマルで変わる郊外ニュータウン

新型コロナウイルスの感染拡大により、私たちは3密を避けて暮らしました。感染の終息後もニューノーマル(新しい日常)として、新たな価値観が生活に反映されるでしょう。すると課題が多い郊外ニュータウンの価値は見直されます。郊外ニュータウンは住宅の敷地面積が広く、公園など緑もあります。交通量も少なく閑静な環境です。若い世代が移り住むことに郊外ニュータウンはウェルカムです。新規戸建ては難しくても、状態の良い中古戸建ては若い世代に魅力的です。時には近所のお店でランチやテイクアウトも良いですね。空き家や自治会館の一室をシェアリングオフィスにするのはどうでしょう。もちろん、地域内を巡る近隣移動サービスがあれば、郊外ニュータウンでのニューノーマル・ライフもより過ごしやすいものになるでしょう。

※所属・職名等は本誌発刊当時のものです。

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