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特別座談会:「コロナ報道」を考える──リスク社会のメディアのあり方

2020/07/10

オンラインジャーナリズムの役割

大石 ツイッターなどのSNS世論とは別に、「BuzzFeed」や「ハフィントン・ポスト」など一部のいわゆるオンラインメディアによる記事配信も今回目立っていたような印象を受けます。

また、そもそもその基盤となる、Zoomなどでのオンライン上でのコミュニケーションメディアが普通になったのが今回の大きな変化ですね。

 今回ほどオンラインコミュニケーション、そしてそれを支えるITメディアがあらゆる生活の領域で基幹メディア化したことは今までなかったと思います。

大学の教育で、今、ゼミや授業はZoom等を使って遠隔でやっているわけですが、これがないと成立しないというほど決定的な役割を果たしている。ここまで基幹メディア化しているのであれば、以前ユニバーサルアクセスという言葉が言われていましたが、皆がアクセスでき、使える状況にしないといけないと思いました。慶應も、Wi - Fiが使えない学生たちにレンタルWi - Fiを契約してもらって、それを大学が肩代わりしましたが、アクセスを保証し、収入等にかかわらず授業が受けられるようにしないといけません。

また、ZoomやGoogleといったIT企業にどこまで資料保存等のセキュリティを期待できるのか。それも実はよくわからない。当初、Zoomはサーバーが中国にあるということで、セキュリティに対する不安の声が上がったこともありました。

だから、われわれが生活のすべての領域で頼らざるを得なくなった、このオンラインのプラットフォームとなっている様々なサービスに対して、ある種の社会的責務、法的責務を求めていくことも必要なのではないか。その公共性も問われているのではないかと思うのです。

烏谷 ジャーナリズムの問題に引き寄せて言うと、世界を見た時、今回のコロナの経済的な打撃で、いわゆる地方紙、紙メディアで経営基盤が非常に脆弱なメディアがどんどん倒産したり、あるいは記者を解雇しています。

アメリカの場合、もともとインターネットが出てきてから地域に密着した紙のメディアの経営が厳しくなって、数多くの会社がつぶれていったのですが、そうすると、地域によってニュースの砂漠と言われるものが出てくる。地方紙がなくなり、地域の問題を掘り起こして社会問題を世の中に提供していくようなジャーナリストの監視の目が光らなくなると、様々な問題がそのまま棚ざらしにされるようなケースが出てきたわけです。

そういったニュースの砂漠を何とか埋めなければいけないという問題意識を持った人たちが、新しくニュースを配信するような仕事を始める時、コストがあまりかからないオンラインでやるしかない。そのようにオンラインジャーナリズムは、紙のメディアでできなくなってしまった仕事をオンラインでやるという流れがずっとあると思います。

日本の「BuzzFeed」の創刊編集長の古田大輔さんはもともと朝日新聞の方で、日本におけるオンラインジャーナリズムの重要なキーパーソンです。以前、伺った話では、主要紙が毎朝どういうニュースを持ってきて日本社会に対してアジェンダを設定しようとしているのか、まず必ずチェックすると。そして、その主要紙の盲点になっているようなところを意識してニュースをつくっているとおっしゃっていました。

そうやって視聴者がマスメディアのニュースを見て疑問に思っているところに「BuzzFeed」の記者が痒いところに手が届くニュースをつくって配信する。明確なポリシーのもとに自分たちの独自性を発揮しようとしているのではないかと思います。

大石 既存の、特に新聞、テレビニュースの隙間を埋めていくという役割ですね。それは例えば「週刊新潮」とか「週刊文春」、昔だと「朝日ジャーナル」といった週刊誌、雑誌がやろうとしていたこととは、どう違いますか。

烏谷 週刊誌という紙の雑誌の時代と比べるとスピードが全然違います。今は週刊誌の記事もオンライン化されているので、あらゆるメディアのスピードがあがっているとも言えますが、「BuzzFeed」はかなり小回りが利いて動きが機敏だなと思うことがよくあります。

変質するニュースのカルチャー

大石 私も、「BuzzFeed」はお気に入りに入れて見るようにはしています。今回のコロナ報道のような専門性のあるものは、自分の取材記事というよりインタビューで引き出すという方法ですよね。他の記事を見ていると、実は発表報道的なものも結構多いように思います。

気になるのは、今は既存メディアでトレーニングを受けた人が、「ハフィントン・ポスト」でも「BuzzFeed」でも活躍している。果たしてこれから世代交代が進んだ時に、記者・編集者としてのトレーニングの場があるのだろうか。まだ1人1人の個人の力量に依存しているところが結構あるのかなと。そういう不安がジャーナリズムの組織という面ではぬぐい切れないところがあります。

烏谷 正直、「BuzzFeed」みたいなメディアがこの先、どう展開していくかは私にもよくわかりません。ただ、主要紙のニッチな部分を、スピード感を持ってやっているという意味で、割と上手く、特に若い人などを中心にニュースを届けることができていると思います。

今の、いわゆるデジタルネイティブの若い人たちにニュースのカルチャーを根づかせる上で、おそらく独自の役割を果たしていると僕は思うんです。

大石 なるほど。では山腰さん、最後の締めをお願いします。

山腰 ニュースのカルチャーということで言えば、今これだけメディア環境が大きく変わっている中で、ニュースというのはそもそもどういうものなのか、その境界線が非常にあやふやになっているわけです。

だからワイドショー的なものがニュースという形で多くの人々に理解されている。おそらくオーディエンスの多くは、情報番組と報道番組を区別することなくニュースだと捉えているのではないでしょうか。さらにソーシャルメディア上で行き交う専門家の発言、あるいはプロフェッショナルなジャーナリストがつくったニュース、政府の公報も含めてあらゆる公的な情報がニュースなのだという認識になっている。そこへフェイクニュースの問題などが絡んできているという状況があると思います。

フェイクニュースの問題は、やはり日本でも、新型コロナウイルスのようなリスク状況下では、ソーシャルメディア上に間違った噂が拡散しがちだということが今回わかりました。そして、一方でニュースメディアに対する不信があって、これがプロのつくった情報だといくら説明してもなかなか取り合ってもらえない状況があります。

だからこそわれわれ教育者の役割もあると思うのですが、これまで主張されてきた批判的に情報を読み解きましょうとか、自分で情報を発信しましょう、という従来型のメディアリテラシーの次元を超えて、ニュースというのはこういうものなのだという理解を定着させていくことが、ますます求められているのではないかと考えます。

大石 今日は皆さんのお話を聞かせていただいて、大変勉強になりました。有り難うございました。

(2020年6月1日、オンラインにより収録)

※所属・職名等は本誌発刊当時のものです。

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