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【新塾長対談】「慶應義塾の目的」の実践へ向けて

2021/07/07

慶應義塾大学病院の先端医療

国谷 慶應病院・医学部のことをお聞きしますが、今日、岡野栄之教授がIPS細胞を使った研究によって見つけられたALS治療薬の有効性が確認できたというニュースが出ていました。

伊藤 岡野さんは世界トップの研究者の1人ですが、他にも多くの優れた生命科学者がいます。また、私はある時に病気をして慶應病院の先端医療で治してもらった経験があります。以来、医学部や病院の医師や研究者たちと密に過ごす時間が多くなり、薬学部や看護医療学部も含めて、慶應義塾が全体として世界トップレベルで先端医療を追求する姿を目の当たりにしてきました。

日本では医療保険が整備されているので、どなたでも同じような状況で治療が受けられる。例えば私が受けた治療は、費用対効果が悪く、欧米では実施しない。よって私は助からなかったのです。でもそれを、保険適用として、私だけに限らず他の人にも平等に施すというのが慶應医療のすごいところです。

国谷 そうですね。日本の医療システムの良いところですね。

伊藤 しかもそれが先端医療を切り拓く道でもある。慶應医療はそういうことに取り組んでいるのです。

一方、慶應義塾の経営を任された立場としては、保険医療という枠組みのなかで先端医療を追求することは経営的にとても厳しい。よって私が病気を経験しなければ、現場の医療スタッフのすごさがわからずに、無駄なのではと勘違いしたかもしれません。でもコストがかかって症例は少なくても、それをやることによって世界から大変な注目を浴びるのですから、そのレピュテーションはすごいものです。実際に他では治せない患者を受け入れています。それも誰でも平等に! この良さを保ちながらも、病院経営を無理なく向上させる方策を考えていきたいと思います。

かけがえのない学生生活への責任

国谷 塾長になられて取り組みたいことは、リストアップされていますか。

伊藤 学部2年生がこの1年半、新型コロナによって普通のキャンパスライフを送れないままなんですね。大学のミッションの1つとして、大学生活を人生の好循環の起点にしてもらいたいということがあります。ここに来たから、よい仲間、生涯の友にも出会えたし、慶應義塾での学びや経験が将来につながっていくという、よい人生のスタートを切れる場所にしてあげたい。

よって、今の2年生たちが、慶應義塾大学を選んで良かったと思って卒業できるかが勝負です。コロナ禍の中でも慶應義塾で学んで良かったと思ってもらえるような環境をなんとかしてつくりたい。

国谷 時間を取り戻せないですものね。

伊藤 そうです。いくら、世界では貧困で苦しんでいる可哀想な人がいます、君たちは恵まれているのだから我慢しましょうと言っても、やはり学生にとっては4年間が自分の学生生活ですから、それはかけがえのないものです。大人から見たらたったの4年間に見えるかもしれないけれど、それは全然違うのです。

大学生・大学院生のために何ができるかに加えて、一貫教育校の小中高生のために何ができるかを考えることが私の責任です。

国谷 いや、本当に重責ですね。

伊藤 本当に重責です。ただ、素晴らしい10名の仲間が常任理事に就任してくれました。優秀で、責任感が強く、国際感覚に優れ、学生思いで、前向きで、各部門としっかり議論ができる人たちです。新しくSDGsや起業家教育の支援も任務として加えましたので頑張っていきたいと思います。

国谷 ミッションの伝道者として大変期待しております。今後ともよろしくお願い致します。

(2021年5月21日収録)
※所属・職名等は本誌発刊当時のものです。

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