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【特別対談】「慶應建築の系譜」

2020/02/29

SFCの建築

 日吉の図書館をつくってしばらく後、石川塾長に呼ばれ、「今度、藤沢にキャンパスをつくるのでやってくれないか」という依頼がありました。すぐ始まるのかと思ったら、遺跡の調査があり、1年ぐらいやるのが遅れました。

その頃、他の大学では、何万平米もある大きな建物をつくるのが流行ったのですが、石川塾長から、ビレッジのようなキャンパスをつくってほしい、と言われ、できたのがSFCのキャンパス(⑯)です。

非常に野趣の豊かなところで、正面性はあったほうがいいだろうということで、キャンパスに来る人は正面から入ってくる。また、図書館は、すべての大学の活動の中核的なところです。

キャンパスの南側にある大きなコンプレックス(建築群)が谷口吉生さんの設計された湘南藤沢中高等部(⑰)です。

谷口 槇先生が設計なさった大学のキャンパスの中に、中高一貫の6年制の学校として、独自の領域をつくろうと思い、コートハウス(中庭形式)的というか、周りを一般教室で囲む構想にしました。そして、中心部分に共用で使う図書館、特殊教室や体育館を置き、教室との間に広場をつくりました。生徒たちが6年間を過ごすために、小さな街のような学校をつくろうと考えたのです。

ただ、問題なのは、コートハウス的にすると増築が難しいことです。「増築はしなくていいのですか」と聞くと、「増築はあり得ない。アセスメントでも法律的にも困難だから」という話だったので、そのようにしたのですが、それから二度増築しています(笑)。

 ここには私の孫娘が、今、ユーザーとして入っています。これは谷口さんらしい建物ですね。

谷口 校舎の中に広場や路地のような場所をたくさんつくり、休み時間に先生と生徒が話し合ったり、友達同士が出会ったりできるようにしました。藤沢というところは周りに街がないですから、学校の中で楽しい空間、いろいろな出会いの場をつくりました。

教室(⑱)の配置は大きなチャレンジでした。通常、学校は全部東南に向いた一列の建築ですが、なるべく賑わいのある空間をつくろうと思い、コートハウスにしたわけです。そうすると、オリエンテーションがみんな変わってしまうので、教室を一対にして、その間に光庭を設け、そこから自然光を間接的に取り入れている。これは賛否両論があったのですが、あまり大きな問題は聞こえてこなかったので、安心しました。

 このキャンパスの北側に小林先生がやられている未来創造塾があるのですね。

小林 有り難うございます。今、全体の敷地の中のいちばん北の部分に、学生が主体になり、SFC未来創造塾 Student Build Campus(SBC⑲)というものをつくっています。もともと慶應義塾の150年記念のときに、これからの未来のキャンパスをつくろうということで始まった計画です。教職員も卒業生も現役の学生も一丸となりこれをつくっていくプロジェクトを2014年からやっています。2016年には1期、滞在棟1、2年後には滞在棟2ができました。

⑯湘南藤沢キャンパス(撮影:北嶋俊治)
⑰湘南藤沢中高等部
⑱湘南藤沢中高等部教室
⑲SFC未来創造塾(SBC)

 また、三田の図書館旧館の耐震補強がだいたい終了し、塾史に関する展示をするという話があり、真ん中の大きいスペースを歴史展示室にしようと、現在、関係者と協議しています。かつての大会議室の外装、カーテンや真ん中の絨毯の色のついたところだけを残しながら、塾史についての展示物を見せられる計画があります。このようなところが、私たちがやってきた塾の建物の歴史です。

一つ大事なものがありました。金沢市に新しく谷口吉郎・吉生記念 金沢建築館(⑳)というものができたのですね。

谷口 金沢市には加賀藩の時代からの歴史的建造物、それから、明治時代のレンガ建築など、いろいろな近代建築もあります。今日は妹島和世さんがいらっしゃっていますが、妹島さんと西沢立衛さんが設計された金沢21世紀美術館は素晴らしい現代建築です。私も小さい建築ですが鈴木大拙館を設計しました。

そういうことで、金沢には建築を見に来る方が非常に多くなりました。そして父が育った家で、私も戦争中に疎開した家があった土地に、金沢市が建築の美術館を建設しました。その「谷口吉郎・吉生記念 金沢建築館」が今年(2019年)の夏にオープンすることになりました。

常設展示室には父の設計した東京の迎賓館の赤坂離宮の和風別館の中の和室と茶室をそのまま復元してあります。

 私は去年(2018年)、90歳になりました。親しい方をお呼びしたときに、この絵(㉑)を1枚差し上げました。いちばん左上はハーバード時代の25歳、その下はイランのペルセポリスでの国際会議のときに建築家アルド・ロッシ、ジェームズ・スターリング、ヴァン・アイクとともに。右下が70歳です。上が現在です。

「なぜ、まだ仕事をしているのですか」という質問に対し、「いや建築家はニンジンがあれば追いかけているんです」と答えているんです(笑)。これは谷口さんも、建築家の方は皆、同じだと思うのですね。何かやることがあればこんな馬のように走っている。

谷口 これを見たときに、皆さんが「馬は槇さんなのか、施主なのか、スタッフなのか、どれだ」と言っていました(笑)。

⑳谷口吉郎・吉生記念 金沢建築館
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